ドーム形風防のドレス・ウォッチ 《ジラール=ペルゴ》 スイス、ラ・ショー=ド=フォンの小さな貴婦人 1960年代前半



 1960年前半のスイス製レディース時計。高級時計の老舗、ジラール=ペルゴ社の商品です。





  時計内部の機械を「ムーヴメント」(英 movement)と呼びます。ムーヴメントを保護する筐体(きょうたい 箱、容器)、すなわち時計本体の外側に見えている金属製の部分を、「ケース」(英 case)と呼びます。ケースは外側から見た場合の時計本体であり、ケースの形と大きさは時計のデザインを決定する最大の要素です。




(上・参考写真) グリュエン 《カルトゥーシュ》 1922年の四角い時計 当店の商品です。


 時計ケースの形には、年代ごとに流行があります。大体の傾向を述べると、1910年代に初めて登場した女性用腕時計は、懐中時計をそのまま小型にした「トランジショナル・ウォッチ」で、バンドを外せばペンダント・ウォッチに早変わりしました。1920年代に入ると女性の間で長方形、トノー型等、円形でないリストウォッチ専用機(ペンダント・ウォッチ兼用ではない腕時計)が爆発的に流行します。1920年代の女性用腕時計はたいへん華やかですが、1930年代に入るとデザインが簡素になるとともにムーヴメントの小型化が進み、1920年代よりもずっと小さなトノー型腕時計となります。1940年代の女性用腕時計は 1930年代の簡素なデザインを引き継ぐとともに、ムーヴメントをさらに小型化した機種が登場しますが、必ずしも小さな機種が流行したわけではありません。1950年代に優先されたのはデザインの面白さで、ユニークな形状の時計が数多く登場しました。女性用腕時計が史上最も小さくなったのは 1960年代で、この時期の小さな女性用時計は 1940年代の時計と似て正統的なデザインを有します。1970年代に入っても極小サイズの女性用腕時計は人気がありましたが、一方でひとまわり大きいサイズの機種も使われ始めます。

 本品は 1960年代前半頃の品物で、1940年代の時計を髣髴させるすっきりとしたデザイン、5.75 x 6.75リーニュという極小のサイズ、ドーム状に盛り上がった風防、アラビア数字とバー(直線)を併用したインデックスが、この時代の香りを色濃く留めています。





 ケースの十二時側と六時側にある突起を「ラグ」(英 lugs)といいます。ラグはバンドを取り付ける部分です。

 現代の女性用時計は昔の男性用時計に相当するサイズで、十二時側と六時側に二本ずつのラグが突出し、「ばね棒」と呼ばれる部品を使って、革や金属でできた幅広のバンドを取り付けるようになっています。しかしながら 1930年代から1970年代頃までの女性用時計は一円硬貨よりも小さなサイズですので、ラグは十二時側と六時側に一本ずつ突出する「センター・ラグ」方式であるのが普通です。本品もセンター・ラグ方式で、十二時側と六時側に一本ずつ突出したラグに、コード・バンドと呼ばれる紐製バンドを通すか、金属製バンド末端のリングを引っ掛けて取り付ける仕組みになっています。

 昔も今も、時計会社は時計のみを作り、バンドは作っていません。新品の時計を買ったときに付いているバンドは、バンドのメーカーが時計会社に納入したものです。それゆえアンティーク時計のバンドに関しても、そのバンドがもともと付いていた「オリジナル」かどうかということは、全く気にする必要がありません。


 革やファブリックのバンドは消耗品ですから、いずれにせよ新品に交換する必要があります。金属製バンドは長持ちしますが、この場合も時計とバンドの組み合わせに必然性はありません。「オリジナル」のバンドがアンティーク時計に付いている場合でも、元の所有者が自分の好みやサイズに合わせてバンドを付け、それが残っているだけのことです。したがって自分の好みのデザイン、材質、サイズのバンドを選んで取り付けるのが、アンティーク時計との正しい付き合い方です。

