一円玉より小さな女性用時計 《オメガ レイディマティック 十四金無垢》 史上最小の自動巻き ケース径 17.6 mm バンド幅 8 mm 1965年

Omega, "Ladymatic" in 14K gold, cal. 660, 17 jewels, production year circa 1965



 オメガ社が1965年頃に製作した女性用時計、レィディマティック。史上最小の自動巻ムーヴメントとして知られるオメガ社製キャリバー 660を搭載しており、一円硬貨よりも小さなサイズです。およそ六十年前に製作されたヴィンテージ時計(アンティーク時計)ですが、新品のように綺麗な状態です。





 時計内部の機械をムーヴメント(英 movement)といいます。時計のムーヴメントには、電池で動くクォーツ式と、ぜんまいで動く機械式があります。現代の時計はほぼすべてクォーツ式ですが、これは 1970年代半ばから本格的に普及し始めたものです。本品が製作された 1965年には、クォーツ式ムーヴメントはまだ存在していませんでした。

 秒針があるクォーツ式時計を耳に当てると、秒針を動かすステップ・モーターの音が一秒ごとにチッ、チッ、チッと聞こえます。デジタル式など秒針が無いクォーツ式時計を耳に当てると、何の音も聞こえません。本品のような機械式時計を耳に当てると、小人が鈴を振っているような小さく可愛らしい音が、チクタクチクタクチクタク…と連続して聞こえてきます。





 ムーヴメントを保護する金属製の容器(時計本体の外側)をケース(英 case)といいます。本品のケースは純度十四カラット(十四金)のホワイトゴールドでできており、ケース裏蓋に "14K GOLD" の刻印があります。十四金とは純度 14/24の金合金のことです。我が国では十八金すなわち純度 18/24の金合金が多用されるのに対して、アメリカ合衆国では十四金が標準的な純度です。

 十八金は軟らかいために摩耗しやすく、また僅かな力で容易に変形しますが、十四金は十八金に比べると摩耗にも変形にも格段に強いので、時計ケースの素材にいっそう適しています。強さの点では十四金に比べて九金や十金のほうが優れていますが、九金や十金は金合金とはいえ金の含有量は半分以下ですので、重度の金属アレルギー体質であれば症状が出る場合があります。十四金であれば金属アレルギーの方でもまず問題なくお使いいただけます。





 上の写真に写っているのはケース裏蓋の内側で、オメガ社(Omega Watch Company)とロス社(Ross Watch Case Corporation)のロゴ、ケースの型式とケースのシリアル番号が打刻されています。小さなひっかき傷が多数あるのは、整備(オーバーホール)や修理の記録です。

 オメガはスイスの時計会社ですが、アメリ合衆国向けにはスイスの自社で作ったムーヴメントをアメリカでケースに入れ、完成品の時計としていました。本品はアメリカにあった品物ですので、アメリカ製の十四金ケースを使用しています。オメガのケースはロスが作っていました。

 ロス社はニューヨーク州ロングアイランドにあった時計ケースのメーカーで、オメガ、ジラール=ペルゴ、ロンジンなど、スイス高級時計メーカーを顧客としていました。本品のケースもロスがオメガ社製キャリバー660のために制作し、オメガに納入したものです。





 1965年の時計と現代の時計を比べると、動く仕組みが異なるだけでなく、サイズの点でも大きく異なります。1930年代から 1970年代までは男性用、女性用ともに現代よりも小さな時計が流行していました。特に本品は史上最小の自動巻時計で、ムーヴメントの直径が 15.4ミリメートル、ケースの直径が 17.5ミリメートルしかありません。一円硬貨の直径は 20ミリメートルですから、いかに小さなサイズであるかわかります。このように華奢で可愛らしい時計は、現代では作られなくなってしまいました。

 オメガ社はいまでも女性用時計レィディマティックを作っています。現代のレイディマティックは本品のおよそ二倍、34ミリメートルの直径があります。現代のレィディマティックが大きいのは流行のせいであって、オメガ社の技術水準が低下したわけではないでしょう。しかしながら大きな機械を作るよりも小さな機械を作る方が難しいですから、1960年代の女性用時計は当時の男性用時計を凌(しの)ぐばかりか、現代の時計をも凌ぐ高度な技術で製作されていることがおわかりいただけます。





