カルロ・ドルチ作 「親指の聖母」 マーテル・ドローローサ 手描きの磁器絵メダイユ


85 x 67 mm

フランス  19世紀中頃または後半



 17世紀のフィレンツェで活躍し、完成度が高い宗教画で知られる画家、カルロ・ドルチ (Carlo Dolci, 1616 - 1686) によるマーテル・ドローローサ(Mater Dolorosa 悲しみの聖母)を描いた磁器絵。聖母は深い青のヴェールを被り、目を下に向けて、ひとり悲しみに耐えています。

 この作品は「マドンナ・デル・ディト」(Madonna del dito 親指の聖母)の愛称で呼ばれ、カルロ・ドルチによる作品のなかでも最も有名なもののひとつです。カルロ・ドルチは同じテーマに基づく作品を、構図を変えて何点も制作することが多くありました。「親指の聖母」にも右向きの作品と左向きの作品があります。

 本品は右向きの作品を、磁器製メダイユに描いています。磁器製メダイユは縦 85ミリメートル、横 67ミリメートルの楕円形で、最大 7ミリメートル強の厚みがあります。





 絵付けは、油彩による原画と同様の陰翳や中間色を、筆による手作業でたいへん丁寧に再現しています。写真では実物の色を正確に再現するのが困難ですが、聖母の衣はコバルトによって美しい瑠璃色(ラピスラズリの色)に発色しています。聖母の頬には微かな赤みが差しています。形の良い唇には淡い紅色が引かれています。





 カルロ・ドルチの「マドンナ・デル・ディト」は、我が国に縁が深い聖母像です。なぜならば、1708年に日本に潜入して捕らえられたイタリア人司祭、シドッチ神父 (Giovanni Battista Sidotti, 1668 - 1714) が、「マドンナ・デル・ディト」の銅板油絵を所持していたからです。


(下) シドッチ神父が所持していた聖母像 東京国立博物館蔵




 シドッチ神父は屋久島に上陸して発見され、薩摩藩によって長崎奉行所に護送されましたが、長崎奉行所にはキリシタンに関する充分な知識を持つ者がいなかったために、神父を取り調べることができませんでした。そこで神父は江戸に送られ、当時の日本で最高の知識人とも呼ぶべき新井白石の取り調べを受けることになります。白石は神父の取り調べを通して神父の人柄に感銘を受けるとともに、神父からの聞き取りによって世界の事情を知り、さらに切支丹の教えが当時一般に考えられていた邪宗では決してないこと、宣教師はヨーロッパによる日本侵略のためのスパイではないことを理解しました。その結果、白石は幕府への取り調べ報告書「羅馬人処置献議」において、次のような異例の答申を行います。

第一、本国へ返さるることは上策也 此事難きに以て易き歟

第二、かれを囚となしてたすけおかるる事は中策也 此事易きに以て難き歟

第三、かれを誅せらるることは下策也 此事易くして易かるべし


 白石はキリシタンを邪宗と見るのが間違いであること、またキリシタン信徒やバテレンを処刑したり棄教させたりするのが下策であることを、その明晰な頭脳を以って理解し、幕府に働きかけたのです。数十年前であれば確実に処刑されていたであろうシドッチ神父が、拷問を受けることもなく棄教もしないままに、二十両五人扶持を与えられ、茗荷谷の切支丹屋敷で身の回りの世話をされて生活するという異例の待遇を受けたのは、白石の答申の結果でした。しかしながらシドッチ神父の世話役であった老夫婦が神父に感化されてキリシタンになったことが露見したために、神父は切支丹屋敷の地下牢に収容されて衰弱死します。神父が死に追いやられる結果となったことは、「かれを誅せらるることは下策也」と断言した白石にはさぞかし無念であったことでしょう。

 白石は「長崎注進羅馬人事」下巻に、シドッチ神父が所持していた「マドンナ・デル・ディト」のスケッチを残しています。シドッチ神父の「マドンナ・デル・ディト」は、現在は東京国立博物館に収蔵されています。





 本品はいまから百数十年前、19世紀中頃または後半頃に、フランスで制作された真正のアンティーク品です。東京国立博物館にあるシドッチ神父の御絵よりも百数十年あとに作られたものですが、聖母像はシドッチ神父の御絵と同様に心をこめて手描きされています。


 ブリュ・マリアル(bleu marial マリアの青)のベルベット張りマットを使用した額装例

 同上


 古い制作年代にも関わらず、本品の保存状態はきわめて良好です。特筆すべき瑕疵(欠点)は何もありません。シドッチ神父が所持していた「親指の聖母」は、銅板に油彩で描いたものであるゆえ、年月の経過によって絵具の剥落が起こります。しかしながら本品は本焼成後の磁器に聖画を描いた後、再び焼き付けていますから、着色剤は融剤によって釉薬に融着し、あるいは釉薬の層に沈み込んでいます。したがって聖画に剥離は無く、釉薬や絵が自然に剥離することは今後も起こりません。





本体価格 31,500円 販売終了 SOLD

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