第二部 生物進化史

5. ボディ・プランの決定

 最初の生物は、一個の細胞でできた「単細胞生物」だった。単細胞生物の体には前後や上下の区別がない。高等生物はたくさんの細胞でできた「多細胞生物」だ。人間の大人の場合、細胞の数はおよそ37兆個といわれている。

 

 高等生物の細胞はでたらめに集まっているわけではない。単細胞生物の場合とは違い、多細胞生物の体には前後や上下の区別がある。多細胞生物の体を構成する多数の細胞は、割り当てられた仕事を正しく行うために、決められた場所に集まり、手や足、心臓や胃など、体のパーツ(部品、部分)を作っている。

 

 

 細胞分裂胚の発生

 

 

 体の基本的な形を「ボディ・プラン」という。英語で「体の設計」という意味だ。現代の多細胞動物には二通りのボディ・プランがある。一つは「中心から外側に向かってどの方向にも同じ形をした動物」で、刺胞動物(イソギンチャク、クラゲ、サンゴなど)と海綿動物がこれに属する。もう一つは「左右対称の細長い体に前後の区別がある動物」(左右対称動物)で、昆虫や脊椎動物などほとんどの多細胞動物はこちらに含まれる。左右対称とは、中心線の右と左が同じ形をしているという意味だ。

 

 中心から外側に向かってどの方向にも同じ形をしている動物(イソギンチャクなど)と、左右対称の細長い体に前後の区別がある動物(昆虫、魚、哺乳類など)で、

ボディ・プランが異なる理由は何だろうか。

 

 答えは、「餌の採り方が違うから」だ。

 

 海綿動物と刺胞動物は同じ所にじっとしている。餌を探して広い範囲を移動したり逃げる餌を追いかけたりしない。このような動物のボディ・プランは、中心から外側に向かって、どの方向にも同じ形をしている。口は体の中心にある。

 

 これに対して昆虫や魚、鳥や哺乳類は、餌を求めて素早く動き回る。カタツムリやイモムシは素早く動かないと思うかもしれないが、イソギンチャクやクラゲに比べると十分に素早いし、昆虫、魚、鳥、哺乳類と同様に、進みたい方角を自分で決めて、動いている。そして餌を見つけると、体のいちばん前に付いた口で素早く捕まえる。

 

 要するに昆虫や魚、鳥や哺乳類は、一箇所でじっと餌を待つのではなく、自分で餌を探す生き方を選んだ。そういう採食行動(餌の採り方)に適したボディ・プランへ進化した結果、体は左右対称で、細長くなり、前後の区別もできた。体のいちばん前に口があるのも、餌を探して広い範囲を動き、ときには追いかけて捕まえる動物に適したボディ・プランだ。

 

 こういう習性とボディ・プランを持つ動物にとって、口と、餌を探すための感覚器官(人間で言えば、目、鼻、耳)は、とても重要だ。だから餌を探すための感覚器官はすべて口の近くに集まっている。

 

 感覚器官は、自分だけで働くことができない。目玉だけが転がっていても、その目玉には何も見えていない。感覚器官から入ってきた情報は、脳で処理されることで、はじめて役に立つ。目から入った情報を脳が処理することにより、はじめて「見える」(視覚が成立する)。

 

 したがって感覚器官と同じか、それ以上に重要なのは、だ。脳は、口と口を取り巻く感覚器官の近くに配置されている。左右対称の細長い体に、前と後ろの区別がある動物(昆虫、魚、鳥、哺乳類など)は、すべて脳を持っている。そしてどの動物の場合も、脳は体のいちばん前にある。これが「左右対称の細長い体に前後の区別がある」左右対称動物、つまりほとんどの多細胞動物に共通したボディ・プランだ。

 

 このボディ・プランはエディアカラ紀に現れ、カンブリア紀に確立したものだ。





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