 上の写真の左側は本品と同じ大きさの 1965年製オメガ・レイディマティックで、当店の販売済み商品です。右側は同年代の男性用時計サーティナ ブリストル 195で、当店の商品です。サーティナ・ブリストル 195の直径は 34ミリメートルで、現行の女性用時計オメガ・レイディマティックと同じサイズです。





 現代の時計のサイズは男性用、女性用とも、史上最大です。上の写真でサーティナの後ろにあるのは、オメガ社が 1941年に製作した男性用懐中時計(当店の販売済み商品)です。懐中時計は腕時計よりも大きく、本品の直径は 44.5ミリメートルです。しかしながら現行のオメガ製腕時計シーマスター・プラネット・オーシャン 600mは 45.5ミリメートルの直径があり、この懐中時計よりも分厚く、驚くほど大きなサイズです。五十年前に製作された本品の高度な技術力、華奢で愛らしいデザインは、同じオメガ社の現行品と比べるといっそう際立ちます。





 時刻を表す刻み目や数字が配置された板状の部品を文字盤(もじばん)または文地板(もじいた)、文字盤の周囲十二か所にある長針五分ごと、短針一時間ごとの数字をインデックス(英 index)といいます。

 本品のインデックスは 1960年代の時計に流行した棒型インデックス(バー・インデックス)です。本品のインデックスは文字盤よりも一段高くなった立体インデックスで、二種類の形状の小さな部品を植字しています。





 本品の文字盤は明るいシルバーで、上品な半艶(つや)消し仕上げが為されています。ギリシア文字によるオメガ社のマークが植字され、ロゴ(OMEGA)とモデル名レィディマティック(Ladymatic)、スイス製(SWISS MADE)の文字が黒で書かれています。レイディマティックは女性用オートマティック(自動巻き)という意味の造語です。

 およそ五十年前の品物であるにもかかわらず、本品の文字盤は新品同様の状態です。この文字盤は再生(リファービッシュ、リダン)したものではなく、時計が製作された当時のオリジナルです。文字盤の最下部にスイス製(SWISS MADE)の文字があります。

 針はすっきりと上品なバトン型で、黒く塗られ、シンプルなバー・インデックスによく似合っています。この時代の女性用時計に秒針はありません。





 本品の風防はなだらかな球面サファイアガラスでできています。サファイアガラスは普通のガラス(ミネラル・ガラス SiO2)ではなく、サファイア(Al2O3)です。このサファイアは人工的に生成したものですが、天然サファイアと同じ化学構造と物理的特性を有します。

 ミネラル・ガラスのモース硬度は七ですので瑕(きず)が付きやすく、またいったん瑕が付くと風防全体を交換するしかありません。これに対してサファイアガラス(人工サファイア)はモース硬度九と非常に硬く、めったなことで瑕が付きません。





 本品の風防は宝石のようなファセット・カットを周囲に施したカット風防です。時計の風防にファセット・カットを施すのも、1960年代の流行です。サファイアの光沢は亜金剛光沢または強いガラス光沢で、多くの宝石やガラスよりも強い輝きを有します。本品のサファイアガラスも時計が傾くたびにキラキラと美しく光を反射します。





 上述したように、時計のムーヴメント(内部の機械)にはクォーツ式と機械式があり、本品はぜんまいで動く機械式ムーヴメントを搭載しています。機械式ムーヴメントには手巻と自動巻があります。自動巻はオートマティックとも呼ばれます。本品のムーヴメントは自動巻(オートマティック)です。

 手巻ムーヴメントと自動巻ムーヴメントはいずれもぜんまいで動く機械式ムーヴメントで、基本的な仕組みは同じです。簡単にいうと、自動巻機構という特別な仕組みを手巻ムーヴメントに付加したものが、自動巻ムーヴメントです。





