ジュール=クレマン・シャプラン
Jules-Clement Chaplain, 1839 - 1909



ジュール=クレマン・シャプラン自身による自画像のメダイユ


 ジュール=クレマン・シャプラン (Jules-Clement Chaplain, 1839 - 1909) は1863年のローマ賞受賞者です。1869年にパリに戻り、早くも1870年と72年のサロン展で注目を集めました。


【シャプランによるメダイユの特徴】

 シャプランはダヴィッド・ダンジェ (Pierre-Jean David d'Angers, 1788 - 1856) 作品のような立体性にこだわらず、のびのびと描いた輪郭線のみの力で、人物を背景から浮き出させます。下に示したのはフランス共和国の終身上院議員 (sénateur inamovible) でもありアカデミー・フランセーズ会員でもあったジュール・シモン (François-Jules Suisse, dit Jules Simon, 1814 - 1896) の依頼により製作した夫人の肖像メダイユですが、物理的な三次元性に頼らずに人物を背景から浮かび上がらせるシャプランの腕前がよくあらわれています。


(下) Jules Clement Chaplain, "Sarah Gustave Simon", 1890, cast bronze, 215 x 160 mm, private collection, U.S.A


 後述するように、シャプランはフランス共和国政府の公式メダイユ彫刻家で、1896年にロシア皇帝夫妻がフランスを訪問した際の公式記念メダイユを製作しています。皇帝夫妻の横顔が重ねて刻んだこのメダイユの浮き彫りは、それほど肉厚ではないにもかかわらず、あたかも丸彫り像のような立体性を感じさせます。シャプランと同時代の人であるメダイユとコインの研究家レナード・フォラー (Leonard Forrer) は、その「メダイユ彫刻家名鑑」("Biographical Dictionary of Medallists", Spink and son, London, 1902) の中で、この作品をメダイユの最高傑作として絶賛しています。

(下) Jules Clement Chaplain, "L'Empereur et l'Imperatrice de Russie visitent la manufacture nationale de Sèvres, 8 octobre 1896"  当店の商品です。




【フランス共和国の公式メダイユ彫刻家としてのシャプラン】

 1877年、シャプランは弱冠38歳にしてフランス共和国政府の公式メダイユ彫刻家に指名され、翌1878年にレジオン・ドヌール・シュヴァリエを受章、その3年後の1881年には、この年に死去したジャック=エドゥアール・ガトォ (Jacques-Edouard Gatteaux, 1788 - 1881) のあとを襲い、フランス学士院アカデミー・デ・ボザール(Académie des Beaux Arts 美術アカデミー)の会員となっています。

 シャプランはフランス共和国政府から公式メダイユ彫刻家の指名を受け、第三共和制初期の大統領たち、すなわち第二代大統領マクマオン (Patrice Mac-Mahon, 1808 - 1873 - 1879) から第八代大統領のルーベ (Emile Loubet, 1838 - 1899 - 1929) に至るまで、七名の肖像メダイユを彫っています。


(下) シャプランによる第二代大統領マクマオンの肖像メダイユ。裏面に刻まれたラテン語の銘 "SIC NOS SIC SACRA TUEMUR."(直訳「我らは神聖なるものを我ら自身のように見る」)は、「我らは神聖なる権利を命を賭して守る」という意味です。Jules Clement Chaplain, "Patrice Mac-Mahon, President de la Republique", 1877



(下) シャプランによる第八代大統領ルーベの肖像メダイユ。Jules Clement Chaplain, "Emile Loubet, President de la Republique Française", 1899





【同時代の芸術家、建築家の肖像メダイユ 1879年からの連作】

 1879年以降、シャプランは同時代の芸術家および建築家をテーマにした連作の製作に取りかかります。

 この連作は、これよりも半世紀前の1827年からダヴィッド・ダンジェが製作を始めた「『同時代人の肖像』シリーズ」("Galerie des Contemporains") に触発されたものと思われ、一作目はメダイユと丸彫りの彫刻家、オーギュスト・バール (Jean-Auguste Barre, 1811 - 1896) の肖像メダイユでした。

 他に、緻密な作風で当時最も人気があった画家エルネスト・メソニエ (Jean-Louis-Ernest Meissonier, 1815 - 1891) や、ガルニエ宮(Palais Garnier オペラ座 l'Opera)を設計したシャルル・ガルニエ (Charles Garnier, 1825 - 1898) も、この連作のモデルを務めています。



【裏面に施された彫刻の美】

 ダヴィッド・ダンジェの「『同時代人の肖像』シリーズ」は裏面に彫刻がありませんでしたが、シャプランの連作は裏面にも美しい像が彫られています。

 下に示すのは、第二帝政時代のオリエンタリズム絵画を代表する画家ジャン=レオン・ジェローム (Jean-Léon Gérôme, 1824 - 1904) の肖像メダイユです。表(おもて)面では豊かな髪が印象的なジェロームが精悍な横顔を見せており、フランス語とラテン語で「60歳の画家ジャン=レオン・ジェローム」「1885年」と書かれています。

 裏面では裸婦が絵筆を持ってカンヴァスに向かっており、その周りをスフィンクス、モスク、剣闘士の兜(かぶと)といった古代やオリエントに関わる事物が取り巻いています。古代とオリエントはいずれもジェロームが好んで作品に取り上げたテーマです。メダイユの下部にはラテン語式綴りのイタリア語で「絵画」(Pittura) と記されています。

(下) Jules Clement Chaplain, "Jean-Léon Gérôme", 1885, cast bronze, diameter 100 mm, private collection, U.S.A.





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