パドヴァの聖アントニウス(聖アントワーヌ)の祈祷書
リモージュ(フランス)、G. ドロゲ・R. アルダン社 1917年
Missel de Saint Antoine de Padoue
G. Droguet, R. Ardant, Limoges, 1917
祈祷書のサイズ 14.5 x 10 cm 厚さ 2.5 cm 338ページ
祈祷書はモロッコ革に金箔を押し、天地小口にも金箔、見返しにはオリーヴ・グリーンの布を使用しています。
巻頭の見返し、巻末の見返しとも布の端が解(ほつ)れています。
巻頭の見返しに金でピー・エル (P.L) のイニシアルがあります。
全体的に大きな問題は無く、90年以上前のものとしては驚くほど綺麗なコンディションです。
最初の扉の3ページあとに、 エティエンヌ・アザンブル (Etienne Azambre, 1859 - 1935) の署名がある作品のタイポグラヴュア(下の写真)があり、
エマオに向かう二人の弟子に現れた復活のキリストが弟子たちと食事の席に着き、パンを裂いて祝福する場面(ルカによる福音書 24:30)が描かれています。
ページ上部にはフランス語で「彼らのうちふたりがエマオに行った」(Deux d'entr'eux s'en allient a emmaus")
と書かれています。
ページ下部にはルカによる福音書 24: 30 - 31の聖句を短くした次の言葉が、流麗な字体のフランス語で書かれています。
Il prit le pain et le benit, et l'ayant rompu, il le leur donna. Alors
ils le reconnurent. (Luc XXIV)
イエズスはパンを取って祝福し、それを裂いて彼らにお渡しになった。そのとき彼らはその人がイエズスだとわかった。(ルカ 24章)
エティエンヌ・アザンブルは宗教画と風俗画を得意としたフランスの画家です。
参考画像 アザンブルの他の作品 (下左) 「
ラ・サレットの聖母の出現」
L'Apparition de la Notre-Dame de la Salette
(下右) 「聖母の午睡」
Le Sommeil de la Vierge
(下) 「10人の乙女の譬え話」(部分) マタイによる福音書 25:1 - 13
(下) 「読書する母と子」 1890年頃 カンヴァスに油彩 63 x 53 センチメートル
(下) 「子供」(部分)
この祈祷書には扉(表題紙)がふたつあり、最初の扉はアール・ヌーヴォーのデザインで、シャピュイ (L. Chapuis) のサインがあります。
この扉の裏側にはグルノーブル司教ポール=エミール師の出版許可 (IMPRIMATUR) が記されています。
2枚目の扉はアザンブルの絵の向かいにあり、ゴシックとアール・ヌーヴォーが融合したデザインの絵に
幼子イエズスを抱く
パドヴァの聖アントニウス、及び聖体を描き、
書名 (
Missel de St. Antoine de Padoue) 、出版社名 (G. Droguet, R. Ardant) と所在地 (Limoges) を記します。
祈祷書の本文はフランス語とラテン語で書かれ、
草花をモティーフにして優雅な曲線を描くアール・ヌーヴォーのカルトゥーシュ(花枠)で囲まれています。
カルトゥーシュは最初の扉と同じくシャピュイの手によります。
さらに聖アントニウスのバシリカや像、子供の蘇生や異教徒の改心など、
聖アントニウスにちなんだ絵や写真が、アール・ヌーヴォーの枠で囲まれて、カルトゥーシュに添えられています。
本文を囲むカルトゥーシュは 9種類、絵や写真の枠は十種類以上もあり、それらが互いに組み合わさって、非常に多彩なページ・デザインとなっています。
下の写真の左ページは移動祝祭日の早見表で、1917年から1932年までが掲載されています。
本文にはページにより黄ばみがありますが、ページの脱落等の大きな問題は無く、たいへん良いコンディションを保っています。
少年少女たちの初聖体の記念するもの等、たくさんのカードがはさまれていたことからもわかるように、家庭内で常に意識されてきた祈祷書ですが、
大切に保管されて、日常的に使用されてはいなかったようです。
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