アール・デコ様式による金無垢時計 《リシアム》 女性用アンティーク スイス 1930年代中頃




 1930年代中頃のスイスで作られた女性用の金無垢時計。正方形の隅を取り、わずかに丸みを帯びた上品な八角形のケース、金色のアラビア数字を植字した明るいシルバーの文字盤、優雅なブレゲ針は、如何にもこの時代らしい仕上がりです。





 時計内部の機械を「ムーヴメント」(英 movement)、ムーヴメントを保護する金属製の容器(時計本体の外側)を「ケース」(英 case)といいます。 本品のケースは十四カラット・ゴールドでできており、裏蓋上部に純度の刻印があります。本品のように、めっきではない金製のケースを持つ時計を「金無垢(きんむく)時計」といいます。

 純度百パーセントの金は軟らかすぎるため、時計やジュエリーには使えません。金無垢時計やジュエリーの金は、実用的な強度を確保するために他の金属との合金とし、わざと純度を落としてあります。本品のケースは十四カラット、すなわち純金の「二十四分の十四」に相当する純度のイエロー・ゴールドでできています。時計ケースの素材として最も重要なのは強度です。わが国でよく見かける十八カラット・ゴールド(十八金)は人間の手の力で容易に変形してしまうほど軟らかいですが、十四カラット・ゴールド(十四金)は十八カラット・ゴールドほど容易には変形せず、実用的な硬さを有し、摩耗にも強いため、ムーヴメントをしっかりと保護します。





 本品が作られた 1930年代は、小さな時計が愛用された時代でした。本品は当時の女性用時計としては大きいほうですが、それでも一円硬貨ほどのサイズです。

 1930年代の時計のサイズが小さいのは、金を節約するためではなくて、小さなサイズが流行していたためです。服装や髪形をはじめ、あらゆる流行は数十年の周期で繰り返しますが、二十世紀の半ばは小さな時計が流行した時期に当たります。





 服飾アクセサリーとしての流行とは別に、小さな時計は高い技術水準の証しでもあります。精密機械は、大きなサイズに作るよりも、小さく作る方がよほど高度な技術を必要とします。そのため、時計工学が発達するにつれて、それぞれの時計会社はより一層小さな時計を作ろうと技術的挑戦を続けました。上の写真は 1954年の雑誌に掲載されたスイス時計協会の広告で、マッチの頭に隠れてしまうサイズの女性用時計が掲載されています。この広告に載っているのも、本品と同様に、ぜんまいと歯車で動く機械式時計です。





 「ウォッチ」(英 watch 携帯用時計)という語を聞くと、現代人は腕時計を思い浮かべます。しかしながらウォッチ(携帯用時計)の原型は、懐中時計です。十七世紀後半に発明され、1930年代半ば頃まで二百数十年に亙(わた)って広く使われた懐中時計は、発明されたときから二十世紀初頭まで、すなわちその歴史の大部分において、円形にデザインされていました。ムーヴメント(時計内部の機械)は常に円形でしたし、ケース(時計の外側に相当する金属製の部分)も、ほぼ例外なく円形でした。

 しかしながら 1910年代になって、幾何学的パターンを基本とする「アール・デコ様式」が流行し、1920年代に女性の間で「手首用ウォッチ」、すなわち腕時計が流行し始めると、多角形デザインを大胆に取り入れた時計が愛好されるようになります。こうして史上初めて「四角い時計」が誕生しました。

 1920年代に女性のものとして誕生した腕時計は、十五年ないし二十年遅れて普及した男性用腕時計のデザインにも強い影響を及ぼし、もともと円いものであった時計を四角に変えました。二百年以上同じであった時計の形が、円形から四角形へと劇的に変化したのは、およそ百年前、新しい流行に敏感に反応した女性たちの、おしゃれ心のおかげでした。

 本品もまたアール・デコ様式に基づいて制作された女性用時計で、すっきりとした八角形のシルエットと、エンパイア・ステイト・ビルディング等、1930年代の建築物を連想させるラグ(バンド用突起)の造形に、この時代ならではの特色が表れています。アール・デコは幾何学的パターンを愛しましたが、本品のケースとラグは四角形を基調としつつも尖った部分が無く、優しい丸みに女性用時計らしい優雅さが表現されています。





