グリュエン 《カルトゥーシュ》 産声を上げたばかりの腕時計 1922年

"Cartouche" by Gruen, caliber 833, Style Number 8, 15 jewels 4 adjustments, circa 1922



 アメリカ合衆国の時計会社「グリュエン」(Gruen Watch Company)による 1922年の女性用モデル、「カルトゥーシュ」。本格的なリストウォッチが産声を上げたばかりの1920年代初頭、アール・デコの全盛期に、流行の先端を行く女性のために作られた「手首用ウォッチ」です。古い年代にもかかわらず保存状態は良好で、きちんと動作します。





 時計内部の機械を「ムーヴメント」(英 movement)、ムーヴメントを保護する金属製の容器(時計本体の外側)を「ケース」(英 case)といいます。

 腕時計は懐中時計から発達しました。ムーヴメント製作の技術が進歩して時計が十分に小型化されると、女性たちが小さな懐中時計を手首に巻き始めたのです。このようにして、女性用懐中時計から女性用コンヴァーティブル・ウォッチが誕生し、腕時計へと進化してゆきました。


 コンヴァーティブル・ウォッチをはめた女性。1910年頃の写真。


 腕時計は女性用懐中時計から進化しましたが、懐中時計のムーヴメントはすべて円形です。四角形や八角形など、円形以外の懐中時計も稀(まれ)にありますが、それらは円形ムーヴメントを多角形のケースに入れているだけで、懐中時計のムーヴメントそのものは常に円形です。したがって腕時計のムーヴメントも、コンヴァーティブル・ウォッチの時代においてはすべて円形でした。


(下) 小さな懐中時計から誕生した女性用コンヴァーティブル・ウォッチ。当店の商品です。




 コンヴァーティブル・ウォッチの時代は 1910年代の終わり頃まで続きますが、1920年代に入ると本格的な腕時計の時代が到来します。腕時計はもともと女性用の時計として誕生しましたので、女性用腕時計の技術的進歩は男性用よりも速く、1920年代の初めころには細長い女性用ムーヴメントが既に登場していました。流行に敏感な女性たちは、「時計は円いもの」という既成の観念を壊した四角い時計、細長い時計を競って身に着けました。


 初期の腕時計をはめた女性。1920年代の写真。


 本品は腕時計の最初期である 1922年頃にグリュエンが制作した女性用リストウォッチ、「カルトゥーシュ」(Cartouche)です。

 紋章や銘をミアンダー文(雷文)で囲んだ意匠をフランス語で「カルトゥーシュ」といいます。グリュエンによる本モデル「カルトゥーシュ」は、銀色の文字盤上にインデックス(数字)を楕円形に配し、それをミアンダー文で囲んで、文字盤全体を長方形のカルトゥーシュとしています。文字盤の上部に黒の文字で "GRUEN"(グリュエン)のロゴが書かれています。





 文字盤の周囲十二か所にある「長針五分ごと、短針一時間ごと」の数字を、「インデックス」(英 index)といいます。本品のインデックスはアラビア数字によります。時計のインデックスには年代による特徴があって、1960年代以降の時計にはバー・インデックス(棒状のインデックス)、1950年代の時計にはアラビア数字を棒や点と併用したインデックス、1940年代以前にはアラビア数字のみのインデックスが多用されます。特に本品のアラビア数字はまったくのアール・デコ様式で、直線のみで構成された特徴的なデザインが、1920年代という時代をよく表しています。





 本品の針は青い色をしています。これは「ブルー・スティール」(英 blue steel 「青い鋼(はがね)」の意)といって、鋼鉄製の針を加熱し、青い酸化被膜を作ったものです。「ブルー・スティール」は錆の発生を防ぐための加工ですが、作るのに手間がかかるので、現代では数十万円以上の時計にしか用いられなくなっています。現代の安価な時計の青い針は、大抵の場合、「ブルー・スティール」を模して青く塗装しています。本品の針は真正のブルー・スティールです。なおこの時代の女性用時計は「ドレス・ウォッチ」ですので、秒針はありません。秒針は、本来、仕事の際に作業時間を測定するためのものです。





 本品のケースはホワイト・ゴールドの金張りです。「金張り」とは板状の金をベース・メタルに張り付けたもので、摩耗に強く、見た目にも高級感があります。本品のケースを開けてムーヴメントを取り出すと、ケースの裏蓋に「グリュエン」(Gruen)、「リインフォースト・ゴールド」(REINFORCED GOLD)と刻印されています。「リインフォースト・ゴールド」とは、英語で「補強した金」という意味で、金張りのことです。アンティーク時計の金張りは現代の金めっき(エレクトロプレート)に比べると金の厚みが数十倍に達しますが、特にグリュエンの金張りは分厚いことで有名でした。

 「リインフォースト・ゴールド」の下に刻印されている数字は、"736933" がケースのシリアル番号、"833" がムーヴメントのキャリバー名です。"8" はグリュエンが「スタイル・ナンバー」と呼んでいた番号で、ケースのデザインを示します。





