ノートル=ダム・ド・ポンマン 愛の光の聖母 聖母献身宣教会のカニヴェ 1880年 (ブアス=ルベル 図版番号 2253)

"Mais priez mes enfants, Dieu vous exaucera en peu de temps,"  Bouasse-Lebel, pl. 2253


121 x 78 mm

フランス  1880年



 1880年頃のフランスで制作されたポンマンの聖母のカニヴェ。明暗を大胆に対比させた大画面の聖画が眼を奪います。

 ポンマンの聖母は 1871年1月17日、フランス北西部にある人口数百人の小村ポンマン (Pontmain) に出現しました。この日の夜、村の民家の屋根よりも6メートルほど高い空中に聖母が現れたのですが、最初にこれに気付いたのは12歳の少年ウジェーヌ・バルブデット、次いで10歳の弟でした。騒ぎを聴きつけて村人たちが集まってきましたが、村の主任司祭ゲラン神父や修道女たちをはじめとする大人の眼には最後まで何も見えず、子供たちだけが聖母の姿を見て、聖母の下に現れた文字を読むことができたと言われています、





 カニヴェの表(おもて)面は、金色の枠内の最上部に「ノートル=ダム・ド・ポンマン」(Notre-Dame de Pontmain ポンマンの聖母)と記され、その下に精緻な銅版画を配しています。カニヴェの聖母は赤い線が入った金の冠を被り、金色の星がちりばめられた丈の長い衣を着て漆黒の夜空に浮かんでいます。聖母を囲む4本のろうそくには火が点いていますが、これは衣から離れた星のひとつによって点火されたのです。聖母は胸の前に十字架を掲げており、最上部の白い横木には「イエズス・キリスト」(JÉSUS-CHRIST) と書かれています。





 上の写真は実物の聖画を200倍の面積に拡大しています。定規のひと目盛は1ミリメートルで、インタリオの溝は1ミリメートルあたり約5本、スティプル(点描法の点)は1平方ミリメートルあたり約30個に及ぶことがわかります。

 背景にはグラヴュール(エングレーヴィング)が使われているのに対して、聖母は概ねオー・フォルト(エッチング)で描かれていますが、この作品のオー・フォルトはグラヴュールに比べて勝るとも劣らない繊細さ、細密さを有します。聖母の顔は美しく整っていますが、その造作はおよそ 3.5ミリメートル四方に収まります。目と口の幅は 1.2ミリメートル、鼻の幅は1ミリメートルです。

 金属版の製版は、大きなサイズで作ったものを縮小して使うことはできません。版画家は初めから極小サイズの細密銅版画として版を刻んでいるのです。私たちはインクを載せて刷り上った作品を見ていますが、版画家にはインクを載せる前の金属板しか見えません。また一か所でも力加減を誤れば、修正は不可能です。それにもかかわらず、大きなサイズの絵あるいは写真と同じように、あるいはそれ以上に美しい作品を産み出す19世紀の版画家の芸術的才能と技量には、ただ驚嘆するしかありません。





 再び作品全体をみるならば、色彩を明暗に置き換えるに際して、意味深い独自の工夫が為されていることに気付きます。 ポンマンの聖母が着ていた衣は鮮やかな青色、冠に入った線は赤色でした。衣の青を暗色で表現すれば、衣に散りばめられた星々がいっそうはっきりと見え、冠の赤い線も暗色にしたほうがよく目立つはずですが、本作品においてはいずれも白っぽく描かれています。聖母を取り巻く夜空が黒々としているのに対して、聖母像には暗色の部分が無く、あたかも全身が微光に包まれているかのようです。

 インタリオで明暗のコントラストをはっきりと表現することは可能であるのに、この作品において聖母の全身が光に満ちた明るい諧調で描かれているのには、宗教的意味があります。すなわちこの聖画においては、神の愛、恩寵そのものが、聖母を包む光、また聖母から発出する光として表現されているのです。この聖画の作者が、漆黒の夜空に浮かぶ聖母を光で包み、聖母から光を発出させたのは、この世の闇を照らす光である神の愛が聖母を通して与えられることを、視覚的に表現するためでありました。

 この聖画が持つもうひとつの魅力は、仮に宗教的意味合いを捨象し、純粋芸術と看做して鑑賞しても美しいことです。輝く聖母と漆黒の夜空が産み出す鮮やかな明暗のコントラストは、大きな画面サイズと相俟って、この作品を見る者に強い印象を与えます。「楕円と長方形」、「明と暗」の組み合わせが、作品の鑑賞者に「美しい構成」として感じ取られるという点では、数十年先の抽象絵画を予告しているようにさえ思えます。





 聖画の下には四角く囲まれた銘板状のスペースがあり、ポンマンの聖母出現に際して子供たちが空中に読み取った次の言葉が書かれています。

  Mais priez mes enfants, Dieu vous exaucera en peu de temps.  それでも祈りなさい、子供たちよ。神はあなた方の祈りをすぐに聞き入れてくださいます。

  Mon fils se laisse toucher  わが息子は憐れんで心を動かします。


 その下には次の言葉が書かれています。

  Adopté par les missionaires Oblats de Marie, 1880  1880年、(このカニヴェは)聖母献身宣教会に採用された

 「聖母献身宣教会」(les missionaires Oblats de Marie-Immaculée, OBLATI MARIAE IMMACULATAE, OMI) は「オブレート会」とも呼ばれ、聖ウジェーヌ・ド・マズノ (St. Eugene de Mazenod, 1782 - 1861) により、1816年1月25日、フランス南東部エクサンプロヴァンス (Aix-en-Provence) で創始されたカトリック聖職者の会です。もともとはフランス革命で打撃を受けたプロヴァンスの教会を再興することを活動の目的としていましたが、やがて全世界に福音を広めることを目指す会となり、フランス国内はもとより、カナダを中心とするアメリカ大陸、オーストラリア、フィリピン、日本でも活動を展開しています。

