稀少品 花の復讐
The Revenge of the
Flowers
フォトグラヴュア 1880年代
原画の作者 ギュスターヴ・ヴェルトハイマー (Gustave Wertheimer, 1847 - 1904)
画面サイズ 縦 175 mm 横 256 mm
絵が最も劇的な効果を持つのは美と醜、善と悪など両極に位置するものが描かれる場合でしょう。この絵は美しい花と毒蛇、無防備な眠りと一方的に襲いかかろうとする悪意を描き、見る者の想像力を掻き立てます。
絵の表題は「花の復讐」。眠れる少女は甘い夢を見ているのでしょう。ベッドサイドに飾った美しい花束の夢かもしれません。少女の愛らしい口許にはかすかな微笑が浮かんでいます。純白のドレスを着た彼女の無防備な眠りは、無垢な純粋さそのもののように思えます。
それなのに花はいったいなぜ彼女に復讐しようとしているのでしょうか。彼女の美しさを妬んでいるのでしょうか。花の悪意の化身である毒蛇は、美しくかぐわしい花の姿とはあまりにも対照的です。
少女の白い肌と純白のドレス、ベッドの白いリネン、明るい色の花。これらがすべて、まるで光の投影を受けているかのように暗い背景に浮かび上がっています。これはキアロスクーロ(chiaroscuro)という技法です。キアロスクーロはイタリア語で「明暗」という意味で、光の投影が生み出す階調差によって空間の三次元性をより効果的に表現するとともに、絵画に劇的な効果を与える技法です。この技法で有名なのはレオナルド・ダ・ヴィンチ(Leonard
da Vinci 1452-1519)、カラヴァッジオ(Caravaggio 1573-1610)、レンブラント(Rembrandt Harmenszoon
van Rijn 1606-1669)などです。また私がもっとも好きな画家ジョルジュ・ド・ラ・トゥール(Georges de la Tour
1593-1652)もキアロスクーロを多用しています。
ギュスターヴ・ヴェルトハイマーはウィーンに生まれた画家で、パリ・サロン展に多数の作品を出展しています。ロマン派の悲劇的な画題を好み、「セイレーンの接吻」という作品では美しい人魚と口づけを交わしながら水底深く沈んでゆく船乗りを描いています。
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参考画像 キアロスクーロの作品例
(上) カラヴァッジオ 「聖ペテロの磔刑」 サンタ・マリア・デル・ポポロ教会蔵
(上) レンブラント 「放蕩息子の帰還」 エルミタージュ美術館蔵
(上) ジョルジュ・ド・ラ・トゥール 「大工ヨセフ」 ルーヴル美術館蔵