 筆者(広川)は金属製バンドよりも高級感があるコード・バンド(黒い紐のバンド)が好きなので、本品の商品写真はコード・バンドを取り付けて撮影しました。コード・バンドは時計を引き立たせてくれますし、金属製バンドに比べてドレッシーさが増して、普段使いにもドレスアップした装いにも似合います。コード・バンドの長さは自由に設定できます。またファブリックの紐の代わりに合成皮革や革製のひもを使うこともできます。お好みにより、金属製バンドもお選びいただけます。当店では、たいていの場合、バンドを無料で交換できます。また当店はアンティーク時計用バンドの在庫が豊富ですので、時計のお買い上げ後に別のバンドを追加購入していただき、バンドの「着替え」をしていただくこともできます。





 文字盤を保護するクリスタル(英 crystal 風防)、いわゆる「ガラス」は、かまぼこ型に大きく突出しています。1950年代から 60年代の女性用時計には、現代の時計にみられないかまぼこ型クリスタルが流行していました。当時の女性用時計は文字盤が非常に小さいので、かまぼこ型クリスタルは強いカーブを描いて張り出し、あたかも透明なしずくが載っているかのように見えます。

 本品のクリスタルは、「プレクシグラス」と呼ばれる高透明度のアクリル樹脂でできています。ガラス(ミネラルガラス)でできた風防は瑕(きず)を直すことができませんが、プレクシグラスの風防は小さな瑕を磨いて取り除くことができます。本品はクリスタルが立体的で、長く愛用するとどうしても瑕が付く可能性があります。このような時計には、瑕を簡単に除去できるプレクシグラス製風防がぴったりです。





 時計において、時刻を表す刻み目や数字が配置された板状の部品を、「文字盤」(もじばん)または「文字板」(もじいた)といいます。本品の文字盤は白あるいは艶消しの明るい銀色で、四角形の各辺が外側に弧を描いて張り出す「クッション型」です。十二時の下に「ジラール=ペルゴ」(Girard Perregaux)の文字、最下部に「スイス製」(SWISS MADE)の文字が書かれています。

 文字盤はこの時計が製作された当時のオリジナルです。本品の文字盤はたいへん綺麗な状態で、アンティーク品らしい纔(わず)かな色づきが見られます。


 文字盤の周囲十二か所にある「長針五分ごと、短針一時間ごと」の数字を、「インデックス」(英 index)といいます。本品のインデックスは金色の小部品を植字した立体インデックスです。

 インデックスの様式には年代ごとの流行があります。大体の傾向として、1940年代以前の時計では、インデックスはすべてアラビア数字です。1950年代から 1960年代半ば頃までの時計では、アラビア数字とバー・インデックス(線状のインデックス)が混用されます。1960年代後半から 1970年代の時計は十二時以外のすべてがバー・インデックスです。

 本品は 1960年代前半の時計なので、十二時、三時、六時、九時はアラビア数字インデックス、他の部分はバー・インデックスとなっています。


 針はモダン型で、インデックスと同じ金色です。「モダン型」はこの時代の女性用時計で最も人気があった様式の一つです。針の幅は一ミリメートルに足りませんが、インデックスと同様に光を反射して輝き、見やすさの問題はありません。





 時計内部の機械をムーヴメント(英 movement)といいます。上の写真は本品のケースを開けてムーヴメントを取り出し、撮影しています。向かって左側に写っているのはケース裏蓋の裏側で、時計のメーカーであるジラール=ペルゴ社のマーク(G. P.)、ケースのメーカーであるシュワブ・アンド・ヴィシュパード社(Schwab & Wuischpard, New York)の刻印(S &W)、ケースの材質(10K GOLD FILLED 十金張り)、ケースの品番(150)、ケースのシリアル番号(B1948-397627)が刻印されています。尖った物で引っ搔いて刻んだ数字は、ムーヴメントの整備記録です。

