佐藤 恵美 メゾチント 「おはなし」 Emi Sato, "chit-chat", 189 x 156 mm, mezzotint on paper


印画(版画の画面)のサイズ  縦 189 x 横 156 mm

サポート(版画を刷ってある紙)のおおよそのサイズ  縦 26 x 横 23 cm



 出目金を眺める猫のメゾチント。猫も金魚も写実的ですが、おとぎ話のように面白い雰囲気の作品です。





 われわれ哺乳動物のカメラ眼は瞳孔反射を有し、明暗に応じて瞳孔の大きさが変わります。特に猫の網膜には桿体細胞が多く、光に極めて敏感です。そのため明るい場所に出ると、猫の目は瞳孔が糸のように細くなり、虹彩の色が美しく目立ちます。「猫の目のように変わりやすい」という表現は、猫の目が有する調節機構の見事さを表しています。

 しかるに哺乳動物の瞳孔は暗い場所で開くだけでなく、関心があるものを見つめるときにも瞳孔が開きます。愛する異性を見つめる人は黒目がちになりますし、遊びに夢中な子猫は瞳孔が開いて円い目をしています。虹彩の面積が広がった猫の目は美しいですが、何かに興味を惹かれて瞳が円く大きく開いた表情も、たいへん可愛い猫の魅力の一つです。


 魚や両生類など水棲生物の場合、角膜の屈折率は水とほとんど変わらないので、合焦(がっしょう)は水晶体を変化させて行います。魚の場合、遠くを見るときは水晶体を後方に移動させますが、ふだんは近距離に焦点が合っています。これに対して猫は人間と同様に、角膜と水晶体の曲率を変えることで目の焦点を合わせています。しかるに猫と人間は、合焦の仕組みは同じですが、猫は水晶体の曲率を人間ほど容易に変えられませんし、錐体細胞が人間ほど多くありません。ですから人間と比べると、特に明るい場所において、猫は至近距離にある物をはっきり見ることができません。





 本作品「おはなし」の金魚は、たったいま水面で餌を採ったのか、口から幾つかの泡を吐き出しています。金魚も眠っていませんし、幼い子どもと思われる猫も眠っていませんから、これは昼間の光景と思われます。子猫の瞳孔が開いているのは、金魚に興味があるからでしょう。しかしながらこのような至近距離では、魚の目は猫をはっきりと捉えていますが、猫には金魚がぼんやりとしか見えていないはずです。そのことを分かったうえで鑑賞すると、この作品はどこかユーモラスです。子猫は出目金を遊びたいのですが、金魚は子猫を相手にせず、餌を食べて寛いでいます。猫を恐れる様子もありません。

 ―― と、筆者(広川)はこの作品を一旦そのように解釈したのですが、別の解釈もあり得ます。魚の口から泡が出ているのは、水面の餌を食べたときに口に空気が入ったというような即物的描写ではなくて、子猫と魚のおしゃべりを目に見える形で表現しているのかもしれません。実際に猫を拡大してみると、子猫の両目には出目金が映っています。硬骨魚類と哺乳類の目の構造や合焦の距離などは、おそらく版画家の関心の埒外にあります。「おしゃべり」と名付けられたこの作品は、ファンタジーを描いたお伽話、猫の草紙なのでしょう。





 「おしゃべり」のサポート(用紙)全体のサイズは、余白を含めておよそ 26 x 23センチメートルです。写真に写っている額は太子サイズ(378 x 287 mm)です。ご注文いただいた時点で写真の額が在庫していない場合、同等クラスの他の額をご用意いたします。

 当店ではお客様のお好みに合わせまして、額の変更、マットの変更のご相談に応じます。上の写真に写っている額の色はダーク・グリーンと艶消しの金色で、マットには黒のベルベットを張っています。マットは黒色ベルベット張りの他、ワイン・レッド、若草色、菫色がかったブルー、明るいベージュのベルベットを張ったマット、及びベルベットを張らない白色マットまたはカラー・マットも、同価格にてご用意できます。この額を使用する場合、額、マット、工賃を含む額装済み本体価格は 35,800円です。





電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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