家庭の守護聖人聖ヨセフと守護の天使 子供の生存を願う親の愛のメダイ 十九世紀フランスのアンティーク品 24.7 x 17.0 mm
突出部分を含むサイズ 縦 24.7 x 横 17.0 mm
フランス 1890年頃
1890年頃のフランスで制作されたブロンズ製メダイ。一方の面に聖ヨセフと幼子イエス、もう一方の面に幼い女の子と守護天使を刻みます。
本品の聖父子像において、堂々とした風貌と体格の聖ヨセフは、幼子イエスを自分の左側(向かって右側)に抱いています。その抱き方は両腕で包み込んで守るようでありつつも、幼子の足の下に右手を添えて、イエスが自分の足でしっかりと立てるように、父親らしい助けを息子に与えています。
父子は互いに睦みつつも互いを見つめ合うのではなく、ふたりを範とすべき人々の方へと顔を向けています。このような聖父子の姿勢と配置は、ホデーゲートリア(ὁδηγήτρια 救い主を世に示す聖母)型の聖母子像と共通しています。ヨセフは右手に白百合を持っており、聖ヨセフに執り成しを願う祈りの言葉が、父子を囲むようにラテン語で記されています。
SANCTE JOSEPH PURITATIS EXEMPLAR, ORA PRO NOBIS. 貞潔の鑑(かがみ 手本)なる聖ヨセフよ、われらのために祈りたまえ。
(上) Georges de La Tour, L’Apparition de l’Ange à Saint Joseph, c. 1640, Huile sur toile, Musée des Beaux-Arts, Nantes
聖父子像のヨセフが持つ百合は、ヨセフがマリアの浄配であること、すなわちマリアとの間に肉体関係が無いことの象徴と解されています。実際このメダイに刻印された祈りにおいて、ヨセフは「貞潔の鑑」(PURITATIS
EXEMPLAR)と呼ばれています。
しかるに百合の象徴性は多様であり、「純潔」を表す以外にも、「神に選ばれた身分」、及び「すべてを神に委ねる信仰」を表します。旧約の「雅歌」 二章二節ではユダヤ民族が「茨の中に咲きいでたゆりの花」に譬えられていますし、キリスト教では同じ聖句が神に選ばれたマリアを指すと解釈されています。また「マタイによる福音書」六章及び「ルカによる福音書」十二章では、栄華を極めたソロモンに勝って美しく装う百合が、神の摂理への無条件的な信頼、揺るぎない信仰を象徴しています。
ヨセフはイエスの父として神に選ばれました。また夢に現れた天使の言葉を信じて、懐妊したマリアを妻として受け入れました。それゆえ力強い父ヨセフが幼子イエスをしっかりと抱いている本品の図像において、百合は「純潔」を表すと同時に、「救い主の父として選ばれた身分」と、節理を信じて選びを受け容れた「すべてを神に委ねる信仰」をも表しています。
上の写真に写っている定規のひと目盛りは、一ミリメートルです。本品はスクリュー・プレスでブロンズを打刻して制作されていますが、聖父子の顔の各部や髪の流れ、手の指、百合の花などの細部はすべて一ミリメートル未満の極小サイズでありつつも、均整が取れた造形が為されており、メダイの母型が非常に丁寧に作られていることがわかります。
このページの商品写真は実物を数十倍の面積に拡大していますが、十九世紀当時の人々は本品を拡大せずに肉眼で見るだけでした。それに加えて打刻によるメダイは、美術品ではなくて信心具として製作されました。したがって本品には、これほどまでの精緻さは必要なかったはずです。それにもかかわらずメダイユ彫刻家が拡大写真での鑑賞に堪える精緻な作品を制作したのは、一つにはアーティストとして自ら納得がゆく仕事をしたかったためであり、一つにはこのメダイに自らの祈りを籠めたからでしょう。
本品の幼子イエズスは頭部に光背こそ戴いていますが、それ以外の点では普通の幼児と同様の描写です。すなわちヨセフに抱かれる幼子イエスは胸に大きく聖心が刻まれていたり、威厳ある祝福の身振りで右手を挙げていたりする場合も多いのですが、本品の幼子は神性を明示する仕草をしていません。腕を伸ばして掌を前に向けるのは罪びとを招き受け容れる仕草であって、無原罪の御宿リ像にもよく見られますが、本品のイエスは左手のみがこの仕草をしています。イエスの右腕は普通の幼児が抱かれるときと同じように父につかまっており、左腕が斜め下に伸びているのは偶々(たまたま)そのような姿勢を執っているだけにも見えます。要するに一言で言えば、本品の幼子イエスは、普通の幼い男児とほとんど変わらない様子に描かれています。
幼子イエスが普通の男の子のように表現されているのは、本品のもう一方の面に彫られた女の子と一組を為しているからです。さきほど筆者(広川)は、本品にはメダイユ彫刻家の個人的な祈りも籠められていると書きましたが、両面に「普通の子供」の姿を描いた本品には、「男の子も女の子も、子供たちがみな無事に成長するように」という親の願いが籠められているのです。
現在の先進国では、生まれた子供のうちのほとんどが、幼少期を無事に通過して大人になります。しかしながら十九世紀は状況が違いました。本品が作られた1890年頃、英仏独をはじめとする西ヨーロッパ諸国は世界で最も医療が進んでいましたが、それでもおおよそ
15パーセントの子供が一歳になるまでに、20パーセントの子供が二歳になるまでに、25パーセントの子供が五歳になるまでに亡くなりました。生きて成人できる子供は50パーセント弱です。1890年頃に子供を持っていた親自身の世代は状況がさらにひどく、1850年頃でいえば、上述の死亡率が各年代ともおよそ5パーセントずつ上がります。特にヨーロッパ・ロシア(Европейская
часть России ロシアのヨーロッパ部分)では、1896年から97年の統計で見ても、42.2パーセントの子供が五歳になるまでに死んでいます(
Coale, A.J. and Demeny, P., "Regional Model Life Table and Stable Populations", Princeton University Press, Princeton, 1966)。
要するに十九世紀のヨーロッパは先進国であったとはいえ、子供が死ぬのはごく普通のことでした。運が悪ければ、五人、六人と産んだ子供が全員幼児期に死んだり、十人産んでもひとりしか成人しないというようなことも、充分にあり得たのです。このような時代の親たちは、子供はいつ死んでもおかしくないものと半ばあきらめつつも、できることなら愛しいわが子が無事に成長してくれるように強く願い、祈りました。メダイユ彫刻家自身を含む大人たちのそのような願いが、一方の面に男児(幼子イエス)を、もう一方の面に女児を刻んだこのメダイユに結実したのです。
このような親の祈りを反映して、もう一方の面には守護天使に守られて歩む女の子の姿が浮き彫りにされています。天使と子供の浮き彫りを囲んで、フランス語の祈りが記されています。
O Saint Ange Gardien, soyez mon guide. 聖なる守護天使よ、わが導き手でありたまえ。
上の写真に写っている定規のひと目盛りは、一ミリメートルです。本品は突出部分がいくぶん摩滅して丸みを帯びていますが、浮き彫りの細部は十分に残っています。女児は五、六歳ぐらいでしょうか。子供らしい体形がたいへん可愛らしく、微笑みを誘います。
このメダイは百二十年以上前にフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、古い年代にもかかわらず保存状態は十分に良好です。商品写真は実物を大きく拡大していますから、突出部分の摩滅が容易に判別できますが、肉眼で見る実物は美しい古色に被われて、古いものならではの趣があります。
本体価格 7,800円
電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。
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