処女にして教父時代の殉教者であるアレクサンドリアの聖カタリナ (Ste Catherine d'Alexandrie, c. 282 - c. 305) を刻んだ小さなメダイ。信心具の最も高級な素材である銀を用いて鋳造されています。
アレクサンドリアの聖カタリナは並はずれて優れた知性と美貌を備えていました。中世以来最も人気がある聖女のひとりであり、各国語におけるエカテリーナ、カトリーヌ、キャサリン等の女性名はすべてこの人に拠っています。アレクサンドリアの聖カタリナは処女、哲学者、神学者、教育者、法律家、司書の守護聖人です。
メダイにはアレクサンドリアの聖カタリナの上半身を浮き彫りにしています。カタリナは右手には剣を、左手にはナツメヤシの葉を持っています。ハギオグラフィ(聖人伝)によると、アレクサンドリアの聖カタリナは剣で斬首されて殉教しました。右手の剣は殉教の様態を表しています。左手のナツメヤシは地上で苦しんだ後、死後に与えられる栄光の象徴であり、カタリナが殉教者であることを表します。 浮き彫りの周囲には、聖女に執り成しを求めるラテン語の祈りが刻まれています。
SANCTA CATHARINA ORA PRO NOBIS. 聖カタリナよ、我らのために祈りたまえ。
(上) ドメニキーノ作 「アレクサンドリアの聖カタリナ」 F. ノウルによるエングレーヴィング 210 x 250 mm イギリス 1858年 当店の商品です。
聖人の伝統的図像では、説明的な文字が無くても誰が描かれているのか容易に判別できるように、その聖人の特徴を表す事物や色彩を描き込みます。聖人の特徴を表すこのような物を、美術史では「アトリビュート」(英
attribute/attributes)と呼んでいます。
この浮き彫りにおいて、カタリナは豪奢な衣を着、凝った髪形をしています。剣と共に右手に持っている物は、カタリナの学識を象徴する本(巻物)のようにも見えますが、おそらく衣の一部でしょう。布を多く使った豪華な衣装や凝った髪形は、アレクサンドリアの女王であったと伝えられるカタリナのアトリビュートです。
殉教者の場合、殉教の様態を表す攻め具や武器等もアトリビュートとして描き込まれます。アレクサンドリアの聖カタリナの場合は「剣」が殉教の道具です。「ナツメヤシの葉」も殉教者のアトリビュートです。カタリナの左(向かって右)後方には奇妙な大型の道具が見えています。これは聖カタリナ伝に登場する拷問具で、この聖女の最も特徴的なアトリビュートです。
メダイの右端に近いところに、グラヴール(graveur メダイユ彫刻家)のサイン(Bouix ブイ)が刻まれています。メダイ左下の「ア・ペ」(AP)
はメダイユ工房の刻印です。最下部に「フランス」(FRANCE) の文字があります。
上部の環にも二つの刻印があります。花のような形はフランスのポワンソン(貴金属検質所の刻印)で、800シルバー無垢製品を表します。写真では分かりませんが、刻印は蟹を模(かたど)っています。菱形はフランスにおける銀細工工房のマークで、「ア・ペ」(AP)
の間に十字架が立っています。
アレクサンドリアの聖カタリナは、カトリーヌ等ポピュラーな女性名の起源です。しかしながら不思議なことに、この聖女をテーマにしたメダイは非常に稀少です。私は長年にわたってメダイを扱っていますが、本品は初めて手に入れた「アレクサンドリアの聖カタリナ」のメダイです。八十ないし九十年前のフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、突出部分の磨滅もごくわずかで、極小の文字による彫刻家のサイン等、細部までよく残っています。商品写真は大きく拡大していますので、わずかな磨滅がよく判別できますが、実物は写真よりもずっと綺麗で、必ずご満足いただけます。特筆すべき瑕疵(かし 欠点)は何もありません。