出現物、あるいは幽霊について (小プリーニウス 「書簡集」 第七巻 第二十七書簡)
Plinii Minoris EPISTULARUM Septimi Libri SEPTIMA EPISTULA

 Gaius Plinius Caecilius Secundus, vulgo Plinius Minor


 ガイユス・プリーニウス・カエキリウス・セクンドゥス(Gaius Plinius Caecilius Secundus, c. 61 - 113)、通称小プリーニウス(Plinius Minor)は、「ナートゥーラーリス・ヒストリア(博物誌)」で有名な大プリーニウス(Gaius Plinius Secundus, vulgo Plinius Maior, 23 - 79)の姉の息子であり、後に大プリーニウスの養子となりました。小プリーニウスの著述としては十巻からなる書簡集(羅 EPISTULAE)が遺されており、最初の九巻は友人への手紙、第十巻はトラヤヌス帝との書簡となっています。

 「書簡集」第七巻第二十七書簡において、小プリーニウスは出現物(羅 PHANTASMA, PHANTASMATA いわゆる幽霊)を取り上げ、それが実在するのかどうか、友人スーラに意見を求めています。第二十七書簡のラテン語原文を、和訳を付して以下に示します。筆者(広川)の和訳はラテン語原テキストの意味を正確に伝えていますが、こなれた日本語となるように心がけたため、逐語訳ではありません。文意が伝わり易くするために補った語句は、ブラケット [ ] で示しました。



   C. Plinius Surae suo salutem.     ガイユス・プリーニウス(註1)が親愛なるスーラに挨拶を[送る]。
 1  Et mihi discendi et tibi docendi facultatem otium praebet. Igitur perquam velim scire, esse phantasmata et habere propriam figuram numenque aliquod putes an inania et vana ex metu nostro imaginem accipere.     我々には[落ち着いて考える]閑暇があるので、私は学ぶことができるし、あなたは[私に]教えることができる(註2)。それゆえ私はあなたの考えをどうしても知りたいのだ。出現物(註3)あるいは何らかのカミ的な者が存在し、固有の姿を有するのだろうか。それとも実在せず空虚なものどもが、われわれの恐れのゆえに、姿かたちを結ぶのだろうか。
 2  Ego ut esse credam in primis eo ducor, quod audio accidisse Curtio Rufo.     私はといえば、[出現物が]存在すると信じる方へと引かれている。[これは]主にクルティウス・ルーフスに起こったと聞くことによる(註4)。
   Tenuis adhuc et obscurus, obtinenti Africam comes haeserat. Inclinato die spatiabatur in porticu; offertur ei mulieris figura humana grandior pulchriorque. Perterrito Africam se futurorum praenuntiam dixit: iturum enim Romam honoresque gesturum, atque etiam cum summo imperio in eandem provinciam reversurum, ibique moriturum.    未だ地位も無く名も無かった当時、[クルティウス・ルーフスは]アフリカの行政官に仕えていた(註5)。日が傾き、[クルティウス・ルーフスは]回廊を散歩していた。[その時]人間の女のようだが、[実際の女よりも]大きく美しい姿が彼に現れる。大いに恐れるクルティウス・ルーフスに対して、[その女は]自分がアフリカであると言い、今後起こるべき事どもを告げた(註6)。すなわち[クルティウス・ルーフスは]ローマに行って名誉を手にし、さらに最高の権力を伴って[今と]同じ属州に戻り、その場所で亡くなる[と告げたのである]。
 3  Facta sunt omnia. Praeterea accedenti Carthaginem egredientique nave eadem figura in litore occurrisse narratur.    [それらの]すべてが実現している。それに加えて、カルタゴに近づき船から下りるクルティウス・ルーフスに対し、同じ[女の]姿が海岸で出迎えたと言われている。
   Ipse certe implicitus morbo futura praeteritis, adversa secundis auguratus, spem salutis nullo suorum desperante proiecit.    確かに、病気に絡み付かれたクルティウス・ルーフスは、過去の事どもによって来るべき事どもを[予感し]、[現在の]豊かさによって逆境を予感して(註7)、近しい人々が誰も絶望していないのに、快癒の望みを放棄した。
       
