アール・デコの幾何学デザイン 小さな四角い時計 《クレオ》 ダイヤモンド付きホワイト・ゴールド無垢ケース 石付き文字盤 1950年頃



 女性用の四角い宝飾時計。ケース(時計本体)はホワイト・ゴールドでできており、二石のダイヤモンドが嵌め込まれています。アール・デコ様式による幾何学デザインのケースに、半円筒ヴォールト状(カマボコ型)の風防が美しく調和しています。

 本品はスイスの老舗時計会社ブランパン(Blancpain)が二十世紀半ばに制作した時計で、現代のものに比べて格段に小さく作られています。時計本体、すなわちラグ(バンドを取り付ける突起)を除いた長方形部分のサイズは、縦 17.8ミリメートル、横 14.3ミリメートルしかありません。一円硬貨の直径は 20ミリメートルですから、本品は一円硬貨よりも小さなサイズです。





 時計内部の機械を、ムーヴメント(英 movement)と呼びます。ムーヴメントを入れる金属製容器、すなわち時計本体の外側部分を、ケース(英 case)と呼びます。本品のケースは十四カラットのホワイト・ゴールドでできています。

 金は金色の金属元素です。銀は可視光の全域にわたってほぼ偏り無く光を反射しますから白く輝きますが、これに対して金の反射光は長波長側に偏っており、そのせいで黄色っぽい輝きになります。金は非常に軟らかい金属で、純金は実用的用途に使うことができません。たとえば純金で時計ケースを作ってもすぐに歪みが出て、風防も裏蓋もバンドも外れてしまい、ムーヴメントがケースの外に転がり出てしまいます。それゆえ金で実用品を作る場合は、他の金属を混ぜて合金とし、必要な強度を確保します。

 金合金の色は、混ぜる金属によって異なります。金に銅と銀を混ぜると、最もよく見かけるイエロー・ゴールドになります。金にニッケルを混ぜると、ホワイト・ゴールドになります。本品のケースは銀色ですが、素材は銀ではなくて、ホワイト・ゴールドです。

 金の純度は「カラット」(karat)で表します。純度百パーセントの金は二十四カラットですが、これは軟らか過ぎて実用品を作れません。本品のケースは十四カラット、すなわち「二十四分の十四」の純度のホワイト・ゴールドで製作されています。十四カラット・ゴールドは「十四金」ともいいます。下の写真は本品の裏蓋側です。十二時側の端近くに "14K" と刻印されているのは、「十四カラット」という意味です。





 わが国でよく目にする十八金は、二十四金(純金)ほどではないですが、それでもかなり軟らかく、時計ケースに使うと簡単に曲がってしまいます。そのため十八金ケースの時計は取り扱いに多少の注意が必要です。また十八金は摩耗しやすいので、毎日使う時計よりも、ときどき使う時計に適しています。これに対して十四金の時計ケースは、十八金と同様の金無垢ケースでありながらも格段に丈夫です。本品はラグにダイアモンドを嵌め込んだ宝飾時計ですが、パーティー専用のように派手なデザインではありません。それゆえ普段遣いが十分に可能ですが、本品のケースは丈夫で、耐摩耗性に優れており、時計を日々愛用するうえで心強い味方となってくれます。





 バンドを取り付ける突起を「ラグ」(英 lugs)といいます。現代の女性用時計は、男性用時計と同様に、ケースの十二時側と六時側から二本ずつのラグが突出し、バネ棒と呼ぶ部品を使って革、布、金属等でできた平たいバンドを取り付けるようになっています。しかるに二十世紀中頃の女性用時計は非常に小さなサイズが好まれたので、多くの場合、ケースの十二時側と六時側から一本ずつのラグが突出する「センター・ラグ式」となっています。本品もセンター・ラグ式です。

 本品はケース全体、及び文字盤が見える窓の部分ともおしゃれな角型で、ラグも直線的なデザインとなっています。幾何学的なパターンを多用した本品のデザインは、1920年代に全盛期を迎えたアール・デコ様式によります。アール・デコ様式はインダストリアル・デザインに広く取り入れられ、その直前のアール・ヌーヴォー様式に比べると、はるかに長く人気を保ちました。時計ケースに関して言えば、アール・デコ様式は 1950年代末まで続き、多様な美を生み出しました。





 本品のラグにはダイヤモンドが嵌め込まれています。本品と同時代の日本製時計に嵌っている石は、ほとんどの場合、ガラスの模造宝石です。しかしながら本品に嵌っている二石はいずれも真正のダイヤモンドで、熱伝導率テスターによる検査済みです。


 ダイヤモンドの座となる台形部分は、周囲にミル打ちが施されています。この部分は本品のケースにおいて最も突出しているゆえに摩滅しやすく、ミル打ちも部分的に消失し、あるいは優しい丸みを帯びています。

