マルグリット=マリ・アラコック (Ste. Marguerite-Marie Alacoque, 1647 - 1690) は、1920年、教皇ベネディクトゥス15世により列聖されました。本品はおそらく列聖記念に製作されたもので、メダイの素材としては最も高級な800シルバー無垢製となっています。指先に載るサイズですが、銀無垢であるために比重が大きく、手に取ると意外な重みを感じます。
メダイの一方の面には、聖母訪問会の修道女姿で祈るマルグリット=マリの上半身像を浮き彫りで表します。記録によると、たびたび内面に沈潜し神と対話したマルグリット=マリは、声祷(声に出して祈ること)を苦手としていました。このメダイの浮き彫りにおいても、聖女は両眼を開けていますが、その眼は魂の内面に向けられています。聖女に執り成しを求めるフランス語の祈りが、周囲を取り巻いています。
Sainte Marguerite-Marie Alacoque, priez pour nous. 聖マルグリット=マリ・アラコックよ。我らのために祈りたまえ。
800シルバーを示すフランスのホールマーク(イノシシの頭)、及びフランスの銀製品工房のマークが、上部の環に刻印されています。
メダイのもう一方の面には、イエズス・キリストの上半身を立体的な浮き彫りで大きく表しています。十字架のある後光を戴いたキリストは、左手で聖心を指し示し、右手を挙げて祝福のポーズを取っています。茨に取り巻かれた聖心からは、あまりにも強く烈しい愛が炎となって噴き出ています。
20世紀前半のフランスでは、19世紀に引き続き、キリストの聖心にフランスを奉献する「悔悛のガリア」の運動が盛んに行われていました。フランスの国土に未曾有の惨禍をもたらした第一次大戦が終結した二年後の1920年にマルグリット=マリが列聖されたとき、フランスの人々は19世紀から続く「悔悛のガリア」(Gallia poenitens) の運動に思いを致らせたことでしょう。高級な素材である銀を使用し、小さいサイズながらも肉厚に製作されたこのメダイには、新たに聖女の列に加えられたマルグリット=マリと心を一つにして、キリストの聖心に最高のものを捧げたいと願う当時の人々の純粋な信仰が籠められています。
本品は突出部分の磨滅により、真正のアンティーク品ならではの柔らかい表情となっています。商品写真は実物の面積を50倍以上に拡大していますので、磨滅した箇所がよく判別できますが、実物を肉眼で見ると美しい銀の光沢もあり、十分に綺麗です。百年近く前に製作された真正のアンティーク品としては良好なコンディションです。