 4  Iam illud nonne et magis terribile et non minus mirum est quod exponam ut accepi?     さて、私が受け容れた通りに打ち明けようとしていることは、いっそう恐ろしく、同様に驚異的ではなかろうか。
 5  Erat Athenis spatiosa et capax domus sed infamis et pestilens. Per silentium noctis sonus ferri, et si attenderes acrius, strepitus vinculorum longius primo, deinde e proximo reddebatur: mox apparebat idolon, senex macie et squalore confectus, promissa barba horrenti capillo; cruribus compedes, manibus catenas gerebat quatiebatque.    広壮で収容力があるが、評判が悪く有害な家がアテーナイに(註8)あった。静かな夜に物音が聞こえ(註9)、いっそう注意して耳をすませば、囚われ人を繋ぐ鎖の音が最初は遠くから、次いですぐ近くから聞こえるのであった。そのすぐ後に影像が(註10)現れるのであった。[その影像は]年老い、痩せ(註11)、垢じみて(註12)衰弱し、ひげが伸び、髪が逆立っていた(註13)。両足には足枷を、両手には鎖を(註14)付けて、[それら(足枷と鎖)を]震わせていた。
 6  Inde inhabitantibus tristes diraeque noctes per metum vigilabantur; vigiliam morbus et crescente formidine mors sequebatur. Nam interdiu quoque, quamquam abscesserat imago, memoria imaginis oculis inerrabat, longiorque causis timoris timor erat. Deserta inde et damnata solitudine domus totaque illi monstro relicta; proscribebatur tamen, seu quis emere seu quis conducere ignarus tanti mali vellet.     それゆえ[この家に]住む人々は、悩ましく恐ろしい眠れぬ夜を、恐怖のうちに過ごしていた(註15)。睡眠が取れないせいで体調を崩し、恐怖が募るにつれて死者も出ていた(註16)。というのは昼間であっても、[出現物の]姿は退いていたが、姿の記憶が眼に浮かび、それが原因となって恐怖がより長く続いたからである(註17)。そのような事情で、[その家は]人が住まない状態に放棄され拒否されて、かの化け物だけのものとなった(註18)。家は売りに出されたが、このような欠点を知らずに買いたい、或いは借りたいと誰が思うであろうか(註19)。
 7  Venit Athenas philosophus Athenodorus, legit titulum auditoque pretio, quia suspecta vilitas, percunctatus omnia docetur ac nihilo minus, immo tanto magis conducit. Ubi coepit advesperascere, iubet sterni sibi in prima domus parte, poscit pugillares stilum lumen, suos omnes in interiora dimittit; ipse ad scribendum animum oculos manum intendit, ne vacua mens audita simulacra et inanes sibi metus fingeret.     哲学者アテーノドーロス(註20)はアテーナイに行き、[幽霊屋敷に]掲げられた看板を読み、値段を聞き、その安値が疑わしいので(註21)、あらゆることを調べて、[事情を]教えられる。そしてそれにもかかわらず、それだけいっそう借り[ようとす]る(註22)。夜の帳が降り始めると、[アテーノドーロスは]家の主要部分を片付けてくれるように命じ、書き板と蠟筆と灯りを求め、自分の関係者すべてを[家の]内部へと入らせる(註23)。彼(アテーノドーロス)は霊魂を記述するために、両目と手を引き締める。精神がしっかりしていないゆえに、耳にした噂に似た事どもや無用の恐怖が生じないように(註24)。
 8  Initio, quale ubique, silentium noctis; dein concuti ferrum, vincula moveri. Ille non tollere oculos, non remittere stilum, sed offirmare animum auribusque praetendere. Tum crebrescere fragor, adventare et iam ut in limine, iam ut intra limen audiri. Respicit, videt agnoscitque narratam sibi effigiem.     はじめに、夜のある種の静寂がいたるところに[あった]。次いで鉄[の鎖]が揺れ、手枷足枷が動く[様子]が[聞こえた](註25)。彼(アテーノドーロス)は眼を上げず、蠟筆を握ったまま、決意を強固にして耳を澄ます(註26)。それからどよめき[のような音]が大きくなって、だんだん近づき、今や敷居に、次いで敷居の内側に聞こえる(註27)。[アテーノドーロスは][出現物を]待ち構え、[遂に]目撃し、[眼前の老人が]話に聞く影像であることを認める(註28)。
 9  Stabat innuebatque digito similis vocanti. Hic contra ut paulum exspectaret manu significat rursusque ceris et stilo incumbit. Illa scribentis capiti catenis insonabat. Respicit rursus idem quod prius innuentem, nec moratus tollit lumen et sequitur.     [噂に聞くのと]同様の者が立ち、呼びかけるアテーノドーロスに向かって指で何かを指し示していた(註29)。この者は[アテーノドーロスに]相対して、[アテーノドーロスが]予期していなかったことに、手で後方を指し示し、蠟石盤と蠟筆の方に屈む(註30)。蠟石盤に書いているアテーノドーロスの頭に、鎖[の音]が響いていた(註31)。[アテーノドーロスは、]先ほど[から]合図を送っている影像が指し示す[と思われる]方向をじっと見て熟考し、躊躇わずに灯火を持ち上げ、[出現物の]後に従う(註32)。
 10  Ibat illa lento gradu quasi gravis vinculis. Postquam deflexit in aream domus, repente dilapsa deserit comitem. Desertus herbas et folia concerpta signum loco ponit.     枷が重いせいか、影像はゆっくりと歩いていた(註33)。家の中庭に向かって曲がった後、影像は突然消え去り、後について歩いていたアテーノドーロスは取り残される(註34)。後に残されたアテーノドーロスは、草を引き抜き、木の葉をちぎって、[影像が消えた]場所の目印にする(註35)。
 11  Postero die adit magistratus, monet ut illum locum effodi iubeant. Inveniuntur ossa inserta catenis et implicita, quae corpus aevo terraque putrefactum nuda et exesa reliquerat vinculis; collecta publice sepeliuntur. Domus postea rite conditis manibus caruit.     後日になって行政官が[この家を]訪れ、その場所を掘り返すように命じられるべく勧告を行なう(註36)。鎖と共に、鎖に縛られた骨が見つかる。歳月と土によって腐った遺体の骨は、枷を嵌められたまま剥き出しになり、すっかりばらばらの状態で遺っていた。遺骨は集められ、公費で埋葬される(註37)。その後は幸いにも、両手に枷をはめられた出現物が、家に現れることはなくなった(註38)。
       
 12  Et haec quidem affirmantibus credo; illud affirmare aliis possum. Est libertus mihi non illitteratus.     この出来事を確言する人たちを私は確かに信じるし、そのことを他の人々に確言することができる(註39)。私の知り合いに、無学ならざる自由人がいる(註40)。
   Cum hoc minor frater eodem lecto quiescebat. Is visus est sibi cernere quendam in toro residentem, admoventemque capiti suo cultros, atque etiam ex ipso vertice amputantem capillos. Ubi illuxit, ipse circa verticem tonsus, capilli iacentes reperiuntur.    この人と共に、弟が同じ寝台で横になっていたのだが(註41)、寝台に誰かが座って、自分(弟)の頭部に向かって小刀を動かし、更につむじから毛髪を切り取ろうとしているのを確かなことに思った(註42)。夜が明けたとき、弟は自分の頭頂のあたりが刈られていて、髪が散らばっているのに気付く(註43)。
       
 13  Exiguum temporis medium, et rursus simile aliud priori fidem fecit. Puer in paedagogio mixtus pluribus dormiebat. Venerunt per fenestras - ita narrat - in tunicis albis duo cubantemque detonderunt et qua venerant recesserunt. Hunc quoque tonsum sparsosque circa capillos dies ostendit.    この少し後にも、先と同様の事が再び起きた。これも信ずるに値する出来事であった(註44)。[すなわち、或る]子供が小姓養成所で多数[の子供]と一緒に眠っていた(註45)。[少年の]話によると、白いトゥニカを着た二人が窓を通って[入って]来て、横たわっていた(その少年)の髪を切り、来た方向に帰って行った(註46)。少年がこのように髪を切られたこと、また切られた箇所の周辺の髪もまだらに刈られていることが、明るくなってから分かる(註47)。
       
