植物をモティーフに、左右非対称のハート形デザインでまとめたアール・ヌーヴォーのブローチ。
本品の素材は鉄で、亜麻仁油に煤(すす)を混ぜたもの、いわゆる「ベルリン・ラッカー」で黒く着色されています。黒く仕上げた鉄製ジュエリーは、ナポレオン戦争時代のプロイセンで生まれ、ヨーロッパじゅうの女性を虜(とりこ)にしました。本品はその系統に連なる一品ですが、19世紀末のものであるゆえに、いかにもこの時代のフランスらしいジャポニスム(japonisme 日本趣味)のデザインを採用しています。
本品は自由に動く珠飾りをブローチ本体に取り付け、身に着ける人のわずかな動きで珠が揺れる工夫が為されています。ブローチ本体は板を打ち抜いた簡易な作りですが、裏側から叩いて表(おもて)面に丸みを持たせ、葉脈等も刻み目で表現するなど、見た目以上に手間を掛けて製作されています。板を打ち抜いた切り口の部分も、危険が無いようにきちんと処理されています。
本品は鉄製ジュエリーとジャポニスムというふたつの流行が結びついたものであり、19世紀末のフランスならではのブローチとなっています。百年以上前のフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、錆や破損などの瑕疵は一切無く、きわめて良好な保存状態で、充分に実用可能です。針の機能も問題ありません。