 手巻ムーヴメントと自動巻ムーヴメントの違いは、ぜんまいの巻き上げ方の違いです。手巻ムーヴメントのぜんまいは、一日一回、手動で巻き上げる必要があります。自動巻ムーヴメントのぜんまいは手動で巻き上げることもできますし、自動巻機構のはたらきにより、時計を着用した人の手首の動きを利用して、自動的にぜんまいを巻き上げることもできます。

 仮に自動巻ムーヴメントから自動巻機構を取り除いても、手巻ムーヴメントの時計として正常に動作しますので、自動巻機構は時計が動く上で必須の仕組みではありません。しかしながらクォーツ式時計が登場する以前、自動巻は手でぜんまいを巻く必要が無い便利な時計として人気がありました。


 三時の位置にあるつまみを、竜頭(りゅうず)といいます。本品の竜頭にはオメガのマーク(Ω)が付いています。使い始める際に時計が止まって場合など、ぜんまいを手動で巻き上げたいときには、竜頭をつまんで回転させれば、誰でも簡単にぜんまいを巻くことができます。竜頭を一段引き出して回転させると、簡単に時刻合わせができます。





 自動巻ムーヴメントの外見が手巻ムーヴメントと異なる点は、ケースの裏蓋を開けたときに、大きな回転錘(かいてんすい)が見えることです。回転錘はローター(英 rotor)とも呼ばれます。上下の写真でオメガ時計会社(OMEGA WATCH Co)、スイス製(SWISS)と刻印されている扇状の部品が回転錘です。腕時計を付けて日常生活をすると、手首がいろいろな角度に動き、回転錘は重力に引かれてぐるぐると回ります。自動巻ムーヴメントはこの動きを利用してぜんまいを巻き上げます。

 回転錘のすぐ下に自動巻機構の残りの部分が見えており、オメガのマークとキャリバー名 660、十七石(SEVENTEEN JEWELS)、アジャステッド・トゥー・ポジションズ(ADJUSTED TWO (2) POSITIONS)の文字が刻まれています。キャリバー(calibre/caliber)とはムーヴメントの型式のことです。この時計は十七石自動巻ムーヴメント、オメガ・キャリバー 660を搭載しています。





 本品のように良質の機械式時計には、摩耗してはいけない部分にルビーを使います。ルビーはサファイアと同じくコランダム(Al2O3) という鉱物で、モース硬度九と非常に硬いので、高級時計の部品として使用されます。必要な部分すべてにルビーを入れると、十七石(じゅうななせき)のムーヴメントになります。十七石のムーヴメントはハイ・ジュエル・ムーヴメント(英 high jewel movement)と呼ばれ、高精度、長寿命の高級機です。

 上の写真は本品のムーヴメント、オメガ・キャリバー 660で、赤く写っているのがルビーです。本品オメガ・キャリバー 660は十七個のルビーが使われたハイ・ジュエル・ムーヴメントです。


 キャリバー 660はオメガ社が 1961年に開発した直径 15.4ミリメートルの機械で、世界最小の自動巻ムーヴメントです。本品のシリアル番号(22928465)は、1965年頃の製造を示します。

 なおムーヴメントの大きさに関して厳密にいうと、スイスのア・シールド社が 1967年に開発したキャリバー 1775は直径 13.5ミリメートルで、オメガ・キャリバー 660よりも小さいですが、オメガ・キャリバー 660のほうがア・シールド・キャリバー 1775よりも薄く、時計として着用した際にドレッシーに見えます。





 上の写真では回転錘に隠れて見え辛いですが、オメガ・キャリバー 660の香箱車と角穴車という部品はベリリウム青銅という特別な合金でできています。ベリリウム青銅 (beryllium bronze, Glucydur) はブロンズにベリリウムを加えたもので、磁気を帯びず、非常に硬い優れた合金です。

 機械式時計の香箱車と角穴車には大きな力がかかるため、ベリリウム青銅は理想的な素材です。しかしながらベリリウム青銅は高価であるため、昔の時計にはほとんど使われていません。筆者(広川)がこれまでに目にした限り、角穴車にベリリウム青銅を使っているヴィンテージ時計(アンティーク時計)は、本品を含むオメガ・キャリバー 660系(cals. 660, 661, 662, 663)、及びミドー・キャリバー 707のみです。あとはロンジン社とオメガ社の別の時計部品において、ごくまれにベリリウム青銅が使われています。


