フランスの古いスカプラリオ。修道女、あるいは第三会会員により、丁寧な手作業で製作されたものです。
スカプラリオは長方形の本体ふたつを一本の紐で繋いでいます。スカプラリオの全長はもともと70センチメートル近かったはずですが、数か所が切れて補修してあるために、現状では
62センチメートルほどになっています。
長方形の本体は、刺繍糸の装飾を除くと、縦 55ミリメートル、横 50ミリメートルのサイズです。厚みがあって固いので、しっかりとした厚紙が入っていると思われます。二枚の楕円形小聖画にはスカプラリオを授ける聖母子の姿が描かれ、裏に台紙を当てて本体に縫い付けられています。いずれの聖画の周囲にも刺繍が施されていて、薔薇の花環(ロザリオ)に囲まれているように見えます。スカプラリオ本体もまた、薔薇の花のように見える同様の刺繍に縁どられています。
純白の薔薇の花は、ダンテが「神曲」天国篇第三十一歌で謳った至高の第十天、「ラ・カンディダ・ローザ」(la candida rosa イタリア語で「白い薔薇」)を思い起こさせます。中央に聖母がおられる点でも、本品の意匠はダンテの至高天と共通しています。
本品は厚みがあるので、何かが封入されているかもしれません。スカプラリオは肌身離さず持ち歩くものとして作られていますから、封入されているとすれば、アグヌス・デイではないでしょうか。アグヌス・デイとは教皇の祝福を受けた蝋(ろう)の小円盤で、これを常に身に着ければ罪の赦しが得られ、厳しい気候や洪水、火事、疫病、悪魔、突然の死から守られるといわれています。
(上) 絹のリボンを結んだ立体カニヴェ 「初聖体の日」 多色刷り石版と絹布による紙人形付 119 x 77 mm フランス 19世紀末 当店の商品です。
本品は裏面が茶色ですので、機能としては「茶色のスカプラリオ」と同じものと思われます。しかしながら表(おもて)面には白い布に白い刺繍糸を使って装飾を施し、その意匠は美しいレースで飾られた花嫁衣装のようです。私はこのように美しいアンティーク・スカプラリオを他に見たことがありません。「キリストの花嫁」としてウェディング・ドレスに身を包み、初聖体を受ける少女のために作られたのでしょうか。あるいは神の花嫁として修道誓願を立てる女性のためのもの、または男性と結婚する花嫁のために作られたものかもしれません。
本品は手作りの一点物で、私自身がこれまで見たなかで最も美しい「茶色のスカプラリオ」です。数十年前に制作された真正のヴィンテージ品ですが、保存状態はきわめて良好です。特筆すべき問題は何もありません。紐はところどころ傷んでいるので、実用するのであれば補強または取り換えが必要です。