盾形の台座を採用したゆりかご用メダイ。中心に嵌め込んだ打ち出し細工の金属製メダイヨンは、ロサ・ミスティカの聖母を表します。
ロサ・ミスティカとはロレトの連祷にある聖母マリアの称号の一つで、ラテン語で神秘の薔薇、奇(くす)しき薔薇という意味です。5世紀のラテン詩人セドゥーリウスが「カルメン・パスカーレ」("CARMEN PASCHALE" ) で歌ったように、棘のある繁みから生え出でつつも傷つくことなく美しい薔薇の花は、人祖の妻エヴァと同じく女性でありながらも、エヴァの罪に傷つくことがない無原罪の御宿り、すなわちマリアの象徴です。
整った横顔を見せる聖母は、口許にかすかなほほえみをたたえつつ、眼を閉じて、神の愛、神への愛に思いを潜(ひそ)めています。その穏やかな表情は、救世主を産むという大任を果たすように天使ガブリエルから告げられても、いささかも動じなかったマリアの、神への限りない信頼を表しています。
マリアの右肩の後ろに、「ドロプシ」のサイン ("E. Dropsy") があります。ドロプシという名前のメダイ彫刻家には、フランスが生んだ最も優れたメダイ彫刻家のひとりであるジャン=バティスト・エミール・ドロプシ
(Jean-Baptiste Emile Dropsy, 1848 - 1923) と、その息子でやはり高名なアンリ・ドロプシ (Henri
Dropsy, 1885 - 1969) があります。本品は父エミール・ドロプシの作品です。
上部に取り付けた環は花をデザインした美しいもので、厚みのある金属で製作されています。古いメダイであるにもかかわらず、摩耗や破損等の問題は無く、たいへん良好なコンディションです。