原子もレゴ・ブロックにたとえられる。「原子」とは物の材料になるとても小さな粒だ。原子の中心には「陽子」「中性子」というさらに小さい粒があって、このうち陽子の数により、どの元素の原子であるかが決まる。ある原子に含まれる陽子の数が一なら、それは水素の原子だ。陽子の数が二なら、それはヘリウムの原子だ。陽子の数が六なら炭素の原子、陽子の数が九十二ならウランの原子だ。
炭素原子には「炭素8」から「炭素22」まで、十五種類がある。元素の種類は陽子の数だけで決まる。中性子の数は違っていても構わない。十五種類の炭素の場合、陽子の数はどれも「六」で同じだが、「中性子」の数が異なっている。
陽子の数が同じで中性子の数が異なる物質を、その元素の同位体(アイソトープ)という。「炭素8」から「炭素22」までの十五種類は互いに同位体どうしだ。
「同位体」という名称は英語「アイソトープ」を漢字で訳したものだ。「アイソトープ」はもともとギリシア語で、「同じ場所」という意味だ。このように呼ばれるのは、「炭素8」から「炭素22」までの十五種類がいずれも「炭素」で、元素周期表の「六番」という同じ場所にあるからだ。
炭素の同位体の中でいちばん普通に見られるのは炭素12だ。炭素12は自然界に存在する炭素の99パーセント近くを占めている。いっぽうでいちばん有名なのは、炭素14だ。炭素14は放射線を出しながら原子が崩壊(壊れること)して、別の元素である窒素、詳しく言うと窒素14に変わる。
元素が他の元素に変わることは、ふつうは起こらない。薬品を混ぜ合わせても、熱しても、冷やしても、元素の種類は変わらない。レゴ・ブロックに当たる元素はそのままで、ブロックの組み合わせ(化合物)が変わるだけだ。
しかし珍しいことに、炭素14では、ふつう起こらないはずの元素の変化が起こる。炭素は生物の体を作るとても重要な元素だ。天然の炭素のほとんどは炭素12だが、炭素14もごく少量(0.00000000012パーセント)含まれている。
生きている生物は、体の中に、0.00000000012パーセントの炭素14を持っている。しかし生物が死ぬと、炭素14は窒素14に変わり始める。炭素14の半分が窒素14に変わるのに必要な時間の長さ(半減期)は、5730年であることがわかっている。
たとえば古い木が出土した場合、その木に含まれる炭素14の比率を測る。炭素14が全体の0.00000000006パーセント(元の半分)含まれていたら、その木が枯れたのは半減期と同じ5730年前だ。炭素14が全体の0.00000000003パーセント(元の四分の一)含まれていたら、その木が枯れたのは半減期二回分、つまり11460年前だ。
五千年とか一万年ぐらい前の遺物は、炭素14で年代測定ができる。しかし化石の年代はこれよりもずっと古いので、炭素14の代わりにウラン238を使う。年代測定の原理(基本的な仕組み)は炭素の場合と同じだ。
天然ウランには三種類の同位体があるが、ウラン238はその中でいちばん普通のウランで、全体の99パーセント以上を占めている。このウラン238はとても長い時間をかけて十八回崩壊し、鉛206になる。ウラン238の半減期は44億6800万年で、地球の年齢に近い。先カンブリア時代のように非常に古い時代の岩石は、ウラン238で年代測定を行っている。