くだものの妖精を描いた可愛らしいサイズの絵。質が良く厚みのある中性紙に刷られたクロモリトグラフ(多色刷り石版画)です。
表(おもて)面には、フランス語で「ポム・ダピ」と呼ばれる小さな赤いリンゴの籠を抱えた可愛らしい少女が描かれています。少女の髪にはりんごの花が飾られています。りんごの花がずいぶん大きく見えていますから、この少女はきっと小さなりんごの精なのでしょう。
ポム・ダピは非常に古い品種のリンゴで、アッピア街道に名を残す古代ローマのケンソル(監察官)、アッピウス・クラウディウス・カエクス (Appius
Claudius Caecus, BC 340 - 273) にその名を負うともいわれています。皮が軟らかい小粒のリンゴで、日光に当たる部分がルビーのように真っ赤になります。フランスではオルレアンにあったルイ13世
(Louis XIII, 1601 - 1610 - 1643) の果樹園で栽培されていたという 1628年の記録があり、その後長くフランスで愛されましたが、最近では見かけることが無くなりました。
画面の向かって左端には「ポム・ダピ」(pomme d'Apis) と書かれています。また画面左下には、パリ中心部のドーフィーヌ通り16番地にあったリトグラフの版元、オブリ
(Librairie Auguste Aubry) の名前があります。裏面は白紙です。
本品は百数十年前のパリで製作されたものですが、それほどまでに古い物とは思えないほど良好な保存状態です。