 14  Nihil notabile secutum, nisi forte quod non fui reus, futurus, si Domitianus sub quo haec acciderunt diutius vixisset.     [こちらの近況はといえば、]私は罪を問われないことになった。それ以外には、これと言って変わったことは起きていない。例の出来事はドミティアーヌスが皇帝であった時に起こったが、ドミティアーヌスがもっと長生きしたとしても、私が罪に問われることにはならなかったであろう(註48)。
   Nam in scrinio eius datus a Caro de me libellus inventus est; ex quo coniectari potest, quia reis moris est summittere capillum, recisos meorum capillos depulsi quod imminebat periculi signum fuisse.    というのも、彼の文箱の中に、私からカールスに与えられた手紙が見つかったのだ。罪ある者たちにとって髪を伸ばすことが風習に属するゆえに、切り落とされた私の髪が、迫りつつあった訴訟への魔除けの印であったことが、手紙[の内容]から推測できるのだ(註49)。
       
 15  Proinde rogo, eruditionem tuam intendas. Digna res est quam diu multumque consideres; ne ego quidem indignus, cui copiam scientiae tuae facias.     それゆえあなたの学識を傾けて[教えて]ほしい(註50)。あなたは数多くの事どもを思料しているが、[出現物に関する]事柄もまた[考えるだけの]価値があることだ。それに私にも、あなたの豊かな知を分け与えてもらうだけの価値があるのだ(註51)。
 16  Licet etiam utramque in partem - ut soles - disputes, ex altera tamen fortius, ne me suspensum incertumque dimittas, cum mihi consulendi causa fuerit, ut dubitare desinerem. Vale.    さらにあなたがいつものように、いずれの側へも論を進めつつ、一方の側のためにいっそう強く論じるとしても、私をどっちつかずで確信が持てないままにしないでほしい。どちらかわからない状態を終わらせたくて、[あなたに]相談したのだから。敬具。(註52



   註1      ラテン文字ケー(C)はギリシア文字ガンマ(Γ)に由来するから、元々の発音は [g] である。後に "C" を [k] とも読むようになったので、グと読ませたいケー(C)に反転ガンマを付記し、"G" の文字ができた。ガイユス(GAIUS)の略記がケー(C)であるのは、この文字を [g] と発音していた名残である。
       
        ガイユスの母音の長短について。通常は、Gāius はガイユスと発音される。ガーイウスでもガーイユスでもない。

 この発音を説明するため、語源は無関係であるが、便宜上フランス語を引き合いに出す。現代フランス語において、ay, ey, oy, uy のイグレック(y)は二つのイ(i)に相当する。たとえば crayon はクラヨンではなくクレヨン(crai + ion)、grasseyer はグラセエではなくグラセイェ(grassei + ier)、voyage はヴォヤージュではなくヴォワヤージュ(voi + iage)、essuyer はエシュイェではなくエシュイイェ(essui + ier)と発音する。

 ガイユス(Gāius)の i は、上記のフランス語におけるイグレック(y)と同様、二つの i に相当する。

 一般にラテン語において《長音記号付きの母音 + i + 別の母音》の綴りが現れる場合(例. Gāius)、最初の母音に付く長音記号は、実際には長音を表さない。この長音記号は、これを含む音節が位置によって長いという意味、言い換えれば次の i を二度読めとの指示を表す。つまり Gāius は i を二回読んで、実際にはガイユス(Ga + i + ius)と発音される。ラテン語に ai という二重母音は存在しないから、Ga + i は短音節+短音節であり、位置によって長い。位置によって長いのと母音が本来長いのとでは「長い」の意味合いが異なるが、位置によって長いことを示す特別な記号は存在しないから、長母音の記号を流用している。

 すなわち《長音記号付きの母音 + i + 別の母音》というラテン語の綴りにおいて、長音記号が付いた母音は実際には短母音であって、これに続く短い i と合わせれば2モラの長音節になる。最初の母音に付いた長音記号は母音を長く発音するという意味ではなく、その母音を含む音節が位置によって長いことを示す。アープレイユス(Āpulēius)も同様である。

 正確を期して付記すると、詩では Gāius をガーイウスと読む場合がある。これは韻律の関係で起こる現象である。Gāius はもともと Gāvios に由来し、Gāvios の長音記号は通常通り長音を表す。ガーイウスという詩の発音は、ガーウィオスの長音が保存されたものといえる。
       
   註2    Et mihi discendī et tibi docendī facultātem ōtium praebet.

 (直訳) 閑暇は学ぶことの機会を私に、教えることの機会をあなたに与えている。

※ facultās は能力と訳されることが多い。しかしながらこの語は facilis と語根を共有し、容易さ、すなわち物事を容易に為し得る機会・好機という意味をも表す。上記引用箇所において、facultās は好機の意味で用いられている。
       
   註3    φαίνω v.a. 表す、示す、可視化する;v.n. 輝き出る  ※ 現在幹 φαιν- に挿入されているヨッド(ι)は、進行相(未完了のアスペクト)を表す。このような印を、a present progressive marker と呼ぶ。

 一般にニュー(ν)で終わる動詞幹に進行相のイオタ(ι)が付くと、イオタはニューの前に来て ιν となる。すなわち現在幹 φαιν- は、本来の動詞幹 φαν- に進行相のイオタが付いた形である。cf. φᾱνός, φᾱνή, φᾱνόν, adj. 輝く、明るい

φαντάζω v.a. 見せる、可視化する
φάντασμα(gen. φαντάσματος) n. 出現物、幽霊、見えるもの
       
        ロー(ρ)で終わる動詞幹にも同様のことが起こる。

例 χαρ-(歓ぶ) → χαίρω

 Χαῖρε Μαρία κεχαριτωμένη, ὁ Κύριος μετά σοῦ. めでたし 聖寵充ち満てるマリア、主御身とともにまします。

※ しかるにアオリスト(過去時制の一種)は完了相であるので、ローの前にイオタは入らない。 ἐχάρην(私は歓んだ)

