稀少デッド・ストック品 天地を繋ぐテオトコス 《ヤコブの梯子なるマリアと天使》 優れた出来栄えの守護のメダイ 立体的な細密浮き彫りによるフランスの作例 直径 15.6 mm


突出部分を除く直径 15.6 mm

フランス  1950 - 60年代



 一方の面に聖母マリアを、もう一方の面に守護天使を、いずれも肉厚の浮き彫りに刻んだフランスのメダイ。およそ六十年ないし七十年のフランスで制作された後、珍しいことに未販売のまま残っていたデッド・ストック品です。





 一方の面には年若いマリアの半身像を大きく浮き彫りにしています。マリアの髪や衣の描写はルネサンス期のイタリア絵画を髣髴させます。

 マリアをはじめとする聖女像は、メダイの浮き彫りや小聖画等の信心具に表現される場合、髪をほぼ完全にヴェールで覆って表されるのが通例です。なぜならば長い髪は地上に生きる女性の性的魅力の象徴であり、祈りの為の美術には不必要と判断されるからです。祈る女性たち自身、地上に身を置きつつも天上界に目を向けて神に焦がれ、ときにはその魂が肉体を離れてエクスタシー(希 ἔκστασις 身体の外に立つこと、脱魂状態)に陥るわけですから、肉体の美しさはそれ自体が悪いものではないにせよ、祈りには無関係で必要の無いものということになりましょう。

 しかるに本品のマリアは頭に布を巻いていますが、これは髪を隠すヴェールではなく、単に髪をまとめるためのもの、さらには頭の飾りとも見え、却って女性の髪の美しさを引き立てています。マリアは瞑目もせず、腕を胸に当ててもいませんが、その穏やかな表情からは芯の強さが感じられます。おそらくこの少女ならば、何の前触れもなく家の中に天使が入ってきても、臆することなくこれを迎えることができるでしょう。





 ルネサンス絵画に範を採った本品の浮き彫りは、若さに輝く健康な少女、地上のマリアを表しています。

 ルネサンスはひたすら天上にのみ憧れることを止めて、地上に目を向けた時代でした。この時代に描かれた人物像は、ゴシック期に比べて格段に自然主義的に描写されます。ヴァザーリの画人伝("Le vite de' più eccellenti pittori, scultori e architettori", 1550)によると、チマブエの聖母が画家の自宅からサンタ・マリア・ノヴェッラに運ばれた際、このような見事な作品を見たことがなかった人々はラッパを吹き鳴らし、荘重な行列を組んで絵を運びました。レオナルド・ダ・ヴィンチが多数の人体解剖図を遺していることはよく知られています。ルネサンス絵画の写実性は人体のみならず背景の自然にも顕れました。ボッティチェリの「春」は 1981年5月から一年がかりで修復されましたが、その際にフィレンツェ大学植物研究所が調べたところ、画中に描かれたおよそ五百の植物のうちクリスマス・ローズ(ヘレボルス・ニゲル Helleborus niger)を唯一の例外として、他の花々はいずれも三月から四月のフィレンツェで実際に見られるものでした。

 本品メダイに浮き彫りにされたルネサンス風のマリアも地上性を捨象せず、現実の少女の姿を写実的に描き出しています。少女マリアは受胎告知の際、「お言葉通り、この身になりますように」と答えて救いを受け容れ、天地をつなぐ恩寵の器となりました。これはマリアの両足が地についていて初めて可能なことです。マリアが地上の少女でなく、その足が地面を離れているならば、どうして天地を繋ぐことができるでしょうか。一見したところ、本品のマリア像には宗教美術らしからぬ世俗性が感じられます。しかしながらこの世俗性、地上性こそが、少女マリアが恩寵の器となるために必要な属性であったことを思うとき、本品のマリアがいかに神々しく見えることでしょうか。





 上の写真に写っている定規のひと目盛りは一ミリメートルです。マリアの顔の高さは六ミリメートル強で、顔の各部のサイズは一ミリメートルに満ちませんが、少女の顔立ちは美しく整っているのみならず個性が表現され、心の内面までもが表情となって表れています。喉頭の下のくぼみをはじめ、髪の流れや衣の文様などの細部に至る写実的描写は、地上の少女をありのままに描くことにより、天地を繋ぐマリアの超越性を却って露わにしています。





 もう一方の面には力強い守護天使の単身像が、やはり肉厚の浮き彫りで表現されています。この面にはフランス(FRANCE)の文字が刻まれています。

 トマス・アクィナスは「スンマ・テオロギアエ」第1部 113問2項 「一人ひとりの人間が一人ひとりの天使によって保護されているか」(羅 Utrum singuli homines a singulis angelis custodiantur)において、一人ひとりの人間に専任の守護天使がいると論じています。本品メダイに彫られているのはこの守護天使です。守護天使はフランス語でアンジュ・ガルディアン(仏 un ange gardien)またはアンジュ・テュトレール(仏 un ange tutelaire)といいます。ガルディアンはゲルマン語系形容詞で、その語根は「守る」を意味します。テュトレールはラテン語系形容詞で、トゥエオル(tueor, v. dep. 見る)と語根を共有し、「見守る」という意味です。ガルディアンとテュトレールは結果的にほぼ同じ意味となります。

 十九世紀から二十世紀前半頃までのメダイにおいて、守護天使は常に子供とともに表されます。当時の子供の死亡率はフランスのような先進国でも現代より格段に高かったので、守護天使が常に子供とともに表されるのも頷けます。これに対して本品は二十世紀半ばないし後半に制作されたメダイで、守護天使は単身像で表されています。子供なり大人なり、特定の年齢層の人物を天使の隣に配していないのは、守護天使が全ての人を守る存在であることを表すためです。さらに聖母マリアの単身像と守護天使の単身像をメダイの表裏に組み合わせることにより、いずれも天地を繋ぐ存在である聖母と守護天使が、力を合わせてそれぞれの人を守護していることを表しています。また表裏一体の本品の図像表現は、天地を繋ぐヤコブの梯子(「創世記」 28章 10 - 19節)としてのテオトコス(希 Θεοτόκος 神の母)をも表しています。





 守護天使の浮き彫りも、マリアの浮き彫りに劣らず立体的です。本品は数十年前のフランスで制作された古い品物ですが、未販売のまま新品として残っていましたので、突出部分も全く摩滅していません。





 上の写真に写っている定規のひと目盛りは一ミリメートルです。天使の頭部は直径二ミリメートルの円内に収まりますが、顔立ちが整っているのみならず、瞼のふくらみや睫毛、自然に流れる巻き毛、一枚一枚の羽毛、美しい衣文等も写実的に表され、極微のミニアチュール彫刻であることがにわかには信じがたい出来栄えです。





 上の写真は本品を男性店主の手に載せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、この写真で見るよりも一まわり大きなサイズに感じられます。







 本品は一枚のメダイの表裏に聖母と守護天使を刻むことにより、優しいマリアと力強い天使の加護を願う守護のメダイとなるとともに、ヤコブの梯子としてのテオトコス、すなわち天地を繋ぐ聖母の役割をも重層的に表しています。両面の浮き彫りはいずれも美しく、ミニアチュール彫刻のサイズを超える迫力があります。本品は数十年前のフランスで制作された真正のヴィンテージ品(アンティーク品)ですが、未使用のまま残っていた新品であるために突出部分も摩滅しておらず、細部まで完全な形で残っています。本品の直径は 15.6ミリメートルで、ペンダントとして日々ご愛用いただけます。





本体価格 12,800円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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