シャンルヴェ (le champlevé) と呼ばれる技法によるエマイユ(七宝、エナメル)の十字架。末端がキノコのような形に広がった幅広のラテン十字で、円形メダイユ型の交差部には、濃いスマルト(コバルトガラス)の背景にイオタ、エータ、シグマ
(JHS) の文字が浮かんでいます。「イオタ、エータ、シグマ」は「イエス」「イエズス」を表すギリシア語「イエースース」(JHSOYS) の略記です。
シャンルヴェのクロスは、エマイユを施さない通常のクロスに比べて数十倍の時間と労力をかけ、ひとつひとつ手作業で制作されています。制作の手順は次の通りです。
1. 表面を彫りくぼめて模様を付けた幅広の十字架を、ブロンズを使って鋳造する。
2. 色付きのフリット(ガラス粉末)を、色ごとに異なるくぼみに入れる。
3. 2. の十字架を窯に入れ、フリットが融けるまで加熱した後、徐々に温度を下げ、ガラスを銅板の表面に固着させる。
4. 十字架に金めっきを施す。
エマイユ製品の制作にはこのように非常に手間がかかりますが、とりわけ本品に使用された色ガラスは六色に及び、たいへん美しい細工となっています。十字架の縁に沿うように彫金まで施されています。六色のガラスは七色目の金色と響き合って、たいへん華やかな表情を見せてくれます。
本品は古い時代にフランスで作られた真正のアンティーク工芸品です。縦 67ミリメートル、横 44ミリメートル、厚さ 2ミリメートルと立派なサイズの品物で、百円硬貨三枚分、あるいは五百円硬貨二枚分強の重量があります。クロスの形状も幅広でよく目立ちます。その一方でたいへん綺麗な色遣いが為されており、視覚的な威圧感はまったく無く、男性にも女性にもお使いいただけます。経年にもかかわらず保存状態は極めて良好で、エマイユの亀裂や剥落等、特筆すべき問題は何もありません。