教皇の祝福を受けた蝋(ろう)の小片、アグヌス・デイ。アグヌス・デイ(AGNUS DEI) はラテン語で神の子羊という意味です。信心具アグヌス・デイの本体はローマ、サンタ・クローチェ聖堂のシトー会修道院で制作された蝋の小片で、本品はこれをフランスの女子修道院でポシェットに封入し、持ち運びできるようにしたものです。
アグヌス・デイを封入したポシェットは象牙色の革または人工皮革でできています。内部に封入された蝋はローマで作られたものですが、ポシェットはフランスの修道女による手作り品で、金色のガラスビーズと刺繍糸による五弁の花を中央にあしらいます。スパンコールと刺繍糸による四つの飾りが、中央の花を取り巻いています。ポシェットの縁は刺繍糸で丁寧にかがられています。刺繍糸はいずれも薄緑色です。
スパンコールと刺繍糸による四つの飾りは、十字型を為しています。これが十字架であるならば、その中央にある五弁の花は薔薇であり、キリストの象(かたど)りに他なりません。そもそもアグヌス・デイ、神の子羊とは、キリストのことです。
ポシェットのもう一方の面に貼り付けられた紙片には、タイプライターによる文字で、アグヌス・デイ(Agnus Dei)と打刻されています。アグヌス・デイは、これを常に身に着けることによって罪の赦しが得られ、厳しい気候や洪水、火事、疫病、悪魔、突然の死から守られるといわれています。アグヌス・デイが制作された年代は二十世紀中頃までで、本品は最後のアグヌス・デイといえます。サンタ・クローチェ聖堂のシトー会修道院は2011年に閉鎖されましたので、アグヌス・デイが将来再び作られることはおそらくありません。
上の写真は本品を男性店主の手に乗せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりも一回り大きなサイズに感じられます。
本品は数十年前のフランスで制作された品物ですが、古い年代にかかわらず保存状態は良好です。破損やひどい汚れ等の問題はいっさいありません。本品は今後作られることのない種類の信心具であり、修道女の手作りによる一点ものであるという意味でも貴重なアンティーク品となっています。