厳寒のなか、自らの外套を断ち切って貧者に与えるトゥールの聖マルタンを一方の面に、野辺で羊飼いの仕事をする聖ドリュオンをもう一方の面に、それぞれ浮き彫りにした19世紀フランスのブロンズまたは真鍮製メダイ。
トゥールの聖マルタンはガロ・ロマン期のローマ軍人で、フランスの守護聖人ともされ、中世ヨーロッパにおいて最も人気があった聖人の一人です。外套を与えるシーンは聖マルタンの図像表現において最もよく見られるもので、聖マルタンとほぼ同時代の人、聖シュルピス=セヴェールによる「聖マルタンの生涯」(De vita Beati Martini) が出典になっています。
とりわけ寒さが厳しい冬の日、アミアンの市門近くを軍馬に乗った若者マルタンが通りかかります。マルタンはこの場所で寒さに震える半裸の乞食を見つけますが、施す物を持ちません。そこでマルタンは太刀を抜くと、自らがまとう軍用の外套を真っ二つに切り裂いて、半分を乞食の体に優しく巻き付けています。この場面を取り巻くように、聖人に執り成しを求める祈りの言葉がフランス語で記されています。
Saint Martin, priez pour nous. 聖マルタンよ、われらのために祈りたまえ。
もう一方の面には二頭の羊とともに野辺にたたずむ聖ドリュオンが表され、聖人を取り巻くように、執り成しを求める祈りの言葉がフランス語で記されています。
Saint Druon, priez pour nous. 聖ドリュオンよ、われらのために祈りたまえ。
このメダイは普仏戦争(1870 - 71年)とそれに続く信仰復興の時代にフランスで制作されたものです。古い時代の浅浮き彫りにもかかわらず、表(おもて)面、裏面とも細部まで綺麗に残っており、たいへん良好なコンディションです。写真に写っていませんが、上部の孔に環を取り付けてお渡しいたします。