人の罪ゆえに受難し給うキリスト アカンサスあるいはアザミのクルシフィクス 48.3 x 30.8 mm


突出部分を含む縦横のサイズ 48.3 x 30.8 mm  最大の厚み 5.7 mm

フランス  1920 - 30年代



 1920年代または 30年代頃のフランスにおいて、銀色の合金で制作されたクルシフィクス。複雑な造形のクロスに彫金を施し、別作のコルプス(キリスト)を溶接しています。高さ約5センチメートル、幅約3センチメートルと大きめのサイズですが、クロスが透かし細工となっているために、軽やかな印象を与えます。写真ではわかりませんが、美しい金属光沢があります。





 本品の十字架はアカンサス(ハアザミ)でフルール・ド・リスを模(かたど)った特異なデザインです。


 アカンサスは古代ギリシア以来地中海沿岸を中心とするヨーロッパにおいて多用されてきたモティーフですが、十字架そのものをアカンサスで構成するのは伝統的美術に見られない意匠です。本品が作られるよりも数十年前、19世紀末から20世紀初頭のヨーロッパは、植物文を多用する日本美術、及びその影響を受けて誕生したアール・ヌーヴォー様式に席捲されました。クロス自体をアカンサスで構成した本品の意匠には、日本美術及びアール・ヌーヴォーの強い影響が感じられます。

 ところで本品のクロスは、美的効果のみを狙ってアカンサスで構成されているのでしょうか。それともこの意匠には宗教的な意味があるのでしょうか。結論から言うと、本品の植物文はアカンサスのみならず、アザミをも重層的に表しています。アザミで模った十字架は、救世主が受難する原因となったアダムの罪を表しています。本品の十字架は植物意匠が美しいという装飾美術上の理由によりアカンサスを模るとともに、罪なき神の子羊であるキリストが人間の罪ゆえに受難し給うたことを表すためにアザミを模っているのです。





 さらにフルール・ド・リスは「罪の無さ」と「神にすべてを委ねる信仰」を表すとともに、「三位一体」及び「三位一体の各位格の徳」(父なる神の義、子なる神の智慧、聖霊の愛)の象徴でもあります。本品においてアカンサスが形作るフルール・ド・リスは、罪なき救い主が父なる神の意思に従って受難し給うたことを表すとともに、「罪びとを裁く義」と「罪びとをかばう愛」がイエズスの受難において一つとなった、というこの上なく神秘的な智、最大のミステリウムをも表しています。


 ところで磔刑像はキリストの表現様式にしたがって三つに分けられます。第一は「クリストゥス・トリウンファーンス」(CHRISTUS TRIUMPHANS ラテン語で「勝利するキリスト」の意)です。この様式の磔刑像では、キリストは頭を直立させてまっすぐに前を向いています。キリストの表情には肉体的苦痛は表現されません。下に示すのはアッシジの聖キアラ聖堂にある「サン・ダミアノ十字」(il Crocifisso di San Damiano) で、「クリストゥス・トリウンファーンス」の例です。





 第二の様式は「クリストゥス・ドレーンス」(CHRISTUS DOLENS ラテン語で「苦しむキリスト」の意)です。この様式において、キリストは頭部を肩の上に傾け、苦痛に身をよじっています。キリストの顔には苦悶の表情が表れています。下に示すのは13世紀の逸名画家(Maestro di San Francesco 「聖フランチェスコの画家」)による 1260年頃の作品で、「クリストゥス・ドレーンス」の例です。この作品はルーヴル美術館に収蔵されています。





 第三の様式は「クリストゥス・パティエーンス」(CHRISTUS PATIENS ラテン語で「(死に)屈するキリスト」の意)です。この様式において、キリストは体全体が弛緩し、頭部も力無く垂れています。キリストの顔には死相が表れています。下に示すのは13世紀前半の逸名画家(Maestro bizantino del Crocifisso di Pisa 「ピザの磔刑像のビザンティン画家」)による 13世紀初頭の作品で、「クリストゥス・パティエーンス」の例です。この作品はピザのサン・マッテオ美術館に収蔵されています。





 19世紀から20世紀にかけてフランスで制作されたクルシフィクスのコルプスは、ほとんどの場合、上記の第二の様式すなわち「クリストゥス・ドレーンス」で表されています。本品もその例外ではなく、イエズスは十字架上に身をよじって苦しんでおられます。コルプスにみられるそのような表現と優美なアカンサス文の組み合わせには、一見して大きな違和感を覚えますが、このアカンサスが「創世記」3:18における茨やアザミ、あるいはこれに類する棘のある植物を重層的に表現していることがわかれば、疑問は氷解します。





 本品の概寸は 5 x 3センチメートルと大きめですが、アカンサスの曲線がリズム感を生み出し、また透かし細工を採用しているため、視覚的に軽やかな印象です。いまから80年以上前のフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、古い年代にもかかわらず保存状態はきわめて良好です。特筆すべき問題は何もありません。





本体価格 11,800円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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