アールデコ様式によるユニークなハイ・ジュエル・ウォッチ 《ブローバ マーサ・ワシントン》 ダイヤモンド二石付 二十一石の高級品 1957年


 アメリカのブローバ社が 1957年に制作した小さな女性用時計、《マーサ・ワシントン》。ユニークなデザインのケースとアラビア数字文字盤を採用し、秒針を持たないドレス・ウォッチです。二十一石のスイス製手巻ムーヴメント「ブローバ キャリバー 6BC」(オロール=ヴィルレ キャリバー 120)を搭載しています。




(上) 「マーサ・ワシントン」(1879年) アロンゾ・チャペルの肖像画に基づくエングレーヴィング


 本品のモデル名である「マーサ・ワシントン」(Martha Washington)は、アメリカ合衆国初代大統領であるジョージ・ワシントンの夫人の名前です。マーサがジョージ・ワシントンと結婚したのは 1759年ですから、本品が製作された 1957年は、ワシントン夫妻の結婚二百周年に向けて関心が高まりつつあった時代に当たります。華やかにデザインされた本品が「マーサ・ワシントン」と名付けられたのは、このような時代背景のためでしょう。





 本品のデザインは、アールデコ様式によります。「アール・デコ」(art déco フランス語で「装飾美術」の意)とは二十世紀前半における美術工芸及び建築の一様式で、幾何学図形を多用する左右対称の形が特徴です。 アール・デコの全盛期は 1920年代から 1940年代ですが、時計の世界ではもう少し後の時代まで続けて愛用されました。本品の意匠もアール・デコ様式によるもので、時計の十二時側と六時側にあるバンドの取り付け部分に、大きな円盤をあしらっています。

 円盤は一粒づつのメレ・ダイヤモンドを中心に、放射状に発出する彫金状装飾が施され、マーガレットの花のようにも、輝く太陽のようにも見えます。現代のダイヤモンドはブリリアント・カットですが、この当時のダイヤモンドは現在ではほとんど見られなくなったシングル・カットです。ダイヤモンドは二石ともきちんとベゼル・セット(覆輪留め)されています。





 時計内部の機械を「ムーヴメント」(英 movement)、ムーヴメントを保護する金属製の容器(時計の外側)を「ケース」(英 case)といいます。本品のケースは10カラット・ロールド・ゴールド・プレート 、つまり 10カラット・ゴールドの薄板を、丈夫な金属に鑞(ろう)付けしたものでできています。エレクトロ・ゴールド・プレート(現代の金めっき)に比べると、昔のロールド・ゴールド・プレートは格段に分厚いので、摩耗に強く、見た目にも高級感があります。本品のケースに張られている金は10カラット・ゴールド(純度 10/24のゴールド)ですので、金そのものにも十分な強度があります。





 上の写真はケースの裏蓋側で、"10K ROLLED GOLD PLATE"(10カラット・ロールド・ゴールド・プレート)、"BULOVA L7"(ブローバ 1957年)、及びケースのシリアル番号の刻印があります。金の磨滅、裏蓋の歪み等、特筆すべき問題は何もありません。

 ぜんまいを巻いたり時刻を合わせたりする際のツマミを、竜頭(りゅうず)といいます。アンティーク時計は毎日ぜんまいを巻く必要がありますので、竜頭が摩耗していることがよくありますが、本品の竜頭は良い状態です。竜頭には「ブローバ」(BULOVA)のロゴが刻印されています。





 時刻を表す刻み目や数字が配置された板状の部品を「文字盤」、文字盤の周囲十二か所にある「長針五分ごと、短針一時間ごと」の数字を「インデックス」(英 index)といいます。本品の文字盤は半艶消しのライト・シルバーで、経年による軽度の変色、ごく小さなきずがありますが、六十年前のアンティーク・ウォッチとしては十分に綺麗な状態です。インデックスは銀色の小部品を植字した立体インデックスで、偶数の時刻はアラビア数字、奇数の時刻は低いピラミッドで印づけられています。アラビア数字と幾何学図形が交替するインデックスは、1950年代に作られた時計の特徴です。

 文字盤の上部には「ブローバ」(BULOVA)のロゴ、下部には「ファイヴ・アジャストメンツ」(FIVE ADJUSTMENTS)の文字が書かれています。「ファイヴ・アジャストメンツ」というのはムーヴメントの作りに関する専門用語で、ぜんまいの残量、高温と低温、二種類の姿勢差(文字盤が上、九時が上)が歩度(ほど 時計の進み方)に影響しないように、特に配慮して作ってあるという意味です。簡単に言えば、本品のムーヴメントは普通の時計以上に高級な作りになっています。





