非常に立派なサイズの800シルバー製メダイ。上部の孔に通された環も、800シルバーでできています。最大 3.5ミリメートルもの厚みがありますが、中身は空洞ではなく、真正の銀無垢メダイです。手に取ると心地よい重量感があります。
一方の面には、フルール・ド・リスの連続模様を背景に、正面向きの聖母が表されています。年若きマリアは天使ガブリエルに受胎を告知され、「わたしは主のはしためです。お言葉どおり、この身に成りますように」(ルカによる福音書
1:38)と答えて、すべてを神に委ねました。まっすぐに天上を見つめる若き聖母の表情はあくまでも柔和で、神への変わらぬ信頼が、そのまま意志の強さとなっていることをうかがわせます。聖母の後光はヴェルメイユ(銀に金を被せる技法)で表現され、天上の輝きを放っています。
聖母像の下にはラテン語で「ウィルゴー・フィデーリス」(VIRGO FIDELIS 揺るぎなき信仰のおとめ)と記されています。聖母の背景の花は百合のようにも見えますし、上下を反転したすずらんのようにも見えます。白百合は純潔を象徴し、また「雅歌」 2:2の聖句「おとめたちのなかにいるわたしの恋人は、茨の中に咲きいでたゆりの花」によって、聖母マリアの象徴とされます。一方、すずらんは、フランスの民間伝承において、イエズスの十字架の下で聖母が流した涙から生え出でたといわれ、どのような悲しみに遭っても神への信仰を棄てなかった聖母マリアにふさわしい花です。
もう一方の面は 19世紀のロザリオのセンター・メダルと同様、上下を反転して製作されています。中心になるのは「アウスピケ・マリアエ」(AUSPICE
MARIAE マリアの庇護の下(もと)に)を表す "M A" のモノグラム(組み合わせ文字)で、円に囲まれた小さなラテン十字の連続を背景にして、メダイの中央に大きく配されています。上下が反転しているために、「アウスピケ・マリアエ」のモノグラムは天から下る鳩(聖霊)にも見え、ユグノー十字に似たフランスの古い信心具、サン・テスプリ (saint-esprit) を連想させます。モノグラムの周囲にはフランス語の女性名と日付が刻まれています。
Andrée Couratin, 26, mai, 1921 アンドレ・クラタン 1921年5月21日
メダイ上部の孔付近に、800シルバーを示すフランスのホールマーク(イノシシの頭)が刻印されています。
フランスは第一次世界大戦の戦勝国として、1919年のヴェルサイユ条約によってアルザスとロレーヌを取り戻し、ドイツから巨額の賠償金を得ることとなりました。前世紀に普仏戦争(1870 - 71年)で敗北して以来、フランスを蓋っていた重苦しい空気がここで一挙に解消し、フランスは幸福な繁栄のひとときを迎えました。
このメダイが制作された 1921年は、このような事情で、フランスの国力が飛躍的に増大した時代でした。しかしこのようにフランスが豊かになった時代でも、銀(800シルバー)製のメダイは他の合金製のものに比べてずいぶんと高価で、たいていの場合、ごく薄く作られています。ところがこのメダイは、他の銀製メダイはもちろんのこと、どの合金製メダイと比べてもはるかに分厚く作られており、ナゲット(銀塊)のような重量があります。したがって非常に高価な品物であったはずで、よほど大切な日の記念の品と思われます。娘が聖母に倣って信仰深く人生を歩んでゆくようにと願い、裕福で信仰深い両親が、洗礼式か初聖体の記念として、愛娘に贈ったものでしょう。
メダイのコンディションは、縁にかかる文字 (VIRGO FIDELIS) の一部分に軽い摩耗が見られる程度で、たいへん良好です。ヴェルメイユの金も剥がれていません。実物の浮き彫りは写真で見るよりもずっと立体的で、必ずご満足いただける商品です。