小さな美術品 ブイ作 「アッシジの聖キアラ」 銀無垢の美麗メダイ 直径 15.5 mm


突出部分を除く直径 15.5 mm

フランス  1920年代



 1920年代のフランスで制作された美しいメダイ。直径 15ミリメートル強と小さ目のサイズですが、信心具の素材として最も高級な銀でできています。

 アッシジの聖キアラ(聖クララ)のメダイは、大抵の場合、聖フランチェスコのメダイと表裏を為しています。しかるに本品は聖キアラだけを取り上げており、極めて珍しい作例です。筆者(広川)は長年に亙りメダイを取り扱っていますが、聖キアラだけをテーマに制作されて聖フランチェスコを伴わないメダイを見たのは、本品が初めてです。





 本品に浮き彫りにされたキアラは聖体容器(キボリウム)を手にしています。図像の聖人が誰であるかを判別する特徴的な衣服や持ち物を「アトリビュート」(英 attributes)といいますが、聖体容器はアッシジの聖キアラのアトリビュートです。1234年、キアラが院長を務めるアッシジの女子修道院に、神聖ローマ皇帝フリードリヒ二世軍の兵士たちが侵入しようとした際、病床にあったキアラがキボリウムを手に窓辺に立つと、兵士たちは梯子から落ち、逃げ出しました。キボリウムがキアラのアトリビュートとされるのは、この出来事によります。

 聖女に執り成しを求める祈りが、周囲にラテン語で刻まれています。

  SANCTA CLARA, ORA PRO NOBIS.  聖クララ、われらのために祈りたまえ。

 「クララ」(羅 CLARA)は「キアラ」(伊 Chiara)のラテン語形です。クララ、正確に書くとクラーラは、「明るい」「明瞭な」という意味のラテン語の形容詞(女性単数主格形)です。イタリア語の形容詞キアラ(女性単数形)も同じ意味です。

 聖女の右下(向かって左下)にはフランスのメダイユ彫刻家ブイのサイン (Bouix) と銀細工工房のマーク (AP) が刻まれています。メダイの最下部には「フランス」(FRANCE) の文字が見えます。上部の環にある花のような形の刻印は、フランスにおいて 800シルバー(純度 800/1000の銀)を表す「蟹」のポワンソン(仏 poinçon 貴金属検質所の刻印)です。





 本品の浮き彫りにおいて、聖体を持つキアラはごく若く、また粗い修道衣とは別に薄いヴェールを被っています。キアラの傍らには三輪の白百合が花開いて、三位一体による祝福を表しています。

 白百合は「純潔の象徴」であるとともに、「神とキリストに選ばれた身分の象徴」及び「神の摂理に対する信頼の象徴」でもあります。これらの属性が最も卓越的に当てはまる聖女はマリア(聖母)ですが、キアラもまたそのような聖女たちのひとりです。若きキアラが被る薄絹のヴェールは神への祈りを表すとともに、キアラが神とキリストに選ばれた花嫁であることを表します。

 キアラが神の摂理を全面的に信じる信仰の持ち主であったことは、聖座に対して請願を繰り返したのち、1228年9月17日になって教皇クレゴリウス九世から与えられた清貧の特権、「プリーヴィレーギウム・パウペリターティス」(羅 PRIVILEGIUM PAUPERITATIS)によっても知ることができます。これはキアラの修道会が農作業や手仕事からの収入によらず、ただ喜捨のみによって生きることを許可する内容で、修道会の経済的基盤を安定させるうえで、常人の判断からは考えられない事です。キアラたちに与えられた「プリーヴィレーギウム・パウペリターティス」のラテン語原本は、アッシジの聖キアラ修道院に残っています。以下に内容を示します。日本語訳は筆者(広川)によります。文意を通じやすくするために補った訳語は、ブラケット [ ] で囲みました。

     Gregorius Episcopus, servus servorum Dei. Dilectis in Christo filiabus Clarae ac aliis ancillis Christi in ecclesia Sancti Damiani Episcopatus Assisii congregatis, salutem et apostolicam benedictionem.    司教グレゴリウス、神のしもべたちのしもべが、キリストにあって愛する娘たち、すなわちアッシジ司教区聖ダミアーノ教会において共に住まうクララ以下キリストの婢(はしため)たちに、挨拶と使徒継承の祝福を[送る]。
         
