死に打ち勝つ救い主 《大きめサイズのサン・ダミアノ十字 51.7 x 35.6 mm》 有るべき姿のクルシフィクス イタリア 二十世紀中頃


突出部分を含む縦横のサイズ  51.7 x 35.6 mm



 アッシジの聖キアラ聖堂(la basilica di Santa Chiara)に、サン・ダミアノ十字(伊 il Crocifisso di San Damiano)という有名なクルシフィクス(羅 CRUCIFIXUS キリスト磔刑像)が安置されています。サン・ダミアノ(伊 San Damiano 聖ダミアノ)は薬剤師の守護聖人として知られる人物の名前で、サン・ダミアノ十字はもともと聖ダミアノの名を関した小聖堂に掲げられていたため、この名を有します。伝承によると、アッシジの聖フランチェスコは崩れかけたサン・ダミアノ聖堂においてクルシフィクスのイエスから語りかけられ、「見よ。私の教会は倒れかけている。これを建て直しなさい」と命じられました。本品はこのサン・ダミアノ十字を模っています。





 サン・ダミアノ十字は幅広で、幾つかの画面に分割されています。アッシジにある実物のサン・ダミアノ十字は二メートル近い高さがあり、キリスト以外にも大勢の人物が描き込まれています。本品はサイズが小さいのでキリスト以外の人物の顔が不分明ですが、人物の人数と配置、姿勢は実物のサン・ダミアノ十字を忠実に写しています。

 実物のサン・ダミアノ十字はクルミ材に布を貼り付け、キリストをはじめとする人物はその上に顔料で描かれています。これに対して本品は金属製であり、また浅浮き彫りながらも三次元性を有する点が実物と異なります。





 サン・ダミアノ十字に描かれたキリスト像はクリストゥス・トリウンファーンス(羅 CHRISTUS TRIUMPHANS 勝利のキリスト)と呼ばれる類型に属します。サン・ダミアノ十字のパティブルム(羅 PATIBULUM 十字架の横木)は、死に勝利したキリストが復活して空(から)になった墓を象徴します。パティブルム下部に姿が見える四人の天使はクリストゥス・トリウンファーンスを腕で指し示しながら、驚くべきこの出来事について論じあっています。パティブルム両端に姿が見える人物は墓を訪れた弟子たちで、空になった墓に驚きつつ、キリストの復活を喜んでいます。





 我々は十字架を見慣れていて何とも思いませんが、十字架はまともな人権を認められなかった非ローマ市民が重罪を犯したときにのみ用いられた最も残忍な刑具です。私たちに分かりやすい物で譬えるならば、十字架は拷問具と絞首索を組み合わせたような物品です。クルシフィクスはキリストが十字架に架かっておられる状態を写していますが、これは人間が絞首索にぶら下がっているのと変わりがありません。我々はこのように恐ろしく不気味な物をロザリオの先端に付けたり、時にペンダントとして身に着けたりしているのです。

 上の写真はローマで見つかった「アレッサメーノの落書き」で、二世紀頃のものと考えられています。この落書きでは向かって左下に描かれたキリスト教徒(アレクサメノスという名前の男性)が、十字架上の驢馬を礼拝しており、アレクサメノス・セベテ・テオン(᾿Αλεξάμενος σέβετε θεόν ギリシア語で「アレクサメノスが神を拝んでいるところ」)と書き殴られています。イエスご自身や使徒たちの力強い説教に触れたこともない人々、特に良識あるエスタブリッシュメントの人々が、十字架上に刑死したイエスを崇めるキリスト教を淫祠邪教と考えたのも無理はないことと思えます。




(上) il Crocifisso di San Damiano, circa 1100, tela incollata su legno, 190×120 cm, la Basilica di Santa Chiara, Assisi


 しかしながらキリストが十字架上で苦しんでおられたり、死んでおられたりする様子を写実的に描くようになったのはルネサンス以降のことです。我々が普段目にするクルシフィクスは大抵が近代以降に作られているゆえに、死刑の様子が写実的に表されているわけですが、本品の元となったサン・ダミアノ十字は勝利のキリスト(クリストゥス・トリウンファーンス)を表しており、あらゆる陰惨と対極にあります。

 我々近現代人は自然主義的描写を良しとする傾向があるゆえに、勝利のキリスト像を古拙な描写として退け、苦しむキリスト像、死せるキリスト像を十字架に取り付けるのを常とします。しかしながらキリストが受難されて終わったのでは、キリスト教は意味を喪います。キリストが死に勝利して復活し給うたからこそ、キリスト教が意味を持つのです。そのことを思い起こすとき、サン・ダミアノ十字こそがクルシフィクスのあるべき姿であることに思い至ります。





 上の写真は本品を男性店主の手に乗せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりもひと回り大きなサイズに感じられます。







 本品は数十年前のイタリアで制作された真正のヴィンテージ品ですが、突出部分にも摩滅はなく、保存状態は極めて良好です。クルシフィクスをペンダントとして使うと裏面が服と擦れ合って摩滅しますが、本品の裏面は何も彫られていませんので、心置きなくご愛用いただけます。特筆すべき問題は何もありません。





本体価格 12,800円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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