サイデログラフィ siderography (仏 シデログラフィ sidérographie)


 「サイデログラフィ」(英 siderography)は十九世紀に行われたインタリオ版画の複製技法です。フランス語では「シデログラフィ」(仏 sidérographie)といいます。「サイデログラフィ」(シデログラフィ)の目的は、インタリオ原版の磨滅を防ぐために、原版に忠実なインタリオ刷版を複製することにあります。紙への転写には原版でなく複製した刷版が使用されます。


【語源】

 「サイデログラフィ」(英 siderography)、「シデログラフィ」(仏 sidérographie)は古典ギリシア語からの造語です。すなわち「鉄」を表すギリシア語「シデーロス」(σίδηρος)の語幹「シデール」(σιδηρ-)と、「書く、描く」という意味のギリシア語「グラフォー」(γράφω)に由来する行為名詞「グラフィア」(γραφία 書く・描くこと、書く・描く技法)を、ギリシア語系合成語に使われる繋ぎの音「オ」(-ο-) で接続して作った語で、「鉄による描画技法」という意味です。


【製版方法】

 サイデログラフィの製版は、次の手順で行われます。

   1.    軟らかいスティールブロックを線刻する。
       
   2.    1.のスティールブロックを焼き入れして、硬度を上げる。これで原版が完成する。
       
   3.    2.で焼き入れした硬い原版に、軟らかいスティールのローラーを当て、大きな圧力を加えながら回転させる。これにより、2.で焼き入れしたスティールブロックの線刻が、軟らかいスティールのローラーに転写される。ローラーに転写された線刻は、凸になっている。
       
   4.    3.の作業により線刻を転写されたローラーを焼き入れして、硬度を上げる。
       
   5.    4.で硬度を上げたローラーを軟らかいスティールの板に当て、大きな圧力を加えながら回転させる。これによりローラー表面の凸のパターンが軟らかいスティールの板に転写され、刷版が完成する。ローラーから刷版に転写された線刻は、原版と同じくインタリオ(凹)になっている。


 十九世紀のインタリオは、スティール・エングレーヴィング steel engraving (グラヴュール・シュル・アシエ gravure sur acier)が多く作られました。最も初期のスティール・エングレーヴィングでは原版から紙に直接転写していましたが、十九世紀半ば以降になると、銅版の表面に鋼をめっきする「スティール・フェイシング」(steel facing)と並んで、サイデログラフィが多用されるようになりました。




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