幼子イエズスから接吻を受ける聖アントワーヌ(パドヴァの聖アントニウス)のメダイ。20世紀初頭にフランスで制作されたものです。
フランチェスコ会の修道服に身を包んだ聖アントワーヌは、幼子イエズスを愛しげに抱き寄せています。聖アントワーヌの前には開いた祈祷書が置かれ、聖人が瞑想中であったことがわかります。開いた祈祷書から出現した幼子イエズスを抱く姿は聖アントワーヌの伝統的な図像表現であり、メダイ右側にある百合も聖アントワーヌの象徴です。
(下・参考画像) Il Guercino (1591 - 1666), St Anthony of Padua with the Infant Christ,
1656, oil on canvas, 91 x 74 cm, Private collection
メダイの周囲には聖人に執り成しを求める祈りの言葉がフランス語で記されています。
St. Antoine de Padue, priez pour nous. パドヴァの聖アントニウスよ、我らのために祈りたまえ。
メダイ最下部には「リヨンのペナンとポンセ」(PENIN PONCET LYON) と刻まれています。リュドヴィク・ペナン (Ludovic
Penin, 1830 - 1868) とジャン・バティスト・ポンセ (Jean-Baptiste Poncet, 1827 - 1901)
はいずれもリヨンのメダイユ彫刻家で、多くの共作を発表しています。本品の制作時期は20世紀初頭であることから、彫刻家の没後に鋳造された作品であることが分かります。
メダイの裏面には百合の花が浮き彫りにされています。百合は純潔の象徴、聖母マリアの象徴であり、聖アントワーヌの象徴でもあります。
このメダイはデザインが美しいことに加え、保存状態も良好です。およそ90年前に制作されたものですが、摩耗の程度はごく軽微で、聖人の腰の荒縄やロザリオをはじめとする細部もよく残っています。