 ケースの裏蓋には、時計ケースのメーカーのマーク(W C Co)、及び「十四カラット」のマーク(14K)が刻印されています。裏蓋の中央には、アール・デコ様式の直線的な字体によるイニシアルが、彫刻刀を使って丁寧に刻まれています。





 時計に限らず、アンティーク品には、日付や名前、イニシアル等が書き込まれたり彫られたりしている場合が多くあります。これらは真正のアンティーク品のみが有する歴史性の表れであり、瑕(きず)でも汚れでもありません。イギリス王室が所有するティムール・ルビーには歴代の所有者の名前が彫りつけられていますが、それとちょうど同じことです。





 時刻を表す刻み目や数字が配置された板状の部品を「文字盤」、文字盤の周囲十二か所にある「長針五分ごと、短針一時間ごと」の数字を「インデックス」(英 index)といいます。

 本品の文字盤はわずかにクリーム色がかった明るい銀色で、非常に細かいヘアライン加工を施して半艶消し仕上げとし、柔らかな光を反射しています。周囲に短針十二分ごとの刻み目、中央上方寄りに「リシアム」(LYCEUM)のロゴ、最下部に「スイス」も文字が書かれています。この文字盤は、時計が製作された当時のオリジナルです。アンティーク時計の文字盤には疵(きず)や変色があるのが普通ですが、本品の文字盤は七十年前の品物とは思えないほど綺麗で、大切に扱われてきた品物であることがよくわかります。

 なお上の写真において、文字盤の縁に近い部分に塗装の剥がれが見えますが、これはケースの縁が当たるところで、どの時計の文字盤でも必ず傷(いた)む部分です。上の写真はムーヴメントをケースから取り出して撮影していますが、ムーヴメントをケースに納めた通常の状態で、文字盤周囲の疵は見えません。





 本品のインデックスは金色の小さな部品を植字した立体インデックスで、一時から十二時まですべてがアラビア数字で表示されています。これは 1940年代までに製作された時計の特徴です。1950年代に入るとインデックスは数字とバー(棒)の混用となり、1960年代にはほぼ完全にバー・インデックスのみになります。1940年代までに作られたアンティーク時計は、数字が書かれた文字盤がお好きな方にぴったりです。


 本品の長針と短針は、満月のような円形の環を有するユニークな形です。この針は十八世紀フランスの時計師アブラアン・ブレゲが考案したもので、「ブレゲ針」と呼ばれています。

 六時の位置には数字の代わりに小文字盤があり、小秒針が回転しています。現代の時計は「中三針」(なかさんしん)式といって、時針、分針と同じように、文字盤の中央に秒針を取り付けます。しかしなら中三針式の時計は秒針を取り付ける部分の製作が難しく、1950年代以前の男性用時計は、ほとんどが六時の位置に小秒針を取り付けていました。

 女性用時計は非常に小さな機種が多く、六時の位置に小秒針を取り付けても読み取りが困難なので、秒針を付けないのが普通でした。しかしながら本品は女性用としては比較的大きいので、小秒針が取り付けられています。直径四ミリメートルの小文字盤のなかで、可愛らしい小秒針が健気(けなげ)に回転する様子は、見る者の心を和ませてくれます。





 1930年代の時計は現代の時計のような「クォーツ式」ではなく、ぜんまいで動く「機械式」です。電池で動くクォーツ式時計は 1970年代から使われ始めます。本品が製作された 1930年代にはクォーツ式腕時計はまだ発明されていませんでした。

 秒針があるクォーツ式時計を耳に当てると、秒針を動かすステップ・モーターの音が一秒ごとに「チッ」、「チッ」、「チッ」 … と聞こえます。デジタル式など秒針が無いクォーツ式時計を耳に当てると、何の音も聞こえません。本品のような機械式時計を耳に当てると、小人が鈴を振っているような小さく可愛らしい音が、「チクタクチクタクチクタク…」と連続して聞こえてきます。日本語で「チクタク」と表現しているのは、クォーツ式時計の音ではなく、本品のような機械式時計の音です。





 時計内部の機械を「ムーヴメント」(英 movement)といいます。本品のムーヴメントは電池ではなくぜんまいで動いています。本品のようにぜんまいで動く時計を「機械式時計」といいます。良質の機械式時計には、摩耗してはいけない部分にルビーを使います。ルビーはモース硬度「九」と非常に硬い鉱物(コランダム Al2O3)ですので、時計の部品として使用されるのです。

