エルジン銀無垢時計 懐中時計型ナース・ウォッチからのコンヴァージョン 可愛く上品な一点もの 1945年

Elgin grade 539, 16 jewels, cased in solid sterling silver, production year 1945



 小さな懐中時計型ナース・ウォッチを改造した一点ものの腕時計。飽きの来ないクラシカルなデザインは可愛さと上品さを兼ね備えています。優れた耐久性を備えた上質のムーヴメントと、スターリング・シルバーの銀無垢ケースは、生涯に亙って使い続けられる価値があります。いまから七十年あまり前の 1945年に作られた時計ですが、ケース、針、文字盤、ムーヴメントとも、たいへん良好な保存状態です。





 時刻を表す刻み目や数字が配置された板状の部品を「文字盤」、文字盤の周囲十二か所にある「長針五分ごと、短針一時間ごと」の数字を「インデックス」(英 index)といいます。本品のインデックスは 優雅な斜体のアラビア数字で、これは二十世紀前半までの時計に見られる特徴です。1950年代半ばから1960年代以降になると、棒状の「バー・インデックス」が圧倒的に多くなります。


 本品はもともとナース・ウォッチで、時計の中心部に秒針が付いています。このような時計を「中三針」(なかさんしん)といいます。

 時計が「中三針」であるのは、現代人の感覚からすれば当たり前に感じられるかもしれません。しかしながら時計の中心部に秒針を付けるのは技術的に難しいことです。それゆえ中三針の時計は 1960年代以降になって、ようやく一般に普及しました。それ以前の時代、すなわち 1950年代までは、男性用時計には六時の位置に小文字盤があって、そこに「スモール・セカンド」という小秒針を付けるのが普通でした。女性用時計は現行の一円硬貨よりも小さなサイズでしたので、仮に「スモール・セカンド」を取り付けても非常に見づらく、ほとんど用を為しません。したがって女性用時計には秒針が無いのが普通でしたし、女性用時計の文字盤には、一秒ごと(一分ごと)の刻み目もありませんでした。





 本品はもともとナース・ウォッチです。また、後述するように、本品は軍用時計のムーヴメント(機械)を搭載しています。看護師や医師、軍人など、秒単位の時間測定が必要な人のためには、1950年代以前の時計であっても、中三針のムーヴメントが使われました。1945年に製作された本品も、ナース・ウォッチであるゆえに、中三針のムーヴメントを搭載しています。文字盤の外周には一秒ごとの刻み目が設けられ、アラビア数字で秒数が記されています。

 本品の文字盤は白色で、「エルジン」のロゴ (ELGIN) が黒で書かれています。この文字盤は再生(リファービッシュ、リダン)したものではなく、時計が製作された当時のオリジナルです。七十年前の品物であるにもかかわらず、本品の文字盤にはひどい変色も無く、十分に綺麗な保存状態です。


 時計のなかには青い針を持つものがあります。時計の針が鋼鉄製である場合、加熱により青い酸化被膜を作り、錆の発生を防ぎます。加熱して得られた酸化被膜のせいで青く見える鋼鉄を、「ブルー・スティール」(英 blue steel 「青い鋼(はがね)」の意)といいます。「ブルー・スティール」を作るには手間がかかるので、現代の時計に見られる青い針は、大抵の場合、「ブルー・スティール」を模して青く塗装しています。本品の針は真正のブルー・スティールです。





 ぜんまいを巻いたり、時刻を合わせたりするためのツマミを、「竜頭」(りゅうず)といいます。1920年代以降、現代に至るまで、腕時計の竜頭は三時の位置に付いています。しかしながら本品の竜頭は十二時の位置にあり、外見上の大きな特徴となっています。本品の竜頭が十二時の位置にあるのは、本品の元になったナース・ウォッチが小さな懐中時計の形をしていたからです。





