極稀少品 「彼等、その貫ける我を仰ぎ見ん」 クロワ・ペクトラル型「免償のクルシフィクス」 マソラ本文を引用した特別な作例 112 x 65 mm


上部に取り付けた環を除くサイズ 縦 112 x 横 65 mm  最大の厚さ 9.1 mm  重量 40.0 g

フランス  1905年頃



 贖宥のクルシフィクス、あるいは免償のクルシフィクスと呼ばれるこのタイプの品物は、縦5センチメートル前後のサイズが普通ですが、本品は類品の二倍以上の大きさがあります。おそらく一般信徒向けのペンダント(クロワ・ド・クゥ)ではなくて、フランスの聖職者がクロワ・ペクトラルとして胸のあたりに下げたのでしょう。





 十字架の表(おもて)面には免償のクルシフィクスの特徴である複雑なパターンを浮き彫りにし、別作のコルプス(キリスト磔刑像)を鑞(ろう)付けしています。十字架上部には「ティトゥルス」(TITULUS ラテン語で「罪状書き」の意)と呼ばれる札が掲げられ、次の言葉がラテン語で記されています。

  JESUS NAZARENUS REX JUDAEORUM  ユダヤ人の王、ナザレのイエス





 コルプスはにおける人体各部のプロポーションや筋肉の付き方は正確で、目鼻立ちや茨の冠のような細部までよく再現されています。





 通常のサイズ、すなわち縦5センチメートル、縦3センチメートル程のクルシフィクスの場合、コルプスは薄い金属板を「打ち出し細工」で成型して作ります。しかるに本品は通常の「免償のクルシフィクス」に比べて二倍の大きさがあるゆえに、コルプスは鋳造によって丁寧に制作されています。





 十字架裏面は中央交差部にイエス・キリストの聖心(サクレ・クール)が浮き彫りにされています。聖心は人智を超える神の愛の象徴であり、あまりにも強く激しい愛ゆえに上部から炎を噴き上げ、まばゆいばかりの愛の光に包まれています。

 十字架の基部には「アウスピケ・マリアエ」(AUSPICE MARIAE ラテン語で「マリアの庇護の下に」)を表す "AM" のモノグラムが刻まれています。また次の言葉がフランス語で記されています。

  Mon Père, pardonnez leur.  父よ、彼らを赦したまえ。

   Ils regarderont vers moi qu'ils ont percé.  彼等、その貫ける我を仰ぎ見ん。



 「彼等、その貫ける我を仰ぎ見ん」("Ils regarderont vers moi qu'ils ont percé." 「彼らは自分たちが貫いたわたしを仰ぎ見るであろう。(未来形)」) は、「ゼカリア書」 12章 10節をマソラ本文(ヘブル語聖書)に基づいてフランス語に訳したもので、ギリシア語七十人訳、日本語新共同訳と一致しています。

本品のフランス語訳   七十人訳   新共同訳
 Ils regarderont vers moi qu'ils ont percé.    ἐπιβλέψονται πρός με ἀνθ’ ὧν κατωρχήσαντο    彼らは、彼ら自らが刺し貫いた者であるわたしを見つめ、


 イエスの受難との関連をここでいったん差し措いて、旧約聖書の範囲内でこの句を解釈すれば、「彼らは[偶像崇拝によって]侮辱したわたし(すなわち、神)を仰ぎ見るであろう」という意味に読めます。しかしながら本品はカトリックのクルシフィクスですから、「ゼカリア書」のこの句はイエス・キリストの受難と関連付けられています。


 「ヨハネによる福音書」 19章 37節は、イエスの受難によって旧約の預言が成就したことを示すために「ゼカリア書」の同じ箇所を引用しています。ヨハネによる引用句は七十人訳ではなく、テオドティオンのギリシア語訳に基づいており、「彼らは、自分たちの突き刺した者を見る(新共同訳)」(Ὄψονται εἰς ὃν ἐξεκέντησαν. NA26) となっています。

 テオドティオン (Θεοδοτίων) はギリシア語を話すユダヤ人の学者で、紀元200年頃に没したとされています。一方「ヨハネによる福音書」の成立年代は紀元 100年頃です。したがってここに年代的な齟齬が生じますが、テオドティオン訳の成立年代が従来考えられていたよりもずっと早いとすれば、この問題は解決します。


 筆者(広川)はこれまでに多数の「贖宥のクルシフィクス」(免償のクルシフィクス)を見てきましたが、どの作例の裏面においても、「父よ、彼らを赦したまえ」(Mon Père, pardonnez leur.) に並んで刻まれるのは、「人をかくも愛したまえるこの聖心を見よ」(Voilà ce Cœur qui a tant aimé les hommes.) という言葉です。この句の代わりに「ゼカリア書」 12章 10節(あるいは、「ヨハネによる福音書」 19章 37節)を刻んだ作例は、本品以外に見たことがありません。





 本品は百年以上前のフランスで制作された品物で、真正のアンティーク品ならではの美しいパティナ(古色)に全体を被われています。古い年代にもかかわらず鋳造当時のままの保存状態で、突出部分にも摩耗はありません。実物の色合いは写真よりも暗く、重厚な趣きがあります。

 数あるアンティーク・クルシフィクスのなかでも、「贖宥(免償)のクルシフィクス」は数が少ないですが、このように大きな「クロワ・ペクトラル」型の作例は特に稀少です。裏面に「ゼカリア書」を引用した作例は、私自身初めて目にしました。美しさと稀少性、「ゼカリア書」以来二千四百年の歴史性、深い宗教的意味と精神性を兼ね備え、あらゆる意味で傑出したアンティーク美術品といえます。





49,500円 販売終了 SOLD

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