 ミル打ちとはジュエリーの稜線部分に鏨(たがね)による彫金を施し、点あるいは細粒の連続を作り出す技法です。ミル打ちは非常に手間がかかるので、現代の時計には見られません。現行時計のケースは、高価な機種であっても、単に磨き上げられているだけです。しかしながら本品には時間と手間を惜しまずにミル打ちが施されており、アンティーク・ファイン・ジュエリーと同様の優雅な趣があります。





 時計において、時刻を表す刻み目や数字が配置された板状の部品を、文字盤(もじばん)または文字板(もじいた)といいます。本品の文字盤は明るい銀色で、半艶消し処理が為され、光を柔らかく反射します。文字盤の上部に黒色の流麗な筆記体で「クレオ」(Cleo)のブランド名が記されています。本品の文字盤には経年による小さな斑点があって、レプリカには無いアンティーク時計ならではの雰囲気を有します。なお商品写真は大きく拡大表示しているので斑点がよく見えますが、肉眼で実物を見ると充分に綺麗です。

 文字盤の周囲十二か所にある「長針五分ごと、短針一時間ごと」のマーカー(目印)を、「インデックス」(英 index)といいます。本品のインデックスは十二個のラインストーンを文字盤に埋め込んでいます。1948年頃から 1952年頃の時計文字盤には石が埋め込まれている場合があり、本品もそのような作例のひとつです。

 アンティーク品が有する最大の魅力は、時代ごとに特有のデザインで作られ、その時代の空気をまとっていることです。そのような意味において、1950年頃に特徴的なデザインを有する本品は、とりわけ魅力的なアンティーク時計のひとつであるといえます。





 本品の針は菱形を細長く伸ばした「アルファ型」で、ケース全体の幾何学的デザインとよく調和しています。針の美しい青色は「ブルー・スティール」といって、鋼を加熱して形成した青い酸化被膜によりまです。ブルー・スティールは貴金属ではありませんが、手間がかかるので、現代の時計に採用されることはまずありません。現代の時計の青い針は、大抵の場合青色の塗料を塗ってあります。本品の針は真正のブルー・スティールです。

 本品のように長針と短針のみを有する時計を、二針(にしん)の時計と呼びます。腕時計の秒針はもともとストップウォッチの代用として取り付けられた機構で、秒針を備えた三針の時計は、時計の世界においてはあくまでも「測定用の道具」と位置付けられます。これに対して二針の時計はドレス・ウォッチであり、三針の時計よりも地位が高く、ドレッシーです。二針の時計は構造の点でも三針の時計より簡単で、メンテナンス性に優れています。特に本品のような手巻式の時計は故障が最も起こりにくく、安心して使えます。





 本品の風防はガラス製で、良好な状態です。風防の形状は半円筒ヴォールト状、すなわちカマボコ状に盛り上がったドーム型です。本品を側面から見ると、半円筒ヴォールト状の風防がケースの形状に調和して、美しい曲線を描いています。





 三時の位置から突出するツマミを、竜頭(りゅうず)といいます。本品は電池が要らない手巻き時計で、ぜんまいで動きます。手巻き時計は一日一回竜頭を操作してぜんまいを巻き上げるので、現代の電池式時計に比べて操作しやすいサイズの竜頭が取り付けられています。

 なお本品には青色ガラスの装飾付き竜頭(石付き竜頭)を取り付けています。お好みにより、石付きでない通常の竜頭に付け替えることもできます。





 時計内部の機械を、ムーヴメント(英 movement)と呼びます。

 現代の時計は「クォーツ式時計」といって、電池で動くクォーツ・ムーヴメントを使っています。クォーツ式時計が普及したのは 1970年代後半以降で、それ以前の時計は電池ではなくぜんまいで動いていました。電池で動く時計を「クォーツ式時計」と呼ぶのに対して、ぜんまいで動く時計を「機械式時計」といいます。アンティーク時計はすべて機械式時計です。本品も機械式時計で、電池ではなくぜんまいで動きます。電池は不要なので、本品のムーヴメントには電池を入れる場所がありません。

 本品のような手巻き式時計は、機械式時計の一種です。手巻き式時計のぜんまいは、竜頭(りゅうず)を指先でつまみ、回転させて巻き上げます。ぜんまいを十分に巻き上げると二日近く動作しますが、そのまま放っておくと止まるので、一日一回ぜんまいを巻き上げてください。ただし使わないときは、ぜんまいを巻く必要はありません。止まった状態で保管していても大丈夫です。





 良質の機械式時計には、摩耗してはいけない部分にルビーを使います。ルビーはたいへん硬い鉱物ですので、良質の時計の部品として使用されるのです。必要な部分すべてにルビーを入れると、十七石(じゅうななせき)のムーヴメントになります。十七石のムーヴメントは「ハイ・ジュエル・ムーヴメント」(英 high jewel movement)と呼ばれる高級品です。本品は十七石のハイ・ジュエル・ムーヴメントで、十七個のルビーが使用されています。上の写真で赤く写っているのがルビーで、四個しか入っていないように見えますが、この写真に写っていない文字盤下の地板やムーヴメントの内部に入っていたり、箇所によって二重に入っていたりして、全部で十七個が使われています。