 ナース・ウォッチには竜頭の位置が三時や六時のものもあって型式は様々です。本品の元になったナース・ウォッチは、竜頭が十二時の位置にあること、竜頭を囲んでボウ(英 bow 「環」の意)が付いていたこと、ケース裏蓋が蝶番(ちょうつがい)式になっていること、ムーヴメントはべゼルを外して取り出すこと等、クラシカルな懐中時計そのままの様式です。上の写真は本品のケース本体からベゼルとムーヴメントを取り外して撮影しています。蝶番に緩みは無く、直角に開きます。


 時計内部の機械を「ムーヴメント」(英 movement)、ムーヴメントを保護する金属製の容器(時計本体の外側)を「ケース」(英 case)といいます。 本品のケース裏蓋には次の文字と数字が打刻されています。

・ケースのメーカー名(Star Watch Case Company スター時計ケース会社)

・スターリングシルバー

・ケースのシリアル番号

・エルジン・ナショナル・ウォッチ・カンパニーがムーヴメントをケースに入れて時計の完成品とし、最終的な時間調整をした、という意味の刻印(cased and timed by Elgin National Watch Company)


 本品のケースは純度 925/1000の銀でできています。このような純度の銀を「スターリング・シルバー」(sterling silver)といいます。ケースがめっきではない銀でできている本品のような時計を、「銀無垢時計」(ぎんむくどけい)といいます。本品の裏蓋には小さなひっかき傷のようなものがたくさん見えますが、これは整備(オーバーホール)や修理の記録です。





 この時計を作った「エルジン・ナショナル・ウォッチ・カンパニー」(The Elgin National Watch Company エルジン時計会社)は、1864年から 1968年までアメリカ合衆国に存在していた名門ウォッチ・メーカーです。イリノイ州シカゴから五十キロメートル余り北西にある町エルジンに世界最大の時計工場を建設し、1867年から 1964年までの間におよそ六千万個にのぼる良質の時計を製作しました。

 アメリカで隆盛を誇った時計産業は第二次世界大戦後に消滅し、エルジン時計会社もまた 1960年代末、完全に操業を停止しました。現在新品として販売されているクォーツ式「エルジン」は中国製で、かつての高級時計エルジンとは何の関係もありません。


 本品の裏蓋には「おばあちゃんへ 1946年12月25日」(GRANDMA 12-25-46)と大きく刻まれており、本品が思い遣りに満ちたクリスマス・プレゼントであったことがわかります。第二次世界大戦末期、孫娘は看護師として一年間働き、おそらく結婚を機に退職したのでしょう。結婚相手は無事帰国した兵士であったかもしれません。不要になったナース・ウォッチは文字盤が大きくて見やすいので、視力が弱くなった祖母にぴったりです。そこで孫娘は時計店に改造を依頼し、懐中時計型ナース・ウォッチのボウを切り落とし、ラグ(バンド用の突起)を取り付けて、腕時計に作り変えてもらったのです。

 五百円硬貨の直径は 26.5ミリメートルですが、本品の直径は 27.8ミリメートルで、五百円硬貨とほぼ同じ大きさです。当時の女性用時計が一円硬貨よりも小さかったことを考えれば、本品は非常に大きく感じられたであろうことがわかります。





 元々ナース・ウォッチであった本品は、当時の女性用時計としては格段に大きく作られており、現代の女性用時計と変わらないサイズです。しかしながら本品のムーヴメントは軍用時計向けに作られたものです。第二次世界大戦当時の男性用時計は、軍用時計を含め、どれも本品と同様に、五百円硬貨ほどのサイズでした。





 このムーヴメントは軍用時計 "A-11" に使われたのと同じ「エルジン グレード 539」で、シリアル番号から 1945年製であることがわかります。「エルジン グレード 539」は現代のような「クォーツ式」ではなく、ぜんまいで動く「機械式」です。電池で動くクォーツ式時計は 1970年代から使われ始めます。本品が製作された1945年は第二次世界大戦が終わった年ですが、当時はクォーツ式腕時計がまだ発明されておらず、時計はすべてぜんまいで動いていました。「エルジン グレード 539」は 8/0サイズ、十六石の手巻き式ムーヴメントで、一日一回ぜんまいを巻く必要があります。