※ κεχαριτωμένος は χαριτόω の中動態完了分詞。χαριτόω(歓ばせる)は、名詞 χάρις(歓び)に動詞語尾 -όω(…にする、…させる)が付いた形。χάρις と χαίρω は同語根。χάρισμα, εὐχαριστία の語根はいずれも χάρις である。
       
       補註 1 ラテン語カーリタース(cāritās)には chāritās という異綴りがあるが、カーリタースは形容詞カールス(cārus)の語幹に繋ぎの音イー(i)を介して名詞語尾タース(-tās)を付けたものであって、純然たるラテン語であるから、ハー(h)は本来不要である。異綴り chāritās はギリシア語の影響による。
       
       補註 2 フランス語シェール(cher/chère)、シャリテ(charité)のアッシュ(h)は、上記の異綴りカーリタース(chāritās)とは無関係で、ロマンス語の次元の問題である。すなわち七世紀から八世紀の北部及び中部フランスにおいて、a の直前の k音が例外なく口蓋化し、まずキャに、次いでシャになった。ただしこの音韻変化は、ノルマノ・ピカルディ方言では起こらなかった。
       
   註4    Ego ut esse [phantasmata aut nūmen] credam in prīmīs eō dūcor, quod audiō accidisse Curtiō Rūfō.

(直訳) 私はといえば、[出現物が]存在すると信じる方へと引かれている。[これは]主にクルティウス・ルーフスに起こったと聞くことによる。

※ 従属節中に補った phantasmata aut nūmen は、esse(存在する)の対格主語。

※ ut ... credam は結果の副詞節。credam は従属接続法。従属接続法については、中山恒夫「古典ラテン語文典」(以下、文典) p. 266 3(d) 参照。

※ in prīmīs 主に;特に;第一に ※ imprīmīs とも綴られる副詞句。ここでは eō に係る。

※ id ... quod(...ということ)の id が奪格 eo に置かれ、dūcor の理由を表す副詞節を導いている。
       
   註5    Tenuis adhūc et obscūrus, obtinentī Āfricam comes haeserat.

 (直訳) [クルティウス・ルーフスは]未だ地位も無く名も無く、アフリカの行政官に部下として付き従っていた。

obtinēns Āfricam アフリカを占有する者、アフリカを任地とする行政官

comes 同輩、仲間;後見人、教育掛;随行員、侍臣 ※クルティウス・ルーフスは未だ出世していないので、ここでは部下の意。
       
   註6    Perterrito Āfricam se [esse dīxit, et] futūrōrum praenūntiam dīxit.

 (直訳) 大いに恐れる者に対し、自分はアフリカであると言い、また今後有るべき事どもの予告を言った。

fuō, ere, fuī, futūrus, v.n. 在る
       
   註7    Ipse certe implicitus morbō futūra praeteritis [auguratus, et] adversa secundis auguratus,

 (直訳) 確かに、病に絡み付かれて、過去の事どもによって来るべき事どもを、豊かさによって逆境を予想したクルティウス・ルーフスは

※ Ipse, implicitus, augurātus はいずれも主格で、文全体の主語であるクルティウス・ルーフスに係る。

※ augurātus は形式受動態動詞 auguror (= augurō)の完了分詞。futūra と adversa は、中性複数対格(…の事どもを)。praeteritīs と secundīs は、中性複数奪格。

secunda, ōrum, n. 恵まれた境遇、豊かな資産 ※ 形容詞 secundus には恵まれた、幸運なという意味がある。ここでは secundus の中性複数形が実体詞として使われている。
       
       
   註8    アテーナエ(羅 Athēnae)の地格は、奪格と同じアテーニース(Athēnīs)。文典 p. 225 (a), (c)

因みに古典ギリシア語では格の数がさらに減り、奪格は概ね与格に吸収されている。したがって古典ギリシア語の地格は与格と同型である。アテーナイ(希 Ἀθῆναι)の場合は、アテーナイス(Ἀθήναις)。
       
   註9    Per silentium noctis sonus ferri

 (直訳) 夜の静けさを通して音が聞こえる。 ※ 不定法 ferri の用法は、歴史的不定法。文典 p. 247の6
       
   註10    εἶδος (gen. εἴδους)  形、見た目の姿;(アリストテレスにおける)形相(羅 speciēs, ēī, f.)

εἴδωλον (gen. εἰδώλου) 幻影、幽霊;形;心像;偶像 (羅 idolum/idolon)
       
   註11    maciēs, ēī, f. [macer] 痩せた状態、貧弱、病弱
       
   註12    squāleō ざらざらしている、汚い、荒れ果てている

squālor, ōris, m. ざらざらしていること、汚穢、垢、襤褸、悲惨、荒涼
       
   註13    prōmissā barbā horrentī capillō 絶対的奪格

horreō, ēre, horruī, v.n., v.a. 逆立つ、寒さに震える、戦慄する、驚いて呆然とする
       
   註14    crūs, crūris, n. 脚  manus, manūs, f. 手

※ crus は第三変化。manus は第四変化。

※ crūribus, manibus は仕方の奪格(ablātīvus modī)。奪格のこの用法は、共格に由来する。文典 p. 218, 6(e)

compēs, pedis, f. 足枷;桎梏、絆
       
   註15    Inde inhabitantibus tristēs dīraeque noctēs per metum vigilābantur.

 (直訳) そのことから、住人たちによって、悩ましく恐ろしい夜々が恐怖によって明かされていた。

metus, ūs, m. 恐怖;恐怖の対象
       
   註16    Vigiliam [sequebātur] morbus et crescente formidine mors [vigiliam] sequebātur.

 (直訳) 病気が徹夜に続き、恐怖が大きくなるにつれて、死が[徹夜に]続く状況であった。
       
   註17    memoria imaginis oculīs inerrābat, longiorque causīs timoris timor erat.

