ブロンズ製のセンター・メダルとクルシフィクス、及び乳白色の半透明ガラス製ビーズを使用した美しいロザリオ。19世紀のフランスで制作されたものです。クルシフィクスはブロンズ製で、一切の飾りを排し、野の百合のように清潔な美を誇ります。
このロザリオが制作された19世紀は、ときに「ボンデュズリ」(bondieuserie 神様趣味)とも揶揄される華美な装飾の聖品が多く作られた時代でしたが、本品は稀な例外といえます。クレルヴォーの聖ベルナールの理念に従って建設された建築、とりわけ「プロヴァンスの三姉妹」と呼ばれ、いずれも聖母に捧げられたシトー会の修道院群に見られる簡素な美と同質の美しさが感じられます。
【参考写真・プロヴァンスの三姉妹 les trois sœurs provençales】
ル・トロネ修道院 abbaye du Thoronet
セナンク修道院 abbaye Notre-Dame de Sénanque
シルヴァカン修道院 abbaye de Silvacane
センター・メダルはマリアの "M" とフルール・ド・リス(百合文あるいはアヤメ文)を組み合わせています。フルール・ド・リスはフランスの象徴でもあり、三枚の花弁ゆえに三位一体をも表します。
ビーズはオパールのような乳白色を呈する半透明ガラスを用いて手作りされており、ひとつひとつの形と大きさがわずかに異なります。ビーズの直径はおおよそ6、7ミリメートルで、透明度にはばらつきがあります。クラウン(環状部分)にある主の祈りと栄唱のビーズのうち、一個に欠けた部分がありますが、強度にも安全性にも問題はありません。
溶融したガラスが徐々に冷却する過程で、ガラス内部に結晶構造が生じると、白濁が起こります。すなわち溶融したガラスが急速に冷却すると、二酸化ケイ素分子の配置が不規則なまま固体になる「ガラス転移」が起こって、非晶質の透明ガラスになります。しかるに冷却の速度が遅いと、アルミナや石灰を加えて結晶格子を歪めない限り、二酸化ケイ素の分子が規則的に配列されて石英の結晶が生じます。この結晶に光が反射するせいで透明度が落ちるのです。
透過光で見ると赤みがかった色に、反射光で見ると青みがかった色に見えるのが、この種のオパールガラス(オウパレスント・グラス opalescent
glass)の特徴です。ラリックやサビノ、エトランのオパールガラスも、これと同様の方法で製造されたものです。
このロザリオは19世紀に製作された真正のアンティーク品であるにもかかわらず、全体的なコンディションはたいへん良好です。ビーズはすべて揃っており、金属製の部分にも摩耗等の問題は一切ありません。この上なく清らかな聖母マリア、無原罪の御宿りに執り成しを願うのに、まさにふさわしい清らかなロザリオです。