 バンドを取り付けるための突起を「ラグ」(英 lugs)といいます。現代の女性用時計は昔の男性用時計に相当するサイズで、十二時側と六時側に二本ずつのラグが突出し、「ばね棒」と呼ばれる部品を使って、革や金属でできた幅広のバンドを取り付けるようになっています。しかしながら 1930年代から1970年代頃までの女性用時計は一円硬貨よりも小さなサイズですので、ラグは十二時側と六時側に一本ずつ突出し、写真に写っているコード・バンドをはじめ、細いバンドを引っ掛けるように取り付ける仕組みになっています。このような方式を「センター・ラグ式」といいます。

 時計会社はバンドを作っていません。アンティーク時計とバンドの組み合わせに必然性は無く、以前の所有者が自分のサイズや好みに合ったものを付けているというだけのことです。したがってアンティーク時計のバンドに関して、「オリジナル」にこだわる必要はまったくありません。バンドは消耗品ですので、傷んでいれば取り替える必要がありますし、当時のバンドが使える状態で残っている場合でも、自分のサイズや好みに合わなければ取り替えて構いません。

 バンドには金属製のものもありますが、バンドの色が時計のケースと同じだと、ラグが可愛い形をしていても、せっかくのデザインが目立たなくなってしまいます。本品は非常に特徴的なラグがチャーム・ポイントですから、黒いコード・バンド(紐のバンド)を取り付けました。コード・バンドは使い慣れないうちは着脱の操作が少し面倒ですが、金属製バンドよりも高級感があり、小さな時計を引き立ててくれます。コード・バンドは慣れればスムーズに着脱できるようになります。コード・バンドを使いこなせるかどうか不安で、金属製バンドを好まれる場合は、お買い上げ時、あるいはお買い上げ後のいつでも容易に変更できますので、どうぞご安心ください。





 1950年代は、1970年代と並んで、個性的な時計デザインが花開いた時代です。本品はラグにユニークな円盤状装飾を有することに加え、風防(いわゆる「ガラス」)も他に類のない形状です。本品に元々付いていた風防にはキズがあったので、当店にてこの風防を取り付けました。

 この風防を含めて測った本品の厚みはおよそ九ミリメートルです。九ミリメートルという厚みは現代の時計に比べるとむしろ薄いですが、時計のサイズが小さいために厚みが目立って、コロコロと愛らしいジュエリーのようです。





 この風防(CS1161, 11.6 X 11.6 mm)は 1950年代当時のプレクシグラス(アクリル)製デッドストック品で、ブローバ用です。CS1161 は一見したところ角ばって見えますが、尖った角は一切無いので、肌を引っ掻いて怪我することはありません。





 アンティーク時計の風防は現在では手に入らないので、紛失や破損の場合にはあきらめなければならないことがほとんどです。しかしながら当店はアンティーク時計用風防の品揃えが充実しており、時計を安心してお使いいただけます。上の写真はやはりブローバ用の風防(風防(CS1165, 11.6 X 11.6 mm)で、かまぼこ型ドームの形状です。お好みにより、この風防に無料で取り換え可能です。





 上の写真も同時代、同サイズの風防で、縦の中央線が稜線となったユニークな形状です。お好みにより、こちらの風防にも無料で取り換えできます。





 本品のムーヴメント(時計内部の機械)は、電池ではなくぜんまいで動いています。本品のようにぜんまいで動く時計を「機械式時計」といいます。良質の機械式時計には、摩耗してはいけない部分にルビーを使います。ルビーはたいへん硬い鉱物ですので、高級時計の部品として使用されるのです。必要な部分すべてにルビーを入れると、「十七石」(じゅうななせき)のムーヴメントになります。十七石のムーヴメントは「ハイ・ジュエル・ムーヴメント」(英 high jewel movement)と呼ばれる高級品です。





 上の写真は本品を一円硬貨と並べて撮影しています。本品のムーヴメントには「トウェンティ・ワン・ジュエルズ」(21 JEWELS 二十一石)、「アメリカ合衆国」(U.S.A.)、「ブローバ・ウォッチ・カンパニー」(BULOVA WATCH Co. ブローバ時計会社)等の刻印があります。機械式ムーヴメントは十七石あれば必要な個所すべてにルビーが入った高級品ですが、ブローバ社は本品に四個のルビーを追加し、「二十一石」の最高級ムーヴメントに改造しています。写真に赤く写っているのがルビーで、五個しか入っていないように見えますが、この写真に写っていない文字盤下の地板やムーヴメントの内部に入っていたり、箇所によって二重に入っていたりして、全部で二十一個のルビ-が使われています。





