表(おもて)面に聖家族、裏面に幼い子供に寄り添う守護天使を浮き彫りにしたフランスのメダイ。
表(おもて)面の聖家族は、手前の向かって右に幼いイエズス、左に聖母マリア、奥に聖ヨセフを配します。三人は何かが書かれた紙を手に、にこやかに微笑んでいます。紙に書かれているのは神の教えでしょうか。それとも幼子イエズスが可愛らしい絵を描いて、両親に見せているのでしょうか。ヨーロッパの伝統的宗教画においては老人として描かれることも多い聖ヨセフですが、このメダイでは若々しい姿で表されています。聖ヨセフの腕は他のふたりのほうへと伸ばされ、肩を優しく抱いています。
彫刻家は聖家族をただ並べて立たせるのではなく、手前の二人を横向きにし、伸ばした腕をメダイの円周に沿うように曲げさせることによって、三人の視線が交わるあたり、聖ヨセフの胸を重心とする円周上に、三人をきれいに配置しています。最も安定した図形である円周上に聖家族の姿を重ねたこの構図は、三人の一体性を強調し、目に見えない愛情の絆を巧みに表現する視覚的効果を上げています。
少年イエズス、マリア、ヨセフの顔には、愛情あふれる優しい表情が丁寧に彫られています。その一方で、顔以外の部分に関しては、衣をいずれも単純な面に還元し、マリアのヴェールと衣の境目も無くするという単純化が行われています。この視覚的処理のおかげで、メダイを見る者の視線は三人の表情により強く惹き惹きつけられます。聖家族の肖像を製作したこの彫刻家は、伝統的宗教画の定石を外れて、どこにでもいそうな家族の姿を描きながら、愛情の通い合いという深い精神性の描写に成功を納めており、その腕前は見事というほかありません。
少年イエズスの肩の後ろと背中の後ろに、メダイ彫刻家のサイン及び鋳造者のサインがあります。上部の環には「フランス」(FRANCE) と記されています。
メダイの裏面には無垢の象徴である白百合を集める子供に、守護天使が寄り添う光景が浮き彫りにされています。天使は力強い腕を子供の腕に優しく添えて、子供を守っています。子供は両手に白百合を持って、天使の指さすほうに素直な視線を向けています。白百合の花園にいたふたりは、垣根の開いたところから外に出ようとしています。垣根に守られていた幼少期が終わり、花園の外に踏み出そうとする子供を、守護天使がいつも寄り添って守り、進むべき道を指し示している ― 守護天使は子供に「安心しなさい。わたしが付いている。」と語りかけている ― そのような光景を、この作品は描いています。
メダイの表裏は作風がずいぶんと異なり、別々の作家の手によるものであることがわかります。裏面の天使の翼、及び子供の服の裾に段差があり、もともと別の縁付きメダイのための浮き彫り作品であった裏面の彫刻が、後の時代にふたたび採用されたものであることが読み取れます。メダイのコンディションはたいへん良好です。摩耗は見られず、細部まで綺麗に残っています。