 本品が搭載するのは、スイスのア・シールド社(A. Schild S. A., AS)が開発した手巻ムーヴメント、「ア・シールド キャリバー 976」(AS 976)です。「ア・シールド キャリバー 976」は信頼性の高い高級機で、数多くの時計に搭載されています。

 本品の文字盤には「クレオ」(Cleo)と書かれていますが、これは宝飾ブランド名で、実際に本品を作った時計会社はスイスのブランパン、1950年当時のレイヴィル=ブランパン(Rayville-Blancpain, Société Anonyme)です。ブランパンは現在も存続している高級時計のメーカーで、現行品の価格は女性用が 110万円から 1,900万円、男性用が 120万円から 6,280万円となっています。





 1950年当時、本品のようなダイヤモンド付き金無垢時計の価格は、少なくとも初任給の六か月分に相当したはずです。現代の貨幣価値でいえば、百万円近い値段であったことがわかります。クォーツ式(電池式)の安価な時計が容易に手に入る現在から見ると、昔の時計は想像もつかないほど高価な品物であったわけですが、製造後数十年経った時計でも普通に使えるという「一生もの」のクオリティを備えていたのであって、いわゆる「ブランド代」ゆえに品質に比べて価格が高すぎる商品とは事情が異なります。初任給数か月分の価格が付いた商品には、初任給数か月分の実質的な値打ちがあったのです。





 ちなみに機械式時計は現在でも作られています。プランパンをはじめ、高級品を紹介する雑誌などで見かける数十万円から数百万円以上の時計が、機械式時計です。クォーツ時計は数年の寿命で、かなり良いものでも十年余りで回路が壊れて修理不能になりますが、機械式時計は数十年以上のあいだ動く「一生もの」です。良質の機械式時計の「初任給数か月分」という値段は、昔も今も変わりません。

 時計を長く使い続けるためには、品物がもともと持っている良質さとともに、修理への対応が必要となります。アンティークアナスタシアはアンティーク時計の修理に対応しており、本品に搭載されている「ア・シールド キャリバー 976」(AS 976)の部品も豊富に揃えていますので、時計を安心してご愛用いただけます。





 昔も今も、時計会社は時計のみを作り、バンドは作っていません。新品の時計を買ったときに付いているバンドは、バンドのメーカーが時計会社に納入したものです。それゆえアンティーク時計のバンドに関しても、そのバンドがもともと付いていた「オリジナル」かどうかということは、全く気にする必要がありません。

 革やファブリックのバンドは消耗品ですから、古くなれば交換する必要があります。金属製バンドは長持ちしますが、この場合も時計とバンドの組み合わせに必然性はありません。「オリジナル」のバンドがアンティーク時計に付いている場合でも、元の所有者が自分の好みやサイズに合わせてバンドを付け、それが残っているだけのことです。したがって自分の好みのデザイン、材質、サイズのバンドを選んで取り付けるのが、アンティーク時計との正しい付き合い方です。





 商品写真の撮影時に取り付けたバンドは、コード・バンド一種類、金属製バンド二種類の計三種類を使用しました。これらは使用可能なバンドの例であり、別のバンドを本品に取り付けることもできます。

 コード・バンドのコード(紐)は、レディース・ウォッチ用に作られた数十年前の未使用品を取り付けています。黒い紐のコード・バンドは高級感があって、時計を引き立たせてくれますし、普段使いにもドレスアップした装いにも似合います。二種類の金属製バンドも、いずれも二十世紀半ばの品物です。

 時計に取り付けてお譲りするバンドの価格は、時計の商品代金に含まれています。また時計のお買い上げと同時に、あるいは別の機会に、バンドを追加購入することも可能です。センター・ラグ用バンドは市中で手に入りませんが、当店には豊富な在庫があります。ご安心ください。





 本品はおよそ七十年前の時計ですが、デザインに古さを感じさせません。金無垢ケースは剥げることがないので、いつまでも美しさを保ちます。十七石のムーヴメントはもともと耐久性に優れているうえに、当店は修理にも対応していますので、長くご愛用いただけます。

 本品は「ア・シールド キャリバー 976」という機械を搭載しています。ア・シールド社は数十年前に無くなったので、「ア・シールド キャリバー 976」の部品も現在では手に入りません。下の写真は当店に在庫している「ア・シールド キャリバー 976」の部品取り用ムーヴメントです。ムーヴメントの数は完品だけでも二百個ほどありますし、単独の部品も多数在庫しています。



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女性用腕時計 金またはプラチナ製ケース 宝石で装飾したもの メーカー名 《CからG》 商品種別表示インデックスに戻る

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