果樹の花とツバメを描いたパリのグラン・マガザン(百貨店)、「ラ・メゾン・ドレ」の小品版画。質が良く厚みのある中性紙に刷られたクロモリトグラフ(多色刷り石版画)です。花と鳥を組み合わせた左右非対称のデザイン、平面的なベタ塗りの背景は、19世紀のヨーロッパを席捲したジャポニスム(日本趣味)の影響であり、世紀末に広まったアール・ヌーヴォーを予告しています。
表(おもて)面には、うららかな日差しのなか、喜ばしげにさえずりながら群れ集うツバメたちを囲んで、咲き乱れる果樹の花々が描かれています。ツバメは農作物の害虫を大量に食べる益鳥であり、我が国におけると同様、フランスにおいても大切にされました。10年以上、ときには数十年に亙って、春になると同じ巣に帰るツバメは、顧客に何度も足を運んでもらいたいと願うグラン・マガザンのカードにぴったりのモティーフです。
裏面には、顧客を大切にする「ラ・メゾン・ドレ」の営業方針が書かれています。リトグラフを製作した印刷工房の名前が最下部に記されています。
本品は百数十年前のパリで製作されたものですが、それほどまでに古い物とは思えないほど良好な保存状態です。