ハミルトン プラチナ宝飾時計 「パレ・ロワイヤル」 キャリバー 721 17石 1948年



 現在、高級な時計の主要な製造国はスイスと日本です。高級時計の模造品や、偽物でなくても安価な時計は、中国で大量に作られています。アメリカ合衆国はあらゆる分野の産業で先頭に立ってきた国ですが、現代アメリカの時計産業は貧弱で、安価な製品を作るタイメックス社があるだけです。

 しかしながら二十世紀中葉までのアメリカにはきわめて発達した時計産業があり、アメリカ時計はスイス時計を凌ぐ品質を誇っていました。ペンシルヴェニア州ランカスターにあったハミルトン社はアメリカにおける主要な時計会社のひとつです。アメリカの時計産業が隆盛を誇った時代に、機能重視の時計においても、ジュエリー時計の分野においても、ハミルトン社はきわめて優れた数々の製品を生み出しました。当時アメリカでムーヴメントを製作していたエルジン、ハミルトン、ウォルサムは、時計の機能に関して互角の勝負でした。しかしながら筆者の見るところでは、美しいデザインの女性用時計や宝飾時計に関して、ハミルトンとブローバが断然優れていました。





 本品はハミルトンによるジュエリー・ウォッチ、「パレ・ロワイヤル」(Palais Royal) です。ケースには二十六個のダイアモンドを嵌め込むとともに細かい彫金が施され、正統的でクラシカルなジュエリー・ウォッチに仕上げられています。

 本品のモデル名「パレ・ロワイヤル」はフランス語で「王宮」という意味ですが、特にルーヴル宮の北側にある建物を指します。1780年代、ルイ16世のいとこであるオルレアン公ルイ・フィリップ2世が、元々王宮の敷地であったパレ・ロワヤルにショッピング・モールを建て、宝石店やジュエリー工房等を入居させました。ブシュロンの最初の店も、アレクシス・ファリーズの最初の工房も、パレ・ロワヤルにありました。本品はこの「パレ・ロワイヤル」に因んで名づけられています。





 時計内部の機械を保護する金属製の容器(時計本体の外側)を「ケース」(英 case)といいます。本品のケースは10パーセントのイリジウムを含む「900プラチナ」でできています。純金が軟らかくて実用性に欠けるのと同様に、純粋なプラチナも軟らかすぎて時計ケースに使えません。そのためジュエリーや時計ケースのプラチナにはイリジウムを混ぜて合金とし、硬度を上げて実用性を高めます。「900プラチナ」は化学的安定性が非常に高く、アレルギーも起こしません。





 文字盤を取り巻く部分を「べゼル」(英 bezel)、十二時側と六時側に突出したバンドの取り付け部分を「ラグ」(英 lugs)といいます。本品のケースには、ベゼルとラグに、合計二十六個のダイアモンドが嵌め込まれています。本品はおよそ七十年前の品物ですので、ダイアモンドは現代のブリリアント・カットではなく、シングル・カットです。現代のジュエリーにおいても、メレ・ダイアモンドはシングル・カットです。しかしながら本品では、三時側と六時側の石はメレですが、十二時側と六時側に嵌っている石は大きめのサイズです。大きめのダイアモンドにもシングル・カットを使用した本品は真正のアンティーク品のみが持つ雰囲気をまとっており、レプリカではないことはひと目で分かります。







 上の写真は本品の十二時側と六時側を拡大して撮影しています。綺麗なシングル・カット・ダイアモンドが桜の花びらのような台座に嵌っている様子、時計のほぼ全面にわたって「ミル打ち」が丁寧に施されている様子がご覧いただけます。「ミル打ち」は非常に手間がかかる彫金細工で、細かい点が一列に連なったように見えます。

 現代のジュエリー・ウォッチはケースを研磨して宝石を嵌め込みます。ケースを研磨して光らせると高級感を演出できますが、光沢を得るには磨けばよいだけなので、手間もコストもかかりません。プロのジュエリー店主から見た本物の贅沢品とは、本品のように、彫金をはじめとする貴金属工芸の技術を動員したジュエリーです。現代では、特注した場合を除いて、このような細工が行われたジュエリーを目にすることがなくなりました。

 本品が制作された 1948年のアメリカでは、十八、十九世紀のファイン・ジュエリーに匹敵するこのような贅沢品が、未だ制作されていました。本品における貴金属工芸の水準は「パレ・ロワイヤル」という命名に違わず、アンシアン・レジーム期の貴族や裕福な商人が作らせた「一点もの」ジュエリーを思い起こさせます。





 文字盤はアンティーク時計らしい色に変色しています。インデックスは見易い字体のアラビア数字です。「インデックス」(英 index)というのは短針一時間ごと、長針五分ごとの位置に付けられた文字盤上のマークのことです。丸みを帯びたアルファベットによるハミルトンのロゴ (HAMILTON) が、黒い文字で書かれています。

 ランス(槍)型の針は美しい青色です。これは「ブルー・スティール」といって、鋼を加熱して青い酸化被膜を形成させたものです。ブルー・スティールは貴金属ではありませんが、手間がかかるので、現代の時計に採用されることはまずありません。現代の時計の青い針は、大抵の場合青色の塗料を塗ってあります。本品の針は真正のブルー・スティールです。