 (直訳) 姿の記憶が眼をさまよい、恐怖の諸原因によって、恐怖はいっそう長かったからである。

inerrō, āre, āvī, ātum, v.n. ある所(dat.)をさまよう;念頭に浮かぶ
       
       
   註18    Dēserta inde et damnāta [fuit domus] solitūdine[,] domus tōtaque illī mōnstrō relicta [fuit].

 (直訳) そのことゆえに、[家は]放棄され拒否されて、顧みられない状態(solitūdō の奪格)になった。そして家全体がかの化け物に遺された。
       
   註19    幽霊屋敷の噂は既に誰でも知っているから、買いたい人も借りたい人もいないであろう、との意味。tantī malī は形容詞 īgnārus の目的語的属格。文典 p. 192 2(a)
       
   註20    カナナのアテーノドーロス(Ἀθηνόδωρος Κανανίτης, Athenodorus Cananites. c. 74 B.C. - 7 A.D)はストア派の哲学者。
       
   註21    quia suspecta [est] vilitas, percunctatus omnia docetur

 (直訳) 安値が疑われたので、全てを問い合わせた人(アテーノドーロス)は教えられる。

vīlis, e, adj. 安価な;つまらない、無価値な

percunctor = percontor, ārī, ātus sum, v. dep. 尋ねる、問い合わせる、探求する
       
   註22    percunctatus omnia docetur ac nihilo minus, immo tanto magis conducit.

 (直訳) あらゆることを調べた人(アテーノドーロス)は、[事情を]教えられる。そしてそれにもかかわらず、たしかにそれだけいっそう借りる。

immo は強調の副詞で、肯定の意味にも否定の意味にも使われる。ここでは肯定の意味(たしかに)で使われている。
       
   註23    iubet sternī sibi in prīmā domūs parte, pōscit pugillares stilum lumen, suos omnes in interiora dimittit;

 (直訳) [アテーノドーロスは]家の主要部分において自分のために平らにされることを命じ、書き板と蠟筆と灯りを求め、自分の関係者すべてを[家の]内部へと送り込む。

※ 廃屋内は残置物で散らかっていたはずだから、アテーノドーロスはそれらの残置物を片付けさせたのである。

sternō, ere, strāvī, strātum, v.a. 投げ落とす、打ちのめす;(se sternere または sternī)横になる;平らにする、舗装する
pōscō, ere, popōscī, v. inch. a. 要求する、必要とする;調べる、探求する

pūgnus, ī, m. 握りこぶし
pugillus, ī, m. dim. 握りこぶし
pugillāris, e, adj. こぶしの、こぶし大の、掌中に収めうる
pugillārēs, ium, m. pl. (sc. libelli) 書き板 = pugillar, āris, n. = pugillāria, ium, n. pl.
       
   註24    ipse ad scrībendum animum oculōs manum intendit, nē vacua mēns audīta simulacra et inānēs sibi metūs fingeret.

 (直訳) 彼(アテーノドーロス)は霊魂を記述するために、両目と手を引き締める。耳にされたのと似た事どもや[様々な]無用の恐れを、空(から)の精神が自らのために作り出すことが無いように。

※ 如何にも理性を重んじるストア派らしい態度である。

inānis, e, adj. 空虚な、無益な、ばかげた

metus, ūs, m. 恐怖、恐怖の対象
       
   註25    Initio, quale ubique, silentium noctis; dein concuti ferrum, vincula moveri.

 (直訳) はじめに、夜のある種の静寂がいたるところに[あった]。次いで鉄が揺り動かされ、桎梏が動かされるのが[聞こえた]。

※ ferrum は concuti の対格主語。vincula は moveri の対格主語。

ubique, adv. どこでも、いたるところに
quālis, e, adj. pron, (疑問的)どのような;(関係的)qualis ..., talis ~ ...のような、そのような~;(不定的)ある種の

quatiō, tere, quassum, v.a. 振動させる、揺り動かす;打つ、叩く
concutiō, tere, cussī, cussum, v.a. 打ち合わせる、揺り動かす
concussiō, ōnis, f. 振動、衝撃、擾乱
       
   註26    Ille nōn tollere oculōs, nōn remittere stilum, sed offirmāre animum auribusque praetendere.

 (直訳) 彼(アテーノドーロス)は両眼を上げず、蠟筆を手放さず、決意を強固にして両耳を前に差し出す。

※ これ以降の動詞は歴史的不定法を多用し、出現物がどんどんと近づいてくるさまを効果的に描写している。

offīrmō, āre, āvī, ātum, v.a. 強固にする、固くする
       
   註27    Tum crebrescere fragor, adventāre et iam ut in līmine, iam ut intrā līmen audīrī.

 (直訳) それからどよめき[のような音]が増え、だんだん近づき、今や敷居に、今や敷居の内側に聞かれる。

crēber, bra, brum, adj. 濃密な、充満せる;繰り返しの、たびたびの
crēbō, adv. 繰り返して、しばしば
crēbrescō, ere, bruī, v.n. 頻繁になる、増す、殖える、広がる

frangō, ere, frēgī, frāctum, v.a. 破砕する ; v.n.(船が)難破する
fragor, ōris, m. どよめき、騒ぎ

adveniō, īre, vēnī, ventum, v.n. 来る、到着する;現れる、突然起こる;分与される
adventō, āre, āvī, ātum, v.n. だんだん近づく、迫って来る
       
   註28    Respicit, videt agnoscitque narratam sibi effigiem.

 (直訳) [アテーノドーロスは][出現物を]待ち構え、[遂に]目撃し、自らに語られた影像を認める。

respiciō, cere, spēxī, spectum, v.n., v.a. 見返る;関係する、展望する;観察する、熟考する、顧慮する;待つ、期待する
āgnōscō, ere, āgnōvī, āgnitum, v.a. [ad + gnōscō] 認識する;気付く、認める
       
   註29    Stabat innuebatque digito similis vocanti.