 竜頭付近に直径一ミリメートル足らずのくぼみがあって、その中に "L6" と刻印されています。"L6" はブローバ社のデイト・コードで、本機が1956年に製作されたことを示します。ケースには 1957年を示す "L7" の刻印がありましたから、ムーヴメントの方が先に作られたことがわかります。

 長方形の枠に囲まれた文字(6BC)は、ムーヴメントの機種名(キャリバー名)です。「ブローバ キャリバー 6BC」は、スイスのオロール=ヴィルレ社(またはベルノワーズ社 Fabrique d'ébauches Bernoises S.A. établissement AURORE Villeret)の「キャリバー 120」を元に製作した機械で、6.75 x 8 リーニュ、毎時 18,000振動 (f = 18000 A/h)、パワー・リザーヴ 40時間の手巻きムーヴメントです。

 オロール=ヴィルレ社はエボーシュ(ébauche フランス語で「素地」「下描き」等の意)の専門メーカーで、ブローバ社はこの会社からエボーシュ(ムーヴメントの半完成品)を買って調速脱進機を取り付け、「ブローバ キャリバー 6BC」を完成しています。ロレックス社もまったく同じ機械 (AV cal. 120) を採用し、そのまま十七石ムーヴメントとして使用していますが、「ブローバ キャリバー 6BC」は三番車受け側、四番車受け側、ガンギ車受け側、アンクル地板側の計四か所にルビー製部品(受け石)を追加しており、ロレックスに比べて格段に上質の機械に仕上がっています。





 上の写真は 1960年代のブローバ社の広告で、「ブローバの時計を一つ作るのに九か月かかる」(It takes nine months to make a Bulova watch.) と書かれています。実際には安価な時計であれば給与二か月分程度で売られていたので、この広告の意味は、もしもひとりの職人が時計全体を作ったとすれば九か月かかるということでしょう。現代の独立時計師は実際に数か月の時間をかけてひとつの時計を作りますから、数百万円から一千万円以上の価格になっています。

 1957年の女性用時計は一円硬貨よりも小さなサイズですから、男性用時計よりもさらに高度な技術で制作されています。1957年当時、ハイ・ジュエルの宝飾時計である本品の価格は、初任給の三か月分以上に相当しました。現在の貨幣価値に換算すれば、六十万円位でしょうか。良質の時計はたいへん高価であったわけですが、しかしながらこれは「ブランド代」ではなくて、「一生もの」と呼べるだけの内実、実質的価値を伴っていました。ムーヴメントにルビー製部品を多用するのも、優れた耐久性と長寿命を確保するためです。





 アンティーク時計はこのように優れた品質を有しますが、修理に必要な部品が手に入らないという重大な欠点があります。すなわちアンティーク時計はメーカー自体が無くなっている場合も多いですし、たとえメーカーが存続していても、数十年も前の部品は既に廃棄されていて、メーカーには在庫していません。したがってアンティーク時計はどこの店でも原則的に「現状売り」で、壊れても修理ができません。しかしながらアンティークアナスタシアでは他店で不可能な修理に対応しています。詳しくはこちらをご覧ください。

 当店にはアンティーク時計のアクセサリ(バンド等の付属品)が豊富に揃っておりますので、風防交換や竜頭交換、バンド交換、バンドの変更も可能です。私はコード・バンドが高級感があって好きなので、写真撮影にもこのタイプのバンドを取り付けましたが、お好みにより金属製バンドに変更することもできます。バンド交換はほとんどの場合無料で承ります。





 この時計は当時の箱と組み合わせることもできます。箱は別売りですが、時計をお買い上げいただいた方には割引価格にてご提供いたします。

 時計は無料でオーバーホール(分解掃除)をした後にお渡しいたします。お買い上げ後も期限を切らずに修理に対応しますので、日々安心してご愛用いただけます。お支払方法は現金一括払い、ご来店時のクレジットカード払いのほか、現金の分割払いでもご購入いただけます。当店ではお客様のご希望に出来る限り柔軟に対応しております。ご遠慮なくご相談くださいませ。





147,000円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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