無駄をそぎ落として究極まで単純化を進めた意匠の十字架形ペンダント。1960年代のフランスで制作された美しい品物です。
一方の面には線刻による聖霊をあしらい、もう一方の面には何も彫られていません。いずれの面を前に向けて使うことも可能です。
聖霊の鳩が下向きに彫られているのは、サン=テスプリ(Saint-Esprit ブルターニュの古いキリスト教ジュエリー)やクロワ・ユグノト(croix huguenote ユグノー十字)の場合と同様、キリストを信じる地上の魂に向けて、聖霊が天上から降臨する姿を表しています。聖霊の頭部には後光があり、単なる鳩ではないことを示しています。聖霊が十字架と重なって彫られているのは、聖霊は神の愛に他ならず、十字架は神の愛の究極の象徴であるからです。
本品のシンプルなデザインは、1960年代に広まったミニマリスム(ミニマリズム)の考え方に基づきます。ミニマリスムの芸術家たちは、「最小限に切り詰めた表現によってこそ、最大限に豊かな内容を表すことができる」(「レス・イズ・モア」
"Less is more.")と考えて、それまでにない単純明快なフォルムによって数々の名作を生み出しました。
無限に豊かな神の愛を、芸術作品において余すところなく表現しようとすれば、無限に多くの言葉や色や形を使って表現しなければなりません。しかるにそのような作品を制作することは、原理的に不可能です。そう考えると、「最小限に切り詰めた表現によって最大限に豊かな内容を表す」というミニマリスムの手法が、無限に豊かな神の愛を表すのにいかに有効であるか、お分かりいただけるでしょう。
本品はおよそ五十年前のフランスで制作された真正のヴィンテージ品ですが、たいへん良好な保存状態で、特筆すべき問題は何もありません。
ミニマリスムとキリスト教美術の間には本質的な親和性があります。切り詰めた表現によって「無限の神の愛」を表した本品は、あたかも神ご自身の永遠性、神の愛の無限性を反映して、「久遠(くおん)の美の残響」とでも呼ぶべき作品となっています。