 現代の金めっき(エレクトロプレート)は、電解液に浸けた金属の表面に、非常に薄い十八金や純金の層を形成したものです。これに対して本品のケースの材質である「ゴールド・フィル」(英 gold fill 金張り)は、ベース・メタルの上に金の薄板を鑞付け(ろうづけ 溶接)してあります。金張りにおける金の厚さは、現代の金めっきの数十倍に及びます。また現代の金めっきに使われる十八金や純金は、軟らかいのですぐに摩滅しますが、本品に使用されている十金は、十八金や純金に比べて格段に強く、摩耗しにくいのが特徴です。実際、本品はおよそ五十年前の時計ですが、金はまったくはがれておらず、たいへんきれいな状態です。金の色合いに関しても、十金は淡く上品なシャンパン・ゴールドですので、濃い金色が苦手な方でも抵抗なくご愛用いただけます。





 現代の時計は「クォーツ式時計」といって、電池で動くクォーツ・ムーヴメントを使っています。クォーツ式時計が普及したのは 1970年代後半以降で、それ以前の時計は電池ではなくぜんまいで動いていました。

 電池で動く時計を「クォーツ式時計」と呼ぶのに対して、ぜんまいで動く時計を「機械式時計」といいます。アンティーク時計はすべて機械式時計です。本品も機械式時計で、電池ではなくぜんまいで動きます。電池は不要なので、本品のムーヴメントには電池を入れる場所がありません。

 三時の横に突出したツマミを「竜頭」(りゅうず)といいます。上の写真で、竜頭はムーヴメントの下方(手前側)に写っています。この竜頭を指先でつまみ、回転させることで、ぜんまいを巻き上げます。

 本品に搭載されているのは、スイス製手巻きムーヴメント「ジラール=ペルゴ キャリバー 58.19」(Girard Perregaux 58.19)です。「ジラール=ペルゴ キャリバー 58.19」は「プゾー キャリバー 345」(Peseux 345)を基に、ジラール=ペルゴ社が独自のチューンナップを施した高性能機で、小さなサイズにもかかわらず、四十三時間のパワー・リザーヴ(ぜんまいを十分に巻き上げて動作する時間)を有します。そのまま放っておくと止まるので、一日一回ぜんまいを巻き上げてください。

 この時代の時計は現代の時計に比べて格段に小さく作られています。女性用時計はとりわけ華奢(きゃしゃ)で、ほとんどのモデルは現行の一円硬貨よりも小さなサイズです。一円硬貨の直径は 20ミリメートルですが、「ジラール=ペルゴ キャリバー 58.19」のサイズは 13 x 15.5ミリメートルしかありません。





 良質の機械式時計には、摩耗してはいけない部分にルビーを使います。ルビーはたいへん硬い鉱物ですので、高級時計の部品として使用されるのです。必要な部分すべてにルビーを入れると、「十七石」(じゅうななせき)のムーヴメントになります。十七石のムーヴメントは「ハイ・ジュエル・ムーヴメント」(英 a high jewel movement)と呼ばれる高級品です。本品は十七石のハイ・ジュエル・ムーヴメントで、「セヴンティーン・ジュエルズ」(英 SEVENTEEN JEWELS 十七石)の文字が刻印されています。上の写真で赤く写っているのがルビーで、一見したところ五個しか入っていないように見えますが、この写真に写っていない文字盤下の地板やムーヴメントの内部に入っていたり、箇所によって二重に入っていたりして、全部で十七個のルビ-が使われています。

 上の写真でムーヴメントの右端近くに大きな環が見えています。これは天符(てんぷ)という部品で、機械式時計の心臓に相当する調速脱進機の一部です。ほとんどの腕時計ムーヴメントは毎時一万八千振動(f = 18000 A/h)ですが、「ジラール=ペルゴ キャリバー 58.19」の天符は二万一千六百振動(f = 21600 A/h)、すなわち一秒間に三回、一時間に一万八百回の割合で、振り子のように往復する回転運動を繰り返します。これは通常の「ハイ・ジュエル・ムーヴメント」よりもさらに高い計時性能を意味します。


