たいへん凝った作りの絵葉書。裏面の書き込みにより、1918年の新年を祝うために、ジュヌヴィエーヴという女性あてに書かれたものであることがわかります。
本品は上質の中性紙に描いた男女の手と美しい花束のクロモリトグラフ(多色刷り石版画)を切り抜いて、台紙に貼った紙製の支柱に取り付け、この部分を手前に引き上げて立体感を出せるよう工夫しています。薔薇の花弁の上をはじめ、ところどころに散らしてある金色あるいは銀色の微小な紙片は、経年により黒ずんでいます。台紙も上質の中性紙で、品の良い青のグラデーションで周囲を彩(いろど)り、レース状の透かし細工を施しています。
台紙の左上に結ばれたブルーのリボンは、永続する結婚のシンボルです。ふたりの手と花々を切り抜いた部分の裏側には、豊穣のシンボルである米(イネ)の代用として、瑞々(みずみず)しい緑に染めた草の穂の小さな束を貼り付けています。
台紙の周囲と花々の部分に施されたレース状の透かし細工は、ベル・エポックの華やかな余韻を伝えます。またカニヴェと共通するそのデザインは、フランス人が結婚をカトリック教会の授けるサクラメント(秘蹟)として自然に受け止めているという事実、カトリックこそがフランスの文化的基層に他ならないという事実を明証しています。
裏面にはインクによる多数の書き込みがあり、フランスの南西端に近いカタロニアの町ペルピニャン(Perpignan ラングドック=ルシヨン地域圏ピレネー=オリアンタル県)に住むイルマという女性が、ジュヌヴィエーヴという女性に送った新年の挨拶が読み取れます。書き込まれている内容は次の通りです。
Perpignan, 1er Janvier, 1918 1918年1月1日 ペルピニャンにて
Chère Geneviève 親愛なるジュヌヴィエーヴへ
Reçois mes meilleurs vœux de bonne année et bonne Fête あけましておめでとう。良いお正月でありますように。
Milles baisers, Irma Laplane (Au revoir.) 心をこめて。イルマ・ラプランより (またね。)
ジュヌヴィエーヴという女性は結婚して間もないのか、あるいは間もなく結婚を控えているのでしょう。「オ・ルヴォワール」(Au revoir.)
という別れの挨拶は、状況によって様々な訳し方ができますが、おそらくジュヌヴィエーヴが結婚のためにペルピニャンを離れて、同郷の親友イルマと頻繁に会えなくなったのではないでしょうか。書かれた言葉はどちらかというと形式的で簡潔ですが、心が通い合う友人同士に長文のメッセージは不要なのでしょう。
この絵葉書は90年以上も前の紙製品であるにもかかわらず、特筆すべき重大な問題は何も無く、台紙の端に折れ跡やレース部分の小さな欠損が見られる程度です。繊細な作りのエフェメラであることを考えれば、たいへん良好な保存状態といえましょう。
額装につきましては、こちらに掲載しているものは二次元的な作例になります。別途ご相談にて、この商品にふさわしい三次元的な額装にも極力リーズナブルに対応いたします。お気軽にお問い合わせ、ご相談くださいませ。