 (直訳) [噂に聞くのと]似た者が立ち、呼びかける者(アテーノドーロス)に向かって指で合図を送っていた。

innuō, ere, nuī, nūtum, v.n. 目くばせする
       
   註30    Hic contra ut paulum exspectaret manu significat rursusque ceris et stilo incumbit.

 (直訳) この者は[アテーノドーロスに]相対して、[アテーノドーロスが]僅かな事を予期するように、手で後方を指し示し、[数枚の]蠟石盤と[一本の]蠟筆の方に屈む。

contrā, adv. 相対して、向かいに;それに対して、他方で;これに反して、反対に
rūrsus, adv. 後ろへ、元へ;再び、更に;それに対して、これに反して、逆に、他方
cēra, ae. f. 蠟;蠟石盤
       
   註31    Illa scribentis capiti catenis insonabat.

 (直訳) そこ(蠟石盤)に書いている者(アテーノドーロス)の頭に、鎖で鳴り響いていた。

※ 文頭の illa を奪格(sc. illā cerā)と解して訳したが、主格(sc. illa effigiēs)とも取れる。

※ catenīs insonābat における奪格 catenīs の類例; cūjus latus perforātum undā flūxit et sanguine  かの御方の槍で貫かれた脇腹は、水と血を流した(直訳;水と血で流れた)。
       
   註32    Respicit rursus idem[,] quod [respicit] prius innuentem [significare], nec moratus tollit lumen et sequitur.

 (直訳) [アテーノドーロスは、]先に合図を送っている者が[指し示す significare][と思う respicit]のと同じ物を、再びじっと見る。そして躊躇わない者(アテーノドーロス)は灯火を持ち上げ、後に従う。

※ idem quod …と同じ物
※ innuentem は、省略されている sīgnificāre の対格主語。関係代名詞 quod は、省略されている sīgnificāre の目的語。
※ quod の先行詞 idem は文頭の Respicit の目的語であるが、省略されている respicit の目的語でもある。二つめの respicit は(先に合図を送っている者が指し示す sīgnificāre と)思う、の意であるが、文頭の Rescipit がこれを兼ねている。

respiciō, cere, spēxī, spectum, v.n., v.a. 見返る;関係する、展望する;観察する、熟考する、顧慮する;待つ、期待する
rūrsus, adv. 後ろへ、元へ;再び、更に;それに対して、これに反して、逆に、他方

mora, ae, f. 遅滞;休止;時、時間;阻止、妨害
moror, ārī, ātus sum, v. dep. 止まる、ためらう;妨げる、制止する、束縛する
nihil moror 躊躇しない;構わない(acc. c. inf. と);~に関係しない
       
   註33    Ibat illa lento gradu quasi gravis vinculis.

 (直訳) あたかも重い枷ゆえのような緩慢な歩みで、影像は行った。

※ 文頭の illa は主格で、effigiēs を指す。effigiēs, ēī, f. をはじめ、第五変化名詞は女性(他の例 rēs, eī, f.)または男性(例 diēs, ēī, m.)で、中性名詞は無い。

※ 動詞のスピーヌム幹に由来し単数主格が -us で終わる gradus, ūs, m. のような名詞を、行為名詞と呼ぶ。第四変化名詞はほとんどが男性であるが、少数の女性名詞と数語の中性名詞を含む。行為名詞はすべて男性である。
       
   註34    Postquam deflexit in aream domus, repente dilapsa deserit comitem.

 (直訳) 家の中庭に向かって曲がった後、突然消え去った者(影像)は、同伴者(アテーノドーロス)を後に残す。

repēns, entis, adj. = repentīnus 突然の ※ 語源不詳
repentē, adv. 突然、急に

dīlābor, ī, lāpsus sum, v. dep. 崩れる、分解する;衰える、消え去る;溶けてなくなる;脱する、逃れる;消失する、姿を隠す
       
   註35    Desertus herbas et folia concerpta signum loco ponit.

 (直訳) 取り残された者(アテーノドーロス)は引き抜かれた草と木の葉を目印として[影像が消えた]場所に置く。

carpō, ere, psī, ptum, v.a. 刈る、抜く、摘み取る;選び取る、利用する
concerpō, ere, cerpsī, cerptum, v.a. 引き抜く、ちぎる;扱き下ろす、酷評する
       
   註36    Postero die adit magistratus, monet ut illum locum effodi iubeant.

 (直訳) 後日、行政官が[幽霊屋敷を]訪れ、その場所が掘り返されることを[役人たちが]命じるように勧告する。

magistrātus, ūs, m. 官職、官吏
fodiō, dere, fōdī, fossum, v.n., v.a. 彫る、掘り出す
       
   註37    Inveniuntur ossa inserta catenis et implicita, quae corpus aevo terraque putrefactum nuda et exesa reliquerat vinculis; [ossa] collecta publice sepeliuntur.

 (直訳) 鎖に(dat.)合わせられ、鎖と結びついた[幾つもの]骨が見つかる。歳月と土によって腐った遺体は、それらの骨を、枷において、剥き出しですっかり破壊された状態で遺していた。集められた[骨]は公費で埋葬される。

īnserō, ere, sēvī, situm, v.a. 植え付ける;接ぎ木する;一体と為す;刻みつける

implicō, āre, āvī, ātum, v.a. 巻き込む;結び合わせる
implicitus, a, um, p.p., p.a. 混乱の原因となるような、難しい;包まれた、隠された

aevum, ī, n. 時の継続;永世、永遠;aetās と同義
aetās, ātis, f. 年齢;若年、若者;丁年、全盛期;老年;寿命

exedō, ere, ēdī, ēsum, v.a. 食い尽くす、すっかり破壊する
relinquō, ere, līquī, lictum, v.a. 残す、遺す、ある状態に残す ※ relīquerat 直説法能動態過去完了三人称単数
sepeliō, īre, pelīvī, pultum, v.a. 葬る;滅ぼす;秘匿する
       
   註38    Domus postea rite conditis manibus caruit.

