第二部 生物進化史

3. ミトコンドリアと酸素呼吸

 原始的な動物が高等な動物へと進化する際に、最初に起こった重要な事件は、生物が酸素呼吸を始めたことだ。細胞が大気中から酸素を取り込むと、活性酸素ができる。既に書いたように、活性酸素は生物を傷つける猛毒だ。

 

 酸素がある場所で生きている生物は、「スーパーオキシド・ジムスターゼ」(SOD)という酵素で活性酸素を分解し、体への害を防いでいる。人体は三種類のスーパーオキシド・ジムスターゼ(SOD)を持つ。そのうちの一種類は、ミトコンドリアにある。

 

 

 ミトコンドリアは細胞内にある小さな粒のようなもので、とても変わった性質を持っている。前に書いたように、子供は両親から半分ずつの遺伝子をもらう。子供の体は、半分はお父さんから、半分はお母さんからもらったものだ。ところが、ミトコンドリアはお母さんからもらう。ミトコンドリアにも遺伝子(DNA)があるが、子供のミトコンドリアの遺伝子はお母さんのミトコンドリアの遺伝子と全く同じだ。お母さんのミトコンドリアの遺伝子は、おばあさんのミトコンドリアの遺伝子と全く同じだ。ミトコンドリアの遺伝子を調べれば、お母さん、おばあさん、ひいおばあさん、ひいひいおばあさん…というように、お母さん側の血筋を何千年でも遡ることができる。

 

 もうひとつミトコンドリアが変わっているのは、もともとは外から来た別の生物だったということだ。びっくりするようなことだが、ミトコンドリアはもともと外からやって来て、真核生物の細胞に住み着いた細菌だったのだ。それは役に立つ細菌だったので、真核生物はこの細菌を利用するために、自分の中に取り込んでしまった。

 

 ミトコンドリアの元の姿は、aプロテオバクテリアという好気性細菌だ。最初の生物は酸素が無い所にいた。その時代は酸素はどこにも無かったし、無い方がよかった。酸素は細胞を傷つける毒だからだ。しかしそのうち、酸素を好み、酸素呼吸をする細菌が現れた。もしも酸素を安全に利用できるなら、すばらしいことだ。酸素呼吸は大きなエネルギー(力)生み出すからだ。

 

 たとえばガソリンは牛乳よりも大きなエネルギー(力)を生み出す。人間がガソリンを飲めば死んでしまうが、もしもガソリンを平気で飲む人間が現れたら、すごい怪力を発揮しそうだ。

 

 平気で酸素を呼吸する好気性細菌は、ガソリンを飲んで怪力を出す人間のようなものだ。このように優れた力を持つ細菌が細胞の中に入って来たとき、細胞はこの細菌を追い出さず、飼い馴らして自分の一部に取り込んでしまった。細胞はこうして酸素呼吸の能力を手に入れた。酸素呼吸をできるようになった生物は、食べ物から大きなエネルギー(力)を取り出せるようになった。

 

 真核生物の細胞は、aプロテオバクテリアを取り込んで、ミトコンドリアとして使い始めた。これがいつ起こったことなのかは分かっていない。細胞が酸素呼吸を始めたとき、真核生物はまだ小さくて弱い単細胞生物だった。しかしこのとき真核生物は、強い力で泳ぎ、歩き、走り、飛ぶ大きな動物に進化する可能性を手に入れたのだ。





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