800シルバーで製作した透かし細工のメダイ。800シルバー(純度 800/1000の銀)は、古い時代のフランスにおいて、信心具に使われる最も高級な素材です。
表(おもて)面には、紡錘形の身光に包まれて立つ「無原罪の御宿り」が浮き彫りにされています。「無原罪の御宿り」なる聖母は両腕を広げて斜め下に降ろし、掌(てのひら)を前に向けて、罪人を腕の中に抱くかのように招いています。
紡錘形の身光は美術史で「マンドーラ」(mandorla イタリア語で「アーモンド」の意) と呼ばれ、ロマネスクの聖母像及びキリスト像に多用されます。本品のマンドーラ内部は聖母像の背景に細粒状の加工が施され、この部分が硫化して黒ずんでいるために、聖母像はいっそう輝きを帯び、あたかも聖性の微光に包まれるかのように見えます。
聖母の浮き彫りとマンドーラは、花びら状及び矩形状の透かし細工に囲まれています。矩形の枠はミル打ちのように小さな点が連続したデザインとなっています。聖母の左右には様式化した百合があしらわれています。「雅歌」2:2にある次の聖句に基づき、百合は聖母の象徴とされます。
Sicut lilium inter spinas, sic amica mea inter filias. (Nova Vulgata) おとめたちの中にいるわたしの恋人は 茨の中に咲きいでたゆりの花。
(新共同訳)
裏面には、フランスにおいて800シルバーを示す「イノシシの頭」のホールマークが、上部の環の基部に刻印されています。
シルバーのメダイは高級品で、初聖体をはじめとする重要な出来事を記念して購入され、肌身離さず身に着けられることが多くありました。このメダイも突出部分が磨滅し、上部の環に付けた吊り輪にも摩耗が見られますが、聖母の衣の襞や一本一本の手指、女性らしい胸のふくらみや、コントラポストの姿勢を示す左大腿部の突出等、細部までよく残っており、百年以上前の品物としては充分に良好な保存状態です。真正のアンティーク品ならではの軽い摩耗が聖母像に優しい丸みを与えるとともに、最初の持ち主の深い信仰を伝えています。