 (直訳) 家はその後幸いにも、組み合わせられた両手を欠いた。

※ 組み合わせられた両手(conditae manūs)とは、枷をはめられた両手のこと。枷をはめられた老人の姿を、conditae manūs で表現している。

rītus, ūs, m. (特に宗教的な)儀礼、慣習
rītū, (gen.支配)adv. …の方法で、…のように
rīte, adv. 習慣に従って、在来の方式で;正しい方法で、適切に;幸いにも、上手く、成功して

condō, ere, didī, ditum, v.a. 組み合わせる、組み立てる;基礎を作る;想像する;作成する、起草する;保護する、保管する、貯蔵する、換金する、隠す
careō, ēre, caruī, ritum, v.n. …無しである、…に欠ける(alqa re);遠ざかる、制する(alqa re);無しで済ませる(alqa re)
       
   註39    Et haec quidem affirmantibus credo; illud affirmare aliis possum.

 (直訳) これらのことを確言する人たちに、私は確かに信を置く。そのことを他の人々に確言することが、私にはできる。
       
   註40    Est libertus mihi non illitteratus.

 (直訳) 私には自由な(解放された)人がいて、その人は無学でなはい。
       
   註41    Cum hoc minor frater eodem lecto quiescebat.

 (直訳) この人と共に、弟が同じ寝台に休らっていた。
       
   註42    Is visus est sibi cernere quendam in toro residentem, admoventemque capiti suo cultros, atque etiam ex ipso vertice amputantem capillos.

 (直訳) 弟自身の判断では(sibi)、誰かが寝台に座り、自分(弟)の頭部に向かって小刀を動かし、更につむじから毛髪を切り取ろうとしているのを、自分(弟)が見分けているのは明らかであった。

S videtur + inf. Sが…するのは明らかである
S vīsus est + inf. Sが…するのは明らかであった ※ videturが完了形になったもの。

※ 引用した文頭の Is は主格(男性単数)で、弟を指す。
  Is vīsus est sibi cernere quendam 弟自身の判断では(sibi)、彼が(Is)或る人を見分けているのは明らかであった(vīsus est)。

※ sibiは、判断者の与格。「自分の判断では」 文典 p.202の6

torus, ī, m. 隆起、こぶ状のもの;長枕、クッション;長椅子、寝台、色事、棺架

resideō, ēre, sēdī, sessum, v.n. 居る、残留する;無為である、仕事をしない;残る、余っている;座っている
resīdō, ere, sēdī, sessum, v.n. 座る、留まる;沈む、没する;引き込む、退く;しずまる、ゆるむ

culter, trī, m. 小刀;家畜屠殺用の刀、剃刀

vertō, ere, rtī, rsum, v.a., v.n. 回す、回る、向きを変える・変えさせる
vertex, ticis, m. 渦;旋風;火柱;つむじ、頭頂;天の回転、天極;先端、頂点;高所、山
verticālis, e, adj. 頭頂の、鉛直の
       
   註43    Ubi illuxit, ipse circa verticem tonsus [reperit], [et] capilli iacentes reperiuntur.

 (直訳) 夜が明けたとき、弟は自分の頭頂の周囲が刈られているのを見出す。[さらに]散らばる髪が見出される。

illūceō, ēre, lūxī, v.n. 光る、輝く;夜が明ける
reperiō, īre, repperī, repertum, v.a. 再び見出す;発見する、探求して得る;経験する、実証する;獲得する;案出する
       
   註44    Exiguum temporis medium, et rursus simile aliud priori fidem fecit.

 (直訳) 介在する時間の少量が[あって]、先と同様の他の事が再び[起きて]、確信を為した。

※ 前半は、形容詞 medium が名詞 exiguum を修飾している。Exiguum medium は、広がりの対格(accūsātīvus spatiī)。文典 p. 213

※ 後半の主語は simile aliud で、与格 priorī は simile に係る。fidem fecit(直訳;信ずる気持ちを為した)は「人に信じられた」という意味の成句で、ここでは「信ずるに値する出来事であった」との意味。

※ rūrsus は副詞であるが、priorī と共に simile aliud に掛けて、「再び起こった以前のようなもうひとつの出来事」と解するほうが、fidem fecit に掛けるよりも意味が通りやすい。

exigō, ere, ēgī, āctum, v.a. 追い出す;動かす
exiguus, a um, adj. 狭い;短い、限られた;小さい、微量の
exiguum, n, 少量、微量

fidēs, ēī, f. 信ずるという心的態度、確信
fidem alci facere 或る人に信じられる
       
   註45    Puer in paedagogio mixtus pluribus dormiebat.

 (直訳) [或る]子供が小姓養成所で多数[の子供]と交じって眠っていた。

παῖς, παιδός, m./f., n. 子供
ἄγω, v.a. 導く (L. agō)
παιδαγωγός, οῦ, m. 教師
παιδαγωγία, ᾱς, f. 教育
παιδαγωγεῖον, -ου, τό 小姓(英仏 page)の養成所
paedagōgīum, ī, n. 小姓の養成所
       
   註46    Venerunt per fenestras - ita narrat - in tunicis albis duo cubantemque detonderunt et qua venerant recesserunt.

 (直訳) [少年は]次のように語っている。白いトゥニカを着た二人が、(二つの)窓を通って[入って]来て、横たわっている者(語り手の少年)の髪を切り、来た方向に帰って行った。

※ dētondērunt, recessērunt は直説法完了。venerant は直説法過去完了。

quā, adv. そちら側に、その場所に、その方向に、そこを通って ※ ここでは副詞節 quā venērant が recessērunt に係っている。
       
   註47    Hunc quoque tonsum sparsosque circa capillos dies ostendit.

 (直訳) さらにこの剃髪を、また周囲でまだらの髪を、昼間が明らかにする。

tondeō, ēre, totondī, tōnsum, v.a. 刈る、剃る;むしり取る、食い尽くす
tōnsus, ūs, m. 剃髪、理髪

spargō, ere, rsī, rsum, v.a. ばらまく、振り掛ける
sparsus, a, um, p.p. 斑(まだら)の
       
   註48    Nihil notabile secutum [est], nisi forte quod non fui reus, futurus, si Domitianus sub quo haec acciderunt diutius vixisset.

