アンリ・ドロプシによる佳作 そしてふたりは思い出を慈(いつく)しむ 夫婦愛のメダイユ ブロンズ製


メダイユのサイズ 72.1 x 65.1 mm  厚さ 最大 5.7 mm  重量 163.9 g

フランス  1920 - 30年代



 昔の良き思い出に浸る夫婦を描いたブロンズ製メダイユ。柔らかい温かさが画面全体に溢れます。優れたものが多いフランスのメダイユのなかでも、とりわけ美しい作品群で知られる彫刻家アンリ・ドロプシ (Henri Dropsy, 1885 - 1969) が手掛けた名品です。





 画面左側で身を寄せ合う男女は40代から50代くらいに見えますが、このメダイユが制作された頃は結婚も早かったので、仮に50歳としても、結婚して25年、30年、あるいはそれ以上の年月が経っているはずです。男性はがっしりとした体格で肉も落ちず、女性の容色にもさして衰えはありませんが、50歳が老人と看做されていたこの時代、ふたりは人生の追憶に浸る時期を迎えているのでしょう。

 画面右側で、後ろ姿を見せて歩み去る若い男女は、左側の夫婦が若かったころの姿です。ふたりを取り巻く緑の草や木々は若い生命力の象徴であり、草や木の葉をざわつかせて吹き抜ける風は、矢のごとく過ぎ去る年月を象徴的に表しています。

 右側の若い二人が自然の中の小道を歩いてゆくのに対し、左側の夫婦はどっしりとした石造りの建物を背景にしています。ひとつひとつの石材を積み上げて築かれたこの建物は、夫婦の愛情が揺るぎない物となっていることを象徴的に表しています。メダイユの下部には次の言葉がラテン語で記されています。

  ET AMANT MEMINISSE...   そしてふたりは思い出を慈(いつく)しむ





 これはホラティウス (Quintus Horatius Flaccus, B.C. 65 - B.C. 8)による六歩格の詩句を少し変えて引用したもので、元の形は次の通りです。

  INDOCTI DISCANT, ET AMENT MEMINISSE PERITI.  学の無い者は学ぶがよい。既に学を修めた者は思い出して楽しむがよい。(註)

 ホラティウスの原文では "DISCANT" "AMENT" は接続法になっています。ラテン語の接続法はギリシア語の希求法、フランス語の接続法と同様に、こうなってほしい、こうであれ、と願われる事柄を表します。ドロプシのメダイユでは、男女が実際に追憶に浸っている場面を浮き彫りにしていますから、接続法 "AMENT" は、直説法 "AMANT" に置き換えられています。

 ただしメダイユに刻まれた語句が引用である限り、ホラティウスによる元の文章を含意します。上で「既に学を修めた者」と訳した "PERITI" は、何かの中を通ってゆく、と言う意味の動詞 "PEREO" の完了分詞(男性複数主格)を名詞として用いたもので、「中を通って来た人たち」が原意です。つまり老境に差し掛かったメダイユの夫婦は、未だ学ばざる者であった若者時代から喜怒哀楽を共にし、幾星霜を通り過ぎた人たちであって、いまは心静かに、共に過ごした年月の追憶に浸っているのです。





 メダイの縁近く、画面の向かって左下に、メダイユ彫刻家アンリ・ドロプシ (Henri Dropsy, 1885 - 1969) の署名が刻まれています。アンリ・ドロプシは、同じくメダイユ彫刻家であったジャン=バティスト・エミール・ドロプシ (Jean-Baptiste Émile Dropsy, 1848 - 1923) の息子です。1908年のローマ賞メダイユ部門で二等を獲得し、1911年にパリ高等美術学校 (l'École Nationale Supérieure des Beaux-arts, ENSB-A) を卒業しました。ル・サロン展において、1914年に銀メダル、1921年に金メダル、1929年に名誉賞を受章しています。1930年以降、パリ高等美術学校のメダイユ彫刻科教授を長年に亙って務め、1942年にはルイ=アレクサンドル・ボテ (Louis-Alexandre Bottée, 1852 - 1940) のあとを襲って芸術アカデミー (l'Académie des Beaux-Arts) 会員に選ばれました。1948年から49年にかけてはカイロの美術学校でも教鞭を執っています。



 メダイユの裏面には、蔦(つた)、薔薇、箙(えびら)に入った矢、弓が浮き彫りにされています。蔦は夫婦の愛と貞淑さ、不死と永遠の象徴です。薔薇クピドーの弓矢も愛を象徴します。





 メダイユの縁には銅またはブロンズ製であることを示す三角形のホールマーク、及び「ブロンズ」(BRONZE) の刻印があります。



 メダイユのコンディションは良好で、特筆すべき大きな瑕疵(かし 欠点)はありません。ご希望により、別料金にてメダイユを額装いたします。額装料金は使用する額によって異なります。





メダイユの価格 48,000円 (税込・額装別)

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




註 フランスの歴史家エノー (Charles-Jean-François Hénault d'Armorezan, dit le président Hénault, 1685 - 1770) は、著書「ルイ14世薨去までのフランス史年代記」("Abrégé chronologique de l'histoire de France jusqu'à la mort de Louis XIV", 1744) 巻頭の題辞として、この詩句を引用しています。

 またイギリスの詩人アレクサンダー・ポープ (Alexander Pope, 1688 - 1744) は、「批評論」("Essay on Criticism", 1711) の第三部180行でこの詩句を英訳して引用しています。ポープの訳は次の通りです。

  Content if hence th' unlearn'd their wants may view, / The learn'd reflect on what before they knew.





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