 本品のケース側面はリボン状の文様、裏蓋は植物文様で飾られています。裏蓋の中央にはイニシアルと思われる三文字が刻まれています。





 本品はオーヴァル型手巻ムーヴメント「グリュエン キャリバー 833」を搭載しています。これは 1922年にエグラー社(Jean Aegler)が開発した十五石の機械で、「ロレックス キャリバー 250」と同じものです。

 手巻ムーヴメントは電池ではなくぜんまいで動きます。電池で動く「クォーツ式」腕時計が普及したのは、1970年代以降のことです。本品が製作された 1922年にはクォーツ式腕時計はまだ発明されておらず、腕時計はすべてぜんまいで動いていました。

 ぜんまいは竜頭(りゅうず)を回して巻き上げます。竜頭とは三時の位置でケース側面から突出しているツマミのことです。本品の竜頭はガラス製の青色石で飾られています。





 上の写真はムーヴメントの受け側、すなわちムーヴメントをケース裏蓋から外すと見える側を撮影しています。「受け」(ブリッジ bridge)と呼ばれる部分には「グリュエン・ギルド」(GRUEN GUILD) 、「十五石」(FIFTEEN JEWELS)、「フォー・アジャストメンツ」(FOUR ADJUSTMENTS)の文字が刻まれています。 「ギルド」とは高い技術的水準を保つ目的で中世ヨーロッパに設けられていた職工組合のことです。グリュエン社はギルドの精神を時計作りの理想とし、ムーヴメントに「グリュエン・ギルド」と刻みました。

 ムーヴメントの右側には多数の小さなネジが付いた大きな輪が写っています。これは「天符」(てんぷ)といって、振子時計の振子に相当し、機械式懐中時計及び機械式腕時計において最も重要な部品です。天符は「ひげぜんまい」という細いぜんまいの働きによって高速で振動し、規則正しい動きによって正確に時を測ります。天符が「振動する」とは、往復するように回転する、という意味です。「グリュエン キャリバー 833」の天符は二種類の金属を張り合わせた「バイメタリック・バランス」で、ブレゲひげ(巻き上げひげ)という精密な部品の働きにより、一時間当たり一万八千回、一日当たり四十三万二千回の振動を繰り返して時を刻みます。

 天符の下、ムーヴメントの右端に、キャリバー名「833」、及び「スイス」(SWISS 「スイス製」の意)の文字が刻印されています。





 良質の機械式腕時計、懐中時計には、摩耗してはいけない部分にルビーを使います。ルビーはたいへん硬い鉱物ですので、時計の部品として使用されるのです。本品のムーヴメント「グリュエン キャリバー 165」は十五個のルビーを使用しています。上の写真ではルビーが四個しか見えませんが、あとの十一個は機械の裏側(文字盤側)など、上の写真に写っていない部分に使われています。十五個のルビーを使用した「十五石」(じゅうごせき)のムーヴメントは、摩耗してはならないほとんどすべての箇所にルビーを使用した良質の機械です。





 上の写真は文字盤を外したところです。"7946" は本機固有のシリアル番号、すなわちエグラー社またはグリュエン社が、本品のムーヴメントに割り当てた世界にひとつの番号です。





 本品には共箱(この時計がもともと新品時に入っていた箱)が付いています。共箱が残っているのはたいへん珍しいことですが、本品の共箱は非常に綺麗な状態で、この時計がとても大切に扱われていたことがわかります。





 箱の内側には古風な英語で「グリュエン・リスト・ウォッチ」(GRUEN WRIST WATCH)の文字が入っています。現代の英語では「リストウォッチ」(wristwatch 腕時計)は一語です。「リスト・ウォッチ」(wrist watch)という分かち書きは、強いて訳すなら「手首用ウォッチ」という風な意味です。

 本品が作られたのは、いまからおよそ百年前の 1922年です。本格的な腕時計、つまりコンヴァーティブル・ウォッチではない腕時計専用機は、1920年代前半になって、お洒落な女性たちの間で使われ始めました。この時代に「ウォッチ」というとふつうは懐中時計のことでしたが、本品はファッションの最先端を行く「手首用ウォッチ」でありました。1922年製の本品は、腕時計が産声を挙げたときの姿なのです。





 本品のバンドはお好きな色、質感、長さのバンドに換えることができます。時計会社はバンドまで作っていませんので、アンティーク時計のバンドをお好みのものに取り換えても、アンティーク品としての価値はまったく減りません。商品写真はコード・バンド(ひも製バンド)を取り付けて撮影しています。コード・バンドは時計が引き立って最もお洒落ですが、お好みにより金属製バンドに取り換えることもできます。コード・バンドの色を変えることもできます。バーガンディ(ワイン色)やグレー、茶色のコード・バンドも在庫しています。時計お買上時のバンド交換は、当店の在庫品であれば無料で承ります。





 当店はアンティーク時計の修理に対応しております。アンティーク時計の修理等、当店が取り扱う時計につきましては、こちらをご覧ください。当店の時計は現金一括払い、ご来店時のクレジットカード払いのほか、現金の分割払い(三回払い、六回払い、十二回払いなど。利息手数料なし)でもご購入いただけます。当店ではお客様のご希望に出来る限り柔軟に対応しております。ご遠慮なくご相談くださいませ。





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