 (直訳) 注目に値することは何も続いていない。私は罪を問われない成り行きとなったし、例の事どもが起こったときの[皇帝]ドミティアーヌスがもっと長生きしたとしても、私が罪に問われることにはならなかったであろうことを除けば。

※ 出現物の話題から転じて、小プリーニウスは書簡の相手に近況を報告している。その内容は怪談ではないが、面白いことに髪を切ることと関係がある。

Domitiānus sub quō haec accidērunt その御宇に例の事どもが起こったところのドミティアーヌス ※ accidērunt は直説法完了。

non [fui] futūrus reus sī Domitiānus diūtius vīxisset ドミティアーヌスが長生きしていたとしても、私が罪に問われることにはならなかったであろう。 ※ futūrus は迂言的未来。文典 p.167 2(a) vīxisset は接続法過去完了。文典 p.310の5, p.312の7

sequor, quī, secūtus sum, v.dep. …に従う、…に伴う;…に続く
reus, a um, adj. …の(gen.)負債・責任・義務がある;subst. 犯人
       
   註49    Nam in scrinio eius datus a Caro de me libellus inventus est; ex quo coniectari potest, quia reis moris est summittere capillum, recisos meorum capillos depulsi quod imminebat periculi signum fuisse.

 (直訳) というのも、彼の文箱の中に、私からカールスに与えられた手紙が見つかったのだ。罪ある者たちにとって髪を伸ばすことが風習に属するゆえに、切り落とされた私の髪が、迫りつつあった訴訟への魔除けの印であったことが、手紙[の内容]から推測できるのだ。

※ 後置された名詞句 recīsōs ... fuisse が、conjectārī potest(推測されうる)の主語になっている。主語(recīsōs ... fuisse)と述語動詞(conjectārī potest)の間に quia が導く副詞節が挿入され、判断の根拠を示している。

recīsōs meōrum capillōs dēpulsī sīgnum fuisse 切り落とされた私の髪が、魔除けの印であったということ

※ recīsōs meōrum capillōs は fuisse の対格主語。dēpulsī sīgnum は 対格主語の属詞(仏 attribut)

quod imminēbat perīculī 迫りつつあった訴訟の

※ 関係代名詞節 quod imminēbat の先行詞は perīculī だが、後置されている。


scrīnium, ī, n. 本箱、文箱、文庫
mōs, mōris, m. 習慣、風習;規則;流儀、様式;方法;(pl.)性格。特徴、徳、風紀
summittō, ere, mīsī, missum, v.a. 成長させる 例 summittō capillōs 髪を伸ばす

caedō, ere, cecīdī, caesum, v.a. 打つ、叩く、鞭打つ;伐る、倒す;(石を)切り出す;切断する、打ち砕く;打ち倒す、斬り殺す、斃す、屠殺する
recīdō, ere, cīdī, cīsum, v.a. 切り離す、切り落とす、(大理石を)切り出す;取り除く;切り取る、小さくする

dēpellō, ere, pulī, pulsum, v.a. 投げ下ろす;追い出す;離乳させる;抑留する、防ぎ守る(alci alqd);人を何かから遠ざける(alqm re)
dēpulsum, ī, n. 魔除け

immineō, ēre, v.n. 突出する、張り出す(c. dat.);人を悩ます;或るものに向かって努力する・うかがう;秀でる、聳える;(災いが)迫る

experior, īrī, pertus sum, v. dep. (abs.)試す、試験をする;(trans.)…を試す、吟味する;企てる、掛ける、冒険する;…と優劣を競う、論争する;体得する、経験して覚える、習い覚える、見聞する;(不快なことに)耐える、忍ぶ
perīculum, ī, n. 試み、試験;試論;危険、冒険;訴訟、裁判調書、判決;重病;破滅
       
   註50    Proinde rogo, eruditionem tuam intendas.

 (直訳) それゆえに私は依頼する。あなたがその学識を向けることを。

※ intendās は配慮・要求動詞に続く目的文の接続法。文典 p.283の2 日常語においては二人称の接続法が命令法の代用とされることがよくあるから、こちらの用法と解しても良い。文典 p.93の(3)a
       
   註51    Digna res est quam diu multumque consideres; ne ego quidem indignus [sum], cui copiam scientiae tuae facias.

 (直訳) あなたが数多くに至る事どもを思料するあいだ、[出現物に関する]事柄は、[考えるだけの]価値がある。[いっぽう]あなたの知の豊かさを与える相手として、私も決して無価値ではない。

※ Dīgna を rēs(この事、すなわち出現物に関する事)の属詞(仏 attribut)と考えることもできるし、明示されていない主語(すなわち、出現物に関する事)の属詞が Dīgna rēs であると考えても良い。

quam-diū, adv. 如何に長らく?;…の間、…の限り
-que, conj. (数について)…まで

quidem, adv. 確かに、全く;少なくとも;例えば;だが、しかし
nē quidem, adv. 決して…でない

faciō, ere, fēcī, factum, v.a., v.n 実行する、果たす(alqd, alci alqd);或る人に或る物を与える(alci alqd)
       
   註52    Licet etiam utramque in partem - ut soles - disputes, ex altera [parte] tamen fortius, ne me suspensum incertumque dimittas, cum mihi consulendi causa fuerit, ut dubitare desinerem. Vale.

 (直訳) さらにあなたがいつものように、いずれの側へも論を進めつつ、一方の側のためにいっそう強く論じるとしても、私が宙に吊られて確信が持てずにいる状態に放置しないでほしい。疑わしく思うのを止めるために、[あなたに]相談する理由が、私にはあったのだから。敬具。

alter, era, erum, (gen. alterīus, dat. alterī), adj. pron. 二者のなかのひとつ;他の方、もう一つの方;相対するもの;第二の物(数詞的に)
ē/ex, prep. …のために 例. ē rē pūblicā esse 国家・公益のためになる
dēsinō, ere, siī, situm, v.a., v.n. 中止する、止める、思いとどまる;…を放棄する



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