 ポンマンにおける出来事が真正の聖母出現であることが、ラヴァル司教ヴィカール師 (Msgr. Casimir-Alexis-Joseph Wicart, 1799 - 1879) によって1872年2月2日に認められると、ポンマンには大勢の巡礼者が詰めかけるようになりました。巡礼者たちへの対応は、当初はポンマンの主任司祭ゲラン神父が行っていましたが、同年に神父が亡くなると、ヴィカール師は聖母献身宣教会をその任に当たらせました。

カニヴェ表(おもて)面最下部には、パリの版元ブアス=ルベルの名前と所在地に加え、図版番号を示す数字 (2253) が記されています。ブアス=ルベル社 (Bouasse-Lebel dÉiteur et Imprimeur) は、「ブアス=ルベル」と名乗ったエングレーヴァー、アンリ=マリ・ブアス (Henri-Marie Bouasse, 1828 - 1912) が創業したカトリックの出版社で、カニヴェをはじめ、数多くの美しいアンティーク聖画の版元として知られています。






 カニヴェの裏面には、ポンマンの聖母に対する祈りが記されています。祈りの内容は下の通りで、カニヴェ表(おもて)面下部に記された聖母の言葉に基づいています。言語はフランス語で、日本語訳は筆者(広川)によります。

    SERMENT
Prononcé devant l'Image de l'Apparition à chaque anniversaire de L'ÉVÉNEMENT MISÉRICORDIEUX DE PONTMAIN.
  神の憐みによるポンマンの出来事が起きた記念日に、出現し給うた聖母の御姿の前で、毎年唱えられる誓いの言葉
         
     DIVINE MÈRE DE LA MISERICORDE ET DE LA SAINTE ESPÉRANCE, en ce précieux anniversaire de votre gracieuse visite en ce lieu de Pontmain, devenu comme un autre Sinaï sur lequel a été proclamé à nouveau le salutaire précepte de la prière, dans ce sanctuaire béni, témoin chaque jour de tant de supplications et de faveur; nous, enfants dévoués à votre honneur et à votre culte, nous venons déposer à vos pieds le serment de rester fidèles à prier, jusqu'a notre dernier soupir, votre Fils tout-puissant, mort pour nous sur la croix, et à consérver indomptable dans nos cœurs la confiance que nous ont inspirée vos paroles prophétiques, au moment ou l'Église et la France semblaient devoir succomber dans un commun danger.    憐みと聖なる望みの御母、いと優れた御母であり給う御身よ。御身がここポンマンを訪れるという恵みを垂れ給うたこのよき日に、いまひとつのシナイ山、祈りの良き勧めが改めて示されしシナイ山となりたる幸いなるこの聖地、多くの祈りが捧げられ、人々が好んで集うのを日々目の当たりにできるこの聖地にて、母なる御身を讃え崇むる我らは、御身の御足許に我らの誓いを捧げに参ります。全能なる御子、十字架上にて我らのために死に給いし御子に、我らの生涯の最後に至るまで、忠実に祈りを捧げまつることを誓います。また教会と国家が共に危機に瀕して、敗北せざるを得ないかと思われたとき、御身が賜うた預言的な御言葉により我らの心に吹き込まれた神への信頼を、日々新たに持ち続けることを誓います。
     FOI ET AMOUR, PRIÈRE ET ESPÉRANCE.
 Telle sera la loi inviolable de notre vie.
   「信仰と愛」「祈りと希望」
 これこそが、我らの生活と人生において、決して背いてはならない法なのです。
     Daignez, divine Mère de Jésus-Christ, en agréant notre serment de fidélité, nous obtenir la grâce de la persévérance jusqu'a la couronne que vous déposerez au ciel sur nos fronts en récompence de nos efforts et de notre obéissance. Ainsi Dieu nous soit en aide. Ainsi soit-il.    イエズス・キリストの御母、いと優れた御母であり給う御身よ。我らの信仰の誓いを容れ給いて、努力と服従の褒美として、天国にて御身が我らの頭に冠を置き給うそのときまで、畏くも我らのために、変わることなく恵みを垂れ給え。神よ、我々をこのように助けたまえ。アーメン。
    .  
    CETTE PRIÈRE EST LUE CHAQUE 17 JANVIER devant l'Image de l'Apparition.   この祈りは毎年1月17日に、ポンマンに現れ給うた聖母像の前で唱えられる。


 裏面最下部に次の文字があります。

  2253 - BOUASSE-LEBEL, 29, rue St-Sulpice, Paris  図版2253 ― ブアス=ルベル、パリ、サン=シュルピス通29番地



 このカニヴェは130年以上前のものと思われますが、それほどまでに古いとは俄かに信じがたいほど綺麗な状態です。聖母の右下(向かって左下)のろうそく付近から斜めに軽い皺(しわ)がありますが、これは製作時についたもので、保存状態の問題ではありません。良質な中性紙に刷られているため、紙の劣化はありません。レース状の切り紙細工は、表(おもて)面向かって左下の隅に小さな欠損があるくらいで、ほぼ完品に近いコンディションです。





カニヴェの価格 19,500円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。別料金にて額装もご注文いただけます。




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