 上の写真は本品のムーヴメント、「プゾー キャリバー 80」(Peseux 80)です。赤く写っているのがルビーで、五個しか入っていないように見えますが、この写真に写っていない文字盤下の地板やムーヴメントの内部に入っていたり、箇所によって二重に入っていたりして、全部で十七個のルビ-が使われています。本品のムーヴメントには「セヴンティーン・ジュエルズ」(17 JEWELS 十七石)、「スイス」(SWISS スイス製)、「リシアム時計会社」(LYCEUM WATCH Co.)等の刻印が読み取れます。

 上の写真ではムーヴメントの右側に比較的大きな金色の輪が写っています。これは「天符」(てんぷ)といって、振子時計の振子に相当し、機械式懐中時計及び機械式腕時計において最も重要な部品です。天符は「ひげぜんまい」という髪の毛のようなぜんまいの働きによって高速で振動し、規則正しい動きによって正確に時を測ります。天符が「振動する」とは、往復するように回転する、という意味です。「プゾー キャリバー 80」の天符は二種類の金属を張り合わせた「バイメタリック・バランス」で、ひげぜんまいの精妙な働きにより、一時間当たり一万八千回、一日当たり四十三万二千回の振動を繰り返して時を刻みます。





 上の写真は天符を近接撮影しています。手前に見える小さなねじは「チラネジ」という部品で、ここを調整することにより、天符が正しく振動するように制御します。

 「プゾー キャリバー 80」の直径は約十七ミリメートルで、一円硬貨(直径二十ミリメートル)よりも小さなサイズです。写真の最下部に、ひと目盛り一ミリメートルの定規が写っています。女性用アンティーク時計の部品が如何に小さいかがお分かりいただけることと思います。





 時計の部品は千分の一ミリメートル単位で設計されており、機種をまたぐ互換性がありません。したがってもしも本品が故障した場合、ムーヴメントを修理するには、およそ八十年前の機械である「プゾー キャリバー 80」の専用部品が必要になります。しかるにリシアム社もプゾー社も数十年前の時計会社で、現在まで存続していないので、時計が壊れても新しい部品を取り寄せることができません。したがってアンティーク時計は、壊れても修理が不可能で、どうしても「現状売り」となります。

 しかしながら当店は数少ないアンティーク時計の修理対応店です。上の写真は当店に在庫している「プゾー キャリバー 80」の部品です。手前の二個は部品取り用ムーヴメントで、左側の機械は受けの形が異なりますが、本品及び右側の機械と同じく、「プゾー キャリバー 80」です。これら二個の部品取り用ムーヴメント「プゾー キャリバー 80」はいずれも使える状態で、特に左側の機械は現状でも動作しています。奥の箱は「プゾー キャリバー 80」のルース・パーツで、ジラール・ペルゴの機械が分解された状態で入っています。





 本品に限らずアンティーク時計一般に言えることですが、時計のメーカーとバンドのメーカーは別です。アンティーク時計に付いているバンドは、たまたまその時計に取り付けられているだけのことで、時計とバンドの組み合わせに必然性はありません。本品の場合も事情は同じで、商品写真に写っているコート・バンドは本品と同じ年代に流行したスタイルですが、リシアムの時計用というわけではなく、写真撮影に際して当店で取り付けたものです。バンドの長さは着用される方に合わせて調整しますし、材質や色が好みに合わない場合は他のバンドと交換可能です。

 商品写真に写っている黒いファブリックの「コード・バンド」(紐バンド)は、金属のバンドに比べて高級感があり、時計を引き立ててくれるので、本品のような金無垢時計に最もよく似合います。コード・バンドの色を替えることもできますし、金属製バンドがお好きである場合は、金属製バンドに無料で付け替えいたします。

 なお本品を含め、ほとんどの女性用アンティーク時計はセンター・ラグ式(バンドを取り付ける突起が、十二時側と六時側にひとつづつ突出した方式)ですので、現代の時計用革バンドを取り付けることはでき褪せん。







 当店にはアンティーク時計の箱も多数在庫しています。当店の箱はいずれも当時のもので、レプリカではありません。リシアムの箱の通常価格は 21,600円ですが、時計をお買い上げいただいたお客様には 7,200円でお譲りいたします。





 アンティーク時計を初めて購入される方のために、よくある疑問をこちらにまとめました。どうぞご覧ください。

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