オヴィド・ヤンセス作 「アムール・マテルネル」(AMOUR MATERNEL 母の愛) 眠る幼子にキスする若き母 芸術品によるメダイユ・ド・ベルソー


突出部分を除く直径 50.2 mm  重量 33.8 g

フランス  1910 - 20年代



 フランスはメダイユ彫刻がどこよりも発達した国で、多くの優れた彫刻家を輩出しています。20世紀前半のフランスで活躍したメダイユ彫刻家のうち、オヴィド・ヤンセスは最も優れた人物のひとりです。

 オヴィド・ヤンセス(Ovide Yencesse, 1869 - 1947)はブルゴーニュの古都ディジョンに生まれ、パリの高等美術学校 (l'École Nationale Supérieure des Beaux-arts, ENSB-A) のメダイユ彫刻科教授ユベール・ポンカルム (François-Joseph-Hubert Ponscarme, 1827 - 1903) のもとで学びました。オスカル・ロティ (Oscar Roty, 1846 - 1911)ダニエル=デュピュイ (Jean-Baptiste Daniel-Dupuis, 1849 - 1899)アレクサンドル・シャルパンティエ (Alexandre-Louis-Marie Charpentier, 1856 - 1909) はいずれも19世紀におけるフランス、メダイユ彫刻の栄光を担いましたが、この巨匠たちはいずれもポンカルムの弟子です。オヴィド・ヤンセスは彼らよりも十数歳若い世代ですが、同じポンカルムの弟子であり、ロティらがもたらした黄金時代を引き継ぐメダイユ彫刻家といえます。





 本品の材質はブロンズで、ヤンセスが 1912年頃に制作した浮き彫り作品「アムール・マテルネル」に把手を取り付け、メダイユ・ド・ベルソー(仏 médailles de berceau ゆりかご用のメダイユ)としたものです。メダイユ・ド・ベルソーは十字架、聖母、天使、諸聖人など、ほとんど常に宗教的な主題に基づいて作られます。本品の「母性愛」は崇高でありつつも世俗的なテーマであり、非常に稀な例外です。植物の蔓(つる)のように優美な曲線を描くアール・ヌーヴォー様式の把手には、日本美術がフランスの装飾美術に及ぼした強い影響が見て取れます。

 「アムール・マテルネル」(amour maternel)とはフランス語で「母の愛」「母性愛」という意味で、メダイユには母に抱かれて眠る幼子と、幼子の眼を覚まさせないように優しく接吻する母が浮き彫りにされています。慈愛に満ちた母の腕で安心し切って眠る幼子は、夢のなかでも母に抱かれているのでしょう。母子ともに互いを愛で包み、互いの愛に包まれ、如何に幸せな時間を生きていることでしょうか。





 ヤンセスを最も惹きつけたのは、市井の女性たち、母親たちの姿でした。薪の束を抱えた農婦たち、教会のミサに赴く女性たち、暖炉のそばで編み物をする女性たちが、質素な日常を誠実に生きる姿は、ヤンセスの心を強く捉えました。とりわけヤンセスが好んで制作したのが母子像です。ヤンセスは身近な母子をモデルにしながらも、写実よりもむしろ限りなく優しい母性愛を描きだすことに専心しました。

 本品「アムール・マテルネル」を含むヤンセスの母子像は、明瞭な輪郭線を持たず、あたかも靄(もや)に浮かぶかのようにやわらかい表現となっています。この特徴的表現手法ゆえに、ヤンセスはしばしばウジェーヌ・カリエール (Eugène Anatole Carrière, 1849 - 1906) に比されますが、実際ヤンセスの作品の一部はカリエールの絵に基づいています。ヤンセスの作品は、それゆえ、浮き彫り彫刻でありながら、絵画的特徴を色濃く有しているということができます。

 本品、あるいはヤンセスの作品に限ったことではありませんが、浮き彫り彫刻は色彩の援けを借りずに、表面の凹凸のみで像を表現します。ピザネッロの作品をはじめ、初期のメダイユはカメオ像を実際に突出させることにより、表現対象の三次元性を表していました。しかしながら19世紀後半になると、空間的な突出に頼らずとも、巧みに三次元性を表すメダイユ彫刻家たちが現れました。筆者(広川)の考えでは、空間的突出に頼らない三次元性の表現は、オヴィド・ヤンセスにおいて極点に達しています。オヴィド・ヤンセスが優しいタッチで描く人物像は、明瞭な輪郭線を描かず、背景からの突出も最大一ミリメートルほどに過ぎません。それにもかかわらず女性たちも幼子たちも確かな存在感を以て描き出され、生身の人間の体温さえ感じさせます。

 本品をはじめとするヤンセスの作品は、「そこに確かに存在する愛」をメダイユ上に見せてくれます。ヤンセスが示す愛はメダイユを見る者のうちに反映し、心を温めて愛を灯し、微笑みを浮かべさせます。このように活きた働きを為すオヴィド・ヤンセスの「絵画的メダイユ」は、まさに天才の仕事ということができます。





 本品はおよそ百年前に制作された品物ですが、古い年代にもかかわらず、保存状態は極めて良好です。見る者を幸せにする力を持った美しい芸術品です。







 上の写真は本品の額装例です。写真の額装料金は 6,300円で、額の代金、マットの代金、ベルベット代、作品名の札、工賃、税をすべて含みます。





本体価格 42,000円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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