可愛らしいサイズのブロンズ製四つ葉型メダイ。中央にフランスの守護聖女、リジューの聖テレーズ(テレジア Sainte Thérèse de l’Enfant-Jésus)を描きます。非常な手間をかけて制作された本品は、小さなサイズながら美術工芸品と呼べる水準に達しており、1925年にテレーズが列聖された際の記念メダイユと思われます。
テレーズを描いた部分は聖堂建築を連想させるカドリロブ(quadrilobe 四つ葉)を模(かたど)り、クラシカルな印象を与えます。ここに描かれたテレーズ像は「エマイユ・パン」(l'émail
peint)、すなわち手描きエマイユによります。
「エマイユ・パン」では、彫りくぼめた金属板上で白色ガラスを融解させて施したエマイユを素地とし、各色のフリット(fritte ガラス粉末)で描画してゆきます。フリットは粒子が特に細かいものを、ニンニクの精油等、焼成後に煤を残しにくいもので溶いて使います。描画には面相筆を使います。
「エマイユ・パン」は色ごとに焼成を行うため、窯入れは多数回に及びますが、変色や滲(にじ)みを避けるために、焼成温度の調整は困難を極めます。最後に無色透明のガラス(釉薬)を掛け、他の色よりも低めの温度で焼成して、表面の艶を得ます。
上の写真に写っている定規のひと目盛は 1ミリメートルです。テレーズの顔の直径はおよそ 2ミリメートル、目鼻口、手などの細部はすべて 1ミリメートル以下の極小サイズで描かれていることがわかります。色に関して言えば、ベースの白に加えて、黒、青、黄、肌色、赤、緑の合計七色が使われており、最後の釉薬を合わせれば、少なくとも四、五回、最大で八回の焼成が行われています。
上の写真は本品を男性店主の手に乗せて撮影してます。女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりもひと回り大きなサイズに感じられます。
本品はおよそ九十年前に制作された真正のヴィンテージ品ですが、保存状態は良好です。エマイユ画に特筆すべき剥落や破損は一切ありません。新品時の金めっきが磨滅してブロンズが露出し、長い年月のみが与えうる趣きを獲得しています。
本品は直径 11ミリメートルほどのサイズであるゆえに、常に身に着けるペンダントとしてご愛用いただけます。ガラスによるエマイユ画には褪色や変色の可能性が無く、永久に美しい色を保ちます。