 良質の機械式時計には、摩耗してはいけない部分にルビーを使います。ルビーはモース硬度「九」と非常に硬い鉱物(コランダム Al2O3)ですので、時計の部品として使用されます。上の写真には四個のルビーが写っていますが、写真に写っていない部分を含めて、本機には合計十六個のルビ-が使われています。「シックスティーン・ジュエルズ」(sixteen jewels 十六石)と書かれているのは、ルビーの数を表示しています。


 下の写真は機械式時計の心臓部分である天符(てんぷ)とその周辺を写しています。天符には金色のチラネジが多数取り付けられています。ひげぜんまいは精度に優れたブレゲひげ(巻き上げひげ)です。





 上の写真のちょうど中心付近、天符の左側に、チラネジに接するように近接して、スティール製のワイアが見えます。これは「ハック・スプリング」(hack spring 秒針規制レバーバネ)という部品です。

 1940年代の腕時計は、竜頭(りゅうず)を引き出さないままの状態で時計回りに回転させるとぜんまいが巻き上がります。時刻合わせの方法は現代の時計と同じで、竜頭を一段階ぶん引き出して任意の方向に回します。一般の機械式時計では、時刻合わせの際に竜頭を一段階ぶん引き出しても、秒針はそのまま動き続けます。しかしながら軍用時計の場合は、軍の作戦行動に秒単位の正確さが求められるゆえに、竜頭を一段階ぶん引き出すと時計が一時的に停止し、作戦に参加する全員の時計をまったく同じ時刻に合わせることができるように作られています。このような機能を「ハック」(英 hack)といいます。

 「エルジン グレード 539」は軍用時計のムーヴメントですので、ハック機能を有します。「エルジン グレード 539」の竜頭を一段階ぶん引き出すと、ハック・スプリングが天符のチラネジと接触し、天符の振動(往復するように回転すること)を停止させます。竜頭を押し込んで元の位置に戻すと、ハック・スプリングが天符から離れ、天符は再び振動を始めます。ハック機能を備えた時計は軍事行動に必須ですが、ストップ・ウォッチの代わりになるゆえに、ナース・ウォッチにも有用です。







 本品に適合するバンドの幅(取り付け部の幅)は十二ミリメートルです。アンティーク時計全般に共通していえることですが、時計のメーカーとバンドのメーカーは別です。アンティーク時計に付いているバンドは、たまたまその時計に取り付けられているだけのことで、時計とバンドの組み合わせに必然性はありません。本品の場合も事情は同じで、元々どんなバンドが付いていたかということは考える必要がありません。色や表面の仕上げ等、お好みに合わせてお選びください。

 時計ケースにバンドを取り付けるための突起を「ラグ」(英 lugs)といいます。一般の時計のラグは十二時側と六時側に二本ずつ突出しており、バネ棒という部品を使ってバンドを取り付けます。しかしながらこの時計のラグは「ワイア・ラグ」という方式で、ワイア・ラグ用のバンドを用いるようにできています。「ワイア・ラグ」はヨーロッパのアンティーク時計に多い方式です。ワイア・ラグ用のバンドは当店で販売しています。





 上の写真は本品を男性店主の手に載せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真よりもひと回り大きなサイズに感じられます。





 時計は無料でオーバーホール(分解掃除)をした後にお渡しいたします。お買い上げ後も期限を切らずに修理に対応しますので、日々ご愛用いただけます。どうぞ安心してお買い上げくださいませ。

 お支払方法は現金一括払い、ご来店時のクレジットカード払いのほか、現金の分割払い(八回払い、十回払い、十六回払いなど。利息手数料なし)でもご購入いただけます。当店ではお客様のご希望に出来る限り柔軟に対応しております。バンド等付属品に関すること、お支払方法に関することなど、どうぞ遠慮なくご相談くださいませ。





本体価格 148,000円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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