 オメガ・キャリバー 660は非常に小さなサイズであるにもかかわらず、45時間のパワー・リザーヴを誇ります。パワー・リザーヴ(英 power reserve)とはぜんまいをいっぱいに巻き上げて駆動する時間のことで、普通は 40時間以内です。また他社の自動巻ムーヴメントに比べて薄いのも特徴で、分解すると、良く考え抜かれた設計に驚かされます。振り子の役割をする天符(てんぷ)は一秒間に 2.75往復し(振動数 f = 19800 A/h)、優れた計時性能を確保しています。





 アンティーク時計のバンドは元々取り付けられていたオリジナルでなくても構いません。革製のものは言うまでも無く、バンドはすべて消耗品ですし、昔のバンドが使える状態で残っていたとしても、それは前の所有者が自分に合うサイズ、好みのデザインのバンドを取り付けているだけのことです。時計会社はバンドまで作っていませんから、自分に合うサイズとデザインのバンドを取り付けるのが、アンティーク時計との正しい付き合い方です。

 バンドを取り付けるための突起をラグ(英 lug)といいます。アンティークの女性用時計は十二時側と六時側に一本ずつのラグが突出したセンター・ラグ方式が普通です。しかしながら本品は現代の時計と同じく、十二時側と六時側に二本ずつのラグが突出し、ばね棒を使ってバンドを取り付けるようになっています。このためセンター・ラグ方式の時計に比べてバンドに関する自由度が高く、さまざまな色や質感の革バンドを取り付けることができます。本品に金属製バンドを取り付けることも可能です。

 上の写真に写っているバンドはこの時計を仕入れた際に付いていたものです。このバンドは新品ではありませんが充分に使える良い状態ですので、そのまま商品写真の撮影に使用しました。













 本品のラグ間は八ミリメートルで、この幅さえ合えば他のバンドの簡単に付け替えることができます。上に示した五枚の写真は販売済みの女性用オメガに様々なバンドを取り付けた使用例です。五枚の写真に写っている時計のサイズ、及びラグ間の幅は本品と同じです。バンドはいずれも当店在庫の新品で、ご希望により無料で交換いたします。上の写真の金属製バンドは、時計を含めた長さが 17センチメートルです。当店には他の金属製バンドも在庫しています。


 当店は数少ないアンティーク時計の修理対応店です。アンティーク時計はどこの店でも原則的に現状売りで、壊れても修理してもらえませんが、アンティークアナスタシア店主にはアンティーク時計に関する十分な専門知識があり、部品も豊富に揃っているため、他店で不可能な修理に対応できます。お買い上げ後も期限を切らずに修理に対応しますので、心置きなくご愛用いただけます。デリケートなイメージのアンティーク時計ですが、日常使用は十分に可能です。時計はオーバーホール(分解掃除)済みで、順調に動作しています。どうぞ安心してお買い上げくださいませ。

 1965年当時の本品の価格は、初任給のおよそ六か月分でした。当時は 1ドル=360円の固定レートで、輸入品が高価であったためでもありますが、当時のヴィンテージ・ウォッチ(アンティーク・ウォッチ)が現在順調に動いていることからもお分かりいただけるように、当時の機械式時計は非常に質が良く、充分に一生ものと呼べる品物でした。特に本品は時計の外側が綺麗であるのみならず、外側を見ただけでは分からないムーヴメントの状態(輪列の状態、日の裏輪列の状態、時刻合わせ機構の状態、天真やひげぜんまいの状態、調速脱進機の動作)も非常に良好で、これから数十年に亙ってご愛用いただけます。

 お支払方法は現金一括払い、ご来店時のクレジットカード払いのほか、現金の分割払い(三回払い、六回払い、十二回払いなど。利息手数料なし)でもご購入いただけます。当店ではお客様のご希望に出来る限り柔軟に対応しております。ご遠慮なくご相談くださいませ。





本体価格 248,000円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




女性用金無垢時計と銀無垢時計 メーカー名 《OからU》 商品種別表示インデックスに戻る

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