子供を守り導く守護天使のゆりかご用メダイ。直径 65ミリメートルのセルロイド製台座に、直径 45ミリメートルの金属製メダイユを嵌め込んであります。メダイユ彫刻家のサインはありませんが、本品の彫刻の優れた芸術性は、数あるゆりかご用メダイのなかでも、特に「名品」と呼ばれるに値します。
凛々しい長身の守護天使は、抱き寄せた子供の目をまっすぐに見つめ、天上を指さしています。神の摂理を信頼して歩むべきこと、信仰深い子供を助けるために、守護天使である自分が共に歩むことを、天使は子供に示し、約束しているのです。
天使の額には星が輝いています。この図像表現は、聖書において、星が神の意思に完全に従う特別な被造物であると考えられていたことによります。
中世以前の科学思想によると、月下の世界に属する物は、地水火風の四元素でできています。四元素でできている月下界の物は、下に向かって運動します。すなわち高いところに持ちあげて手を放すと、地上に落下します。しかるに天体はいつも空にあって、落ちてくることがありません。これは天体が月下界の物とは違って、下に向かって運動しない「第五元素」(エーテル)でできているからだと考えられていました。下方に向かう運動は、罪に引き寄せられる「堕落」を連想させます。しかるに天体は清らかな天上界にあって、堕落とは無縁であり、造物主である神の意思に完全に従って運行しています。
したがって、天使の額に輝く星は、天使が神の意思のままに働くことを意味しています。子供を守ることは、神がその御意思によって天使に与え給うた務めです。しかるに神が天使に命じて子供を守らせ給うのは、神が子供を愛し給うからに他なりません。天使が天上を指さしているのは、それゆえ、神が子供をどれほど深く愛しておられるかを示すために他なりません。星はイエスがお生まれになったときの「ベツレヘムの星」を連想させます。救い主がお生まれになったのは、他の子のためではなく、君のためなのだよ、と、天使は子供に語りかけているのです。
本品の造形はたいへん立体的で、あたかも目の前に天使が舞い降りたかのような錯覚さえ覚えます。金属の凹凸のみによる表現にもかかわらず、若き天使の温かな肌、艶やかな髪、簡素な衣、力強い翼と柔らかな羽根が、それぞれの質感を伴って見事に表現されています。この作品の仕上がりを見ればメダイユ彫刻家の優れた技量がよくわかりますが、サインは無く、作者は不明です。信心具を超えて「芸術品」と呼ばれるべき要件を十二分に満たすこのような作品が、サインなしで制作されている事実は、メダイユの国フランスにおける浮き彫り芸術の層の厚さを実感させます。
本品の枠あるいは台座はセルロイドでできています。セルロイドは 19世紀中頃に発明されたオールド・プラスチックの一種で、20世紀中頃まで盛んに製造、使用されました。セルロイドは優れた質感ゆえに、現在でも高級万年筆等に使われます。本品の枠も本物の象牙を髣髴させる年輪状の縞模様があり、わずかに透明感を感じさせる美しい仕上がりとなっています。
本品は数十年前のフランスで制作された真正のヴィンテージ品ですが、古い年代にもかかわらず、保存状態は極めて良好です。特筆すべき問題は何もありません。生物由来のプラスティックであるセルロイドは高級感と温かみを兼ね備え、優しい象牙色はどのような色の壁に掛けても美しく調和します。