     Sicut manifestum est, cupientes soli Domino dedicari, abdicastis rerum temporalium appetitum; propter quod, venditis omnibus et pauperibus erogatis, nullas omnino possessiones habere proponitis, illius vestigiis per omnia inhaerentes, qui pro nobis factus est pauper, via, veritas, atque vita.    すでに明らかなる如く、主にのみ身を捧ぐるを欲する汝らは、移ろい行く物事への欲を拒み、それゆえにすべての物を売り払い、[あるいはそれらを]貧者たちに与えて、全く何らの所有物をも持たざるを決意し、我らのために貧しくなり給い、道とも真理とも命ともなり給うた御方の足跡に、あらゆることを通して従う者たちである。
     Nec ab huiusmodi proposito vos rerum terret inopia; nam laeva Sponsi caelestis est sub capite vestro ad sustentandum infirma corporis vestri, quae legi mentis ordinata caritate stravistis.    汝等は物に乏しく貧しけれども、決意を枉(ま)げることがない。なぜなら[神にある]夫[キリスト]の左手が、汝らの身体の弱き諸部分を支えるべく、汝らの頭(こうべ)の下にあるからである。弱きそれらの部分を、愛に支配された精神の範によって、汝らは覆ったのである。
     Denique qui pascit aves caeli et lilia vestit agri vobis non deerit ad victum pariter et vestitum, donec seipsum vobis transiens in aeternitate ministret, cum scilicet eius dextera vos felicius amplexabitur in suae plenitudine visionis.    そして、空の鳥を養い、野の百合を着飾らせ給う御方は、ご自身が汝等のもとに来給いて永遠に司牧し給うまで、すなわちその右手で豊かなる至福直観のうちに汝らを抱き、より大いなる幸福に至らせ給うまで、食べ物に関しても、また同様に着る物に関しても、汝らの世話を放棄し給うことはない。
         
     Sicut igitur supplicastis, altissimae paupertatis propositum vestrum favore apostolico roboramus, auctoritate vobis praesentium indulgentes, ut recipere possessiones a nullo compelli possitis.    それゆえ汝等が請願したる如くに、より一層の貧しさを求める汝らの決意を、われらは使徒座に発する賛意を以て認め、汝らが何びとによりても所有物を受けるように強いられ得ざることを、ここなる勅許状の権威によりて承認する。
         
     Nulli ergo omnino hominum liceat hanc paginam Nostrae concessionis infringere vel ei ausu temerario contraire. Si quis autem hoc attentare praesumpserit, indignationem omnipotentis Dei, et beatorum Petri et Pauli Apostolorum eius, se noverit incursurum.    それゆえ、われらが与うる勅許に抵触し、あるいは無分別な大胆さを以てこの勅許に反対することは、何びとに対しても決して許されるべきでない。しかしながらかかる試みを敢えて為す者は、全能の神と、神の至福なる使徒ペトロ、パウロの怒りがその者に到ることを知るべきである。
         
     Datum Perusii, decimoquinto kalendas Octobris, Pontificatus nostri anno secundo.    ペルージアにて、わが教皇在位第二年の九月十七日に布告




(上・参考写真) ダニエル=デュピュイ作メダイユ 「水盤の傍らのクロエー」 66.7 x 36.1 mm 1898年 若々しい少女の姿に仮託して万物の生命力を表した作品。


 情欲に突き動かされて眼を血走らせた傭兵たちが女子修道院の外壁を登ってくるのを目前にして、ただキボリウムを掲げるというのも、常人の判断からは考え難い行動です。それゆえ本品に彫られたキアラの姿は、特定の歴史的出来事ではなく、この聖女の生涯を貫く無条件の信仰を形象化したものであると考えられます。キアラの姿が少女のように若いのも、優れた信仰によって永生を得たキアラの魂を、永遠の相の下(もと)に形象化しているからです。信仰の成熟を表現するのであれば老成した姿を描くべきだという考え方もあり得ますが、永遠の命を図像化して表現するのであれば、若々しい少女の姿ほどふさわしいものは無いでしょう。





 上の写真に写っている定規のひと目盛は 1ミリメートルです。キアラの顔は直径 2ミリメートルよりも小さなサイズですが、目鼻立ちが整っているばかりか、天上に向けられた視線や、口許に浮かんだ穏やかな微笑みが、大型彫刻に劣らない巧みさで表されています。

 この作品において、メダイユ彫刻家ブイは不可視の価値を銀製メダイユの内に見事に形象化しています。キアラの表情はどんなときにも動じることなく神を信じる信仰を表し、若々しい姿は永遠の生命を表しています。本品の優れた出来栄えは、メダイユ彫刻家がブイが手先が器用なだけでなく、力強い芸術的表現を為し得るミニアチュール彫刻家であったことを証明しています。浮き彫り彫刻が発達したフランス製メダイのなかでも、本品はとりわけ優れた作品のひとつです。





 本品はおよそ九十年前にフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、古い年代にもかかわらず保存状態は良好で、細部までよく残っています。フランスでは現在でも、数万円から十数万円程度の貴金属製メダイユを、人生の節目に購入したり贈ったりする習慣があります。本品は信心具の素材として当時最も高級であった銀でできており、人生の大切な節目に購入された特別なメダイユであったことがうかがえます。聖フランチェスコを伴わず、聖キアラのみをテーマに制作されている点でも極めて珍しい作例です。

 直径 15ミリメートル強と小さ目のサイズであるゆえに、本品はどのような服装にも良く似合います。日々ご愛用いただける本物の美術品です。 





本体価格 19,500円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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