 本品のように長針と短針のみを有する時計を「二針」(にしん)の時計と呼びます。腕時計の秒針はもともとストップウォッチの代用として取り付けられた機構で、秒針を備えた「三針」の時計は、時計の世界においてはあくまでも「測定用の道具」と位置付けられます。これに対して「二針」の時計はドレス・ウォッチであり、「三針」の時計よりも地位が高く、ドレッシーです。構造も「三針」の時計より簡単で、メンテナンス性に優れています。特に本品のような手巻式の時計は故障が最も起こりにくく、安心して使えます。





 時計内部の機械を「ムーヴメント」(英 movement)といいます。時計のムーヴメントには「クォーツ式」と「機械式」があり、本品はぜんまいで動く「機械式ムーヴメント」を搭載しています。本品のムーヴメントは機械式のなかでも「手巻ムーヴメント」と呼ばれる種類で、一日一回、手動でぜんまいを巻き上げる必要があります。ぜんまいは竜頭(りゅうず ケース外側に突出したつまみ)を回すことで簡単に巻き上げることができます。





 この時計に搭載されているのは、ハミルトンの自社製手巻ムーヴメント「キャリバー 721」です。 「キャリバー 721」は長径 21.05ミリメートル、短径 12.6ミリメートルの楕円形で、百円硬貨よりも小さなサイズですが、振り子の役割をする「天符(てんぷ)」は一秒間に二往復半し(振動数 f = 18000 A/h)、十分な計時性能を確保しています。

 本品のように良質の機械式時計には、摩耗してはいけない部分にルビーを使います。ルビーはサファイアと同じく「コランダム」(Al2O3) という鉱物で、モース硬度「9」と非常に硬いので、高級時計の部品として使用されます。必要な部分すべてにルビーを入れると、「十七石」(じゅうななせき)のムーヴメントになります。十七石のムーヴメントは「ハイ・ジュエル・ムーヴメント」(英 high jewel movement)と呼ばれ、高精度、長寿命の高級機です。





 ムーヴメントの写真に赤く写っているのがルビーです。五個しか入っていないように見えますが、写真に写っていない文字盤下の地板やムーヴメントの内部に入っていたり、箇所によって二重に入っていたりして、ハミルトン「キャリバー 721」には全部で十七個のルビ-が使われています。ムーヴメントの中央あたりに "17 JEWELS" (十七石)と刻まれているのは、この意味です。ルビーを取り巻く金色の部品は「シャトン」(仏 chatons)といって、金(ゴールド)でできています。軟らかい金属であるゴールドでできたシャトンは、鋼鉄製の地板と受けにルビーをしっかりと嵌め込む役割をしています。





 1948年代当時のハイ・ジュエル・ウォッチは、本品のような宝飾時計でなくても、初任給のおよそ三カ月分の価格でした。現代のクォーツ時計に比べるとずいぶんと高価ですが、現在スイスで作られている機械式時計も、価格はやはり数十万円以上です。ほとんどのクォーツ時計には、実はおもちゃのようなプラスチック製ムーヴメントが入っていて、そのせいで安く手に入るようになったのですが、良質の機械式時計の値段は、昔も今も変わりません。高級品が多く載っている雑誌には、一本数百万円から一千万円以上もする時計が掲載されています。簡単にいえば本品はそのような現行品と同じ水準の品物で、「一点もの」の魅力が加わっています。1948年当時の本品の価格を現代の貨幣価値に換算すると、四百万円台位でしょう。

 初任給の三カ月分以上の価格で売られていたハイ・ジュエルの時計は、適切なメンテナンスによって数十年間動き続ける「一生もの」です。宝飾時計ではない普通の機種であっても、昔の時計は「初任給の三カ月分」もしたわけですが、「一生もの」である事を考えると、当時の価格は決して高くはありません。現代のクォーツ時計でも、ブランド物を買えば数十万円しますが、クォーツ・ムーヴメントの心臓である「回路」の寿命は、高級時計のメーカー自身が言うところではおよそ七年、長く見積もってもせいぜい十年ちょっとです。もともとの価値よりも格段に安く手に入るアンティーク時計は、修理の問題さえクリアすれば、実はたいへんなお買い得品です。




(上・参考画像) 1940年代のハミルトンの広告 当店蔵


 本品には黒いコード・バンドを取り付けてあり、どのような長さにでも自由に変更できます。お好みにより金属のバンドに変更できますが、見た目が安っぽくなるのでお勧めは致しません。

 十二時側と六時側に突出したバンドの取り付け部分を、「ラグ」(英 lugs)といいます。本品のような宝飾時計のラグは、彫金や透かし細工で美しく飾られています。黒のコード・バンドはあらゆるバンドの中で最もドレッシーであり、宝飾時計の美しさをいっそう際立たせてくれます。上の広告の絵を見ても、ラグに細工のある女性用時計にはコード・バンドが付いています。





 故障の際に部品が手に入らないという理由で、アンティーク時計はお買い上げ後の修理、メンテナンスに対応しない「現状売り」となるのが普通ですが、当店では長期に亙り修理に対応いたします。上の写真は部品用として当店に在庫している「ハミルトン キャリバー 721」ムーヴメントの一部です。





 アンティーク時計はどこの店でも原則的に「現状売り」で、壊れても修理が困難ですが、アンティークアナスタシア店主にはアンティーク時計に関する十分な専門知識があり、部品も豊富に揃っているため、他店で不可能な修理に対応できます。お買い上げ後も期限を切らずに修理に対応しますので、日々気軽にご愛用いただけます。デリケートなイメージのアンティーク時計ですが、日常使用は十分に可能です。どうぞ安心してお買い上げくださいませ。





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