日々愛用されたクロワ・ジャネット 白い花のエマイユ・シャンルヴェと、可憐なすみれ 大きなサイズ 48.8 x 34.5 mm


外付けの環を除くサイズ 48.8 x 34.5 mm

フランス  19世紀後半から20世紀初頭



 美しい古色のクロワ・ジャネット。ふたつの面は交差部の意匠が異なり、片面の交差部には白い花のエマイユ細工が嵌め込まれています。日々大切に愛用された品です。





 「クロワ・ジャネット」(croix Jeannette ジャネット十字)あるいは「クロワ・ド・ジャネット」(croix de Jeannette フランス語で「ジャネットの十字架」の意)、「クロワ・ア・ラ・ジャネット」(croix à la jeannette フランス語で「ジャネット風十字」の意)は、十八世紀及び十九世紀のフランスで、女性たちが思春期の頃に購入し、その後長く身に着けたジュエリーです。キリスト教文化に基づきながらも、信心具ではなく装身具的性格が強い品物であり、どなたにでもお使いいただけます。

 縦木と横木の配置に関して言えば、クロワ・ジャネットは西ヨーロッパにおいて典型的なラテン十字の一種です。クロワ・ジャネットの上端はフルール・ド・リス(仏 fleur de lys 百合の花)を模(かたど)ります。フルール・ド・リスは三位一体の神による加護の象徴、聖母マリアによる加護の象徴であり、フランスの象徴でもあります。縦木の下端近く及び横木の両端近くは楕円形の円盤形に広がり、その外側に球状に膨らみが付き、さらにそこから細い棒が突出して終わります。

 球状の膨らみから細い棒が突出する様子は、女性が使う糸巻き棒の先端を連想させます。また福音書の記録によると、イエス・キリストは、エルサレムに入城し給う前、ラザロを復活させ給う前、受難の前夜にゲツセマネの園で祈り給うた際の三度、涙を流し給いました。クロワ・ジャネットの末端にある三つの球は、キリストが三たび流し給うた涙を表すともいわれています。





 縦木と横木の末端近くにある楕円形装飾は、くぼみの内部に粒金状の装飾を施し、入り組んだ唐草文を浮き彫り状に打ち出しています。この部分の植物文様は、どのクロワ・ジャネットにおいてもおおむね同じです。クロワ・ジャネットにおいて最も多様であるのは交差部の意匠です。本品の交差部は、片面にエマイユ細工の小さな板を鑞付け(ろうづけ 溶接)し、もう片面に可憐な菫を打ち出しています。

 縦木と横木に関して言えば、いずれの面にも槍鉋(やりがんな)か手斧(ちょうな)の跡に似たパターンがあり、イエス・キリストが架かり給うた荒削りの十字架を連想させます。





 本品のエマイユは、シャンルヴェ (仏 le champlevé) と呼ばれる技法によって制作されています。シャンルヴェのエマイユ制作は、ビュラン(仏 burin 彫刻刀)を使って銀板に窪みを彫り、この窪みにフリット(仏 fritte 色ガラスの粉)を入れて窯入れし、フリットが融けるまで窯で加熱します。フリットが融けた後、徐々に温度を下げ、ガラスを銀板の表面に固着させ、窯から取り出した後に研磨仕上げが行われます。

 本品のエマイユに用いられているのは白と濃い青の不透明ガラスで、青を背景に十二弁の花を描いています。意匠の様式化が進んでいるために植物種を特定できませんが、菊のようにも見えます。本品が制作されたのはジャポニスム(仏 japonisme 日本趣味、日本愛好)の時代でしたから、その影響かもしれません。花弁の数「十二」は、完全数である「六」の二倍数でもあります。

 エマイユの背景の右上に、一ミリメートル×三ミリメートルの細長い剥落があります。商品写真は細部を拡大して表示するので、小さな瑕疵がよく判別できます。この剥落がどうしても気になる場合は塗料で補修できますが、実物を肉眼で見ても気にならないでしょう。





 もう一方の面も、さきほどの面と同様に丁寧に作られています。交差部のくぼみには、粒金状装飾を背景に、一輪の可憐な菫が打ち出されています。十九世紀フランスの装飾美術において、菫は最も愛好された花のひとつです。





 本品にもともと施されていた金めっきまたは金張りはかなり剥落し、縦木の上部は横木に対してわずかにねじれています。本品に見られるこれらの特徴は、本品が日々大切に愛用された品物であることを示しています。


 参考写真 破損したクロワ・ジャネット


 本品を含め、ほとんどのクロワ・ジャネットは、表裏二枚の板を合わせて制作されています。内部が空洞となった構造ゆえに、長い年月のうちに先端部分が折れて無くなったり、十字架本体が破断したりして、上の写真のように大きく破損しているクロワ・ジャネットが多く見つかります。しかしながら本品はよほど大切にされてきたらしく、特筆すべき問題はありません。百年以上前のフランスで製作され、実際に日々使われていたジュエリーであることを考えれば、本品は驚くほど良好な保存状態であるといえます。繊細で清楚なエマイユに加え、重厚で美しい古色が醸(かも)す真正のアンティーク品ならではの味わいに、現代の複製品では決して再現できない趣(おもむき)があります。





本体価格 21,800円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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