 ジラール=ペルゴ社は十八世紀末に起源を遡る老舗時計会社で、スイス時計産業の中心地であるラ・ショー=ド=フォンに本社を構え、現在も存続しています。同社の現行品価格は百万円台前半から五千万円台半ば、ジュネーヴ・サロンで展示する機種は一億円前後です。ジラール=ペルゴ社は 1960年代当時には独立した時計会社でしたが、現在はブシュロンやバレンシアガ、グッチ等と同じ企業グループに属しています。


 ムーヴメントの写真で、「ジラール=ペルゴ」のロゴの下に刻まれている数字は、本品のシリアル番号です。シリアル番号は七桁ですが、最初の四桁は「キャリバー 58」系ムーヴメント四機種の細かい区別(キャリバー 58, 58.09, 58.19, 58.29)を表しており、「キャリバー 58」系ムーヴメントを搭載した個々の時計の識別は、最後の三桁のみで行われています。したがって「ジラール=ペルゴ キャリバー 58」系の時計は、少なければ千個、多くても四千個しか制作されなかったことがわかります。本品の稀少性がお分かりいただけることと思います。





 同じように見える女性用アンティーク時計のムーヴメントは、たとえ同一メーカーの機械であっても、多様な種類に分かれています。時計は精密機械で、部品は千分の一ミリメートル単位で設計・製作されているため、異なる機械の部品に互換性がありません。また非常に精密な部品を、当時と同じ精度で再び製作することはほぼ不可能です。しかるにアンティーク時計のメーカーは現在まで存続していない場合が多く、たとえ存続している場合でも、何十年も前の部品を保有してはいません。それゆえアンティーク時計は、部品が壊れると修理することができません。修理に必要な交換部品が手に入らないからです。

 このような理由で、どのアンティーク店でも、時計は「現状売り」であるのが普通です。「現状売り」とは、壊れていない状態の商品をお客様に引き渡した時点で、その時計に関係するすべての取引が、将来の修理も含めて全て終了したと看做す取引方法です。要するに「現状売り」とは、「将来故障が起こっても、修理に対応しない」という意味です。

 しかしながらアンティークアナスタシアは、非常に珍しいアンティーク時計の修理対応店です。本品に関しましても、期限を切らずに将来の修理に対応いたします。「ジラール=ペルゴ キャリバー 58.19」は珍しい機械ですが、この機械の予備ムーヴメントも当店には在庫しています。





 上述したように、女性に好まれる時計のサイズは 1960年頃に極小化しました。小さな機械を作るのは、大きな機械を作るより何倍も難しいことを考えると、本品をはじめとする当時の女性用時計には、男性用時計よりも高度な技術が投入されています。

 1960年代当時、本品のように質の良い時計の価格は初任給の三か月分以上に相当しました。現代の貨幣価値でいえば、六、七十万円といったところでしょうか。クォーツ式(電池式)の安価な時計が容易に手に入る現在から見ると、昔の時計は想像もつかないほど高価な品物であったわけですが、製造後数十年経った時計でも普通に使えるという「一生もの」のクオリティを備えていたのであって、いわゆる「ブランド代」ゆえに品質に比べて価格が高すぎる商品とは事情が異なります。初任給三か月分の価格が付いた商品には、初任給三か月分の実質的な値打ちがあったのです。

 ちなみに機械式時計は現在でも作られています。高級品を紹介する雑誌などで見かける数十万円から数百万円の時計が機械式時計で、ジラール=ペルゴの時計は特に高額です。しかしながらクォーツ時計は数年の寿命で、かなり良いものでも十年余りで回路が壊れて修理不能になりますが、機械式時計は数十年以上のあいだ動く「一生もの」ですから、数十万円程度の価格であれば、品物の値打ちに比べて高価すぎるとはいえません。良質の機械式時計の「初任給数か月分」という値段は、昔も今も変わりません。


 アンティーク時計を安心してご購入いただくために、全般的な解説ページをご用意いたしました。アンティーク時計を初めて購入される方は、こちらをお読みくださいませ。

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 当店ではお客様のご希望に出来る限り柔軟に対応しております。何なりとご遠慮なくご相談くださいませ。





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電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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