ごく小さなサイズのフランス製メダイ。厳寒のなか、自らの外套を断ち切って貧者に与えるトゥールの聖マルタンを浮き彫りにしています。「聖マルタンよ」(SANCTE MARTINE) とラテン語で呼び掛ける言葉が上部に刻まれています。トゥールの聖マルタンはガロ・ロマン期のローマ軍人で、フランスの守護聖人ともされ、中世ヨーロッパにおいて最も人気があった聖人の一人です。外套を与えるシーンは聖マルタンの図像表現において最もよく見られるもので、聖マルタンとほぼ同時代の人、聖シュルピス=セヴェールによる「聖マルタンの生涯」(De vita Beati Martini) が出典になっています。
とりわけ寒さが厳しい冬の日、アミアンの市門近くを軍馬に乗った若者マルタンが通りかかります。背景には立派な建物が見え、道のわきには雪が高く積まれています。マルタンはこの場所で寒さに震える半裸の乞食を見つけますが、施す物を持ちません。そこでマルタンは太刀を抜くと、自らがまとう軍用の外套を真っ二つに切り裂いて、半分を身にまとい、もう半分を乞食に与えました。
メダイの浮き彫りにはさまざまな細かさ、彫りの深さがあります。商品写真を見てもわかりませんが、このメダイの浮き彫りはたいへん立体的で、かつ細密であり、じっと眺めていると、小ぶりのサイズのメダイであることを忘れさせられます。上部の環に製造国を表す「フランス」(FRANCE)
の文字、及び鋳造した工房のマークが見られます。
フランスをはじめ全ヨーロッパで最も有名な聖人のひとりであるにもかかわらず、トゥールの聖マルタンに関連する信心具は稀少です。このメダイは古い時代の特徴をよく残しており、聖マルタンが「フランスの守護聖人」として脚光を浴びた第一次世界大戦の頃、あるいはトゥールのバシリカ、サン=マルタンが再建、献堂された
1925年頃に鋳造されたものと思われます。
表(おもて)面、裏面とも細部まで綺麗に残っており、たいへん良好なコンディションです。商品写真は実物を50倍近い面積に拡大していますから、メダイ表面のわずかな摩耗が良く判別できますが、この程度のごく軽い摩耗は、肉眼で実物を見ても識別できません。