幼き洗礼者ヨハネの美しい金無垢メダイあるいはペンダント。ウクライナからフランスに渡ったメダイユ彫刻家ヤンポルスキによる非常に珍しい作品です。
洗礼者ヨハネは聖母マリアの親戚エリザベトが生んだ男の子で、イエズスよりも六か月だけ年長です。この作品においてらくだの皮衣をまとい、小さな十字架を肩に担いだ少年ヨハネは、その視線を彼方に向けて、羊の群れを照らしつつ昇りゆく太陽を見つめています。メダイ下部には「サン・ジャン」(Saint Jean フランス語で「聖ヨハネ」)と書かれています。
古代以来のキリスト教において、太陽は救い主イエズス・・キリストの象徴であり、イエズスは「ソール・ユースティティアエ」(SOL JUSTITIAE ラテン語で「義の太陽」 マラキ
3: 20)、「ソール・インウィクトゥス」(SOL INVICTUS ラテン語で「不敗の太陽」)と呼ばれます。いままさに昇りつつある太陽を見つめるヨハネの姿は、「主の道をまっすぐにせよ」と荒野で叫ぶ声(ヨハネによる福音書
1: 23)、すなわちキリストの出現を告げる先駆けとしての役割を、象徴的に表しています。
なお実際のメダイにおいて太陽はヨハネの右前方から昇っていますが、これはヨハネの横顔と太陽を同一画面に表すために、キュビズム(立体派)的な空間のデフォルメが行われているせいです。ヨハネは虚空を見つめているのではなく、昇
りゆく義の太陽、すなわちイエズスを見つめています。
ちなみに太陽神の復活を祝う異教の冬至祭に対抗し、「ソール・ユースティティアエ」(義の太陽)、「ソール・インウィクトゥス」(不敗の太陽)であるイエズス・キリストの降誕を祝ったのが、クリスマスの起源と考えられています。イエズスを「ソール・ユースティティアエ」、「ソール・インウィクトゥス」と見做す古代キリスト教の思想が現代にも影響を及ぼしていることがわかります。
ヨハネの肩の後ろ、メダイの縁に近いところに、メダイユ彫刻家ヤンポルスキのサイン (M. Jampolsky) が刻まれています。
ミハイル・ヤンポルスキはウクライナのキエフで生まれました。メダイユ彫刻の本場であるフランスに活躍の場を求めてパリに移り住み、ジャン=バティスト・ダニエル=デュピュイ (Jean-Baptiste Daniel-Dupuis, 1849 - 1899)、ユベール・ポンカルム (Francois Joseph Hubert Ponscarme, 1827 - 1903)、J. ラジュムニ (J.
Rasumny) に師事しました。サロン展には、1896年の浮き彫り「アテナ」を皮切りに、ほぼ毎年出品しています。1896年の「ジャンヌ・ダルク」、1897年の「ウィルゴー・プリッシマ」(VIRGO
PURISSIMA)、「わが母ロシア」(Russia, ma mère)、1898年の「キリスト」「ディアナ」の他、「竜を倒す聖ゲオルギウス」(St
Georges terrassant le dragon) もよく知られています。
ミハイル・ヤンポルスキの作品は非常に稀少です。本品は私がこれまでに入手した二点目の作例です。
(下・参考画像) ミハイル・ヤンポルスキ作 「竜を倒す聖ゲオルギウス」 Michel Jampolsky, "St Georges terrassant le dragon"
(下・参考画像) ミハイル・ヤンポルスキ作 「クリストゥス・アドレスケーンス」 Michel Jampolsky, "CHRISTUS ADULESCENS", 1898 当店の販売済み商品
ペンダント本体上部の環に、18カラット・ゴールドを示すフランスのポワンソン(ホールマーク)「鷲の頭」が刻印されています。
幼子イエズスや聖母子、幼い洗礼者ヨハネ、守護天使などの優しい図柄を浮き彫りにした金無垢メダイは「メダイユ・ド・バプテーム」(Médaille
de Baptême) といって、新生児のために両親が用意するものです。本品も「メダイユ・ド・バプテーム」で、裏面にはふたつの日付が刻まれています。「1925年2月3日」は子供が生まれた日、「4月12日」は洗礼を受けた日です。
新生児に「メダイユ・ド・バプテーム」を贈る習慣は現在でも続いており、「幼い洗礼者ヨハネ」は人気の図柄のひとつです。(現代の商品の例はここをクリック。1ユーロ=132円)
当店ではありふれたタイプのメダイを扱わず、極力珍しい作品を探すように心がけていますが、そのなかでも本品の稀少性は群を抜いています。フランス美術メダイユの収蔵点数が多いオルセー美術館をはじめ、世界各地の美術館も、ミハイル・ヤンポルスキによる「幼き洗礼者ヨハネ」は収蔵していないようです。
本品は金無垢製品ですので、めっき製品のように色が薄くなることはありません。百年、あるいはそれ以上前に制作された真正のアンティーク品であるにもかかわらず、保存状態はきわめて良好で、特筆すべき問題は何もありません。美しさと稀少性を併せ持つ美術館レベルの芸術メダイユでもあり、「一生もの」としてお使いいただける可憐なアンティーク・ジュエリーでもあります。