ユリウス・ベンツール作 「ヴェルサイユ襲撃時のルイ十六世と家族」 ヴェルサイユ宮最後の日のフォトグラヴュア 1890年代

Louis XVI and His Family during the Storm at Versailles


原画の作者 ユリウス・ベンツール (Julius Benczur, 1844 - 1920)


画面サイズ  縦 171 mm  横 252 mm



 ヨーロッパのそれぞれ都市には固有の紋章があります。パリ市の紋章は円形の中心に一隻の帆船が描かれ、その周囲にラテン語で "FLUCTUAT NEC MERGITUR"(たゆたえども沈まず)という銘が記されています。この紋章は中世の水運業組合の印章に由来しています。

 意外に思われるかもしれませんが、パリは港町であり、マルセイユ、ル・アーブルに次ぐフランス第三の商港です。セーヌをさかのぼればブルゴーニュ、下ればノルマンディーを抜けてル・アーヴルに出ます。パリはその紋章が示すようにセーヌの水運業とともに発展し、セーヌによって生きてきた都市なのです。

  パリ市章

 1788年から1789年にかけての冬、北フランスは厳冬に見舞われました。セーヌはル・アーブルからパリまで氷結し、小麦も薪炭も運べなくなりました。パリの都市機能はたちまちストップし、民衆は飢えました。この半年後にバスティーユ襲撃が起こります。

 当時の国王ルイ十六世はパリから離れたヴェルサイユに住んでいました。ヴェルサイユ宮はパリ市民を恐れ、また狩猟好きであったルイ十四世が森の中に作らせた理想の宮殿です。しかしパリ市民は国王一家がヴェルサイユにいることを許さず、1789年10月5日、女性を中心に数千人のパリ市民がヴェルサイユ宮に押しかけて、翌6日に国王一家をテュイルリー宮に連れ戻しました。これが「ヴェルサイユ行進」といわれる事件です。


 ヴェルサイユ宮に乱入した民衆が国王と王妃を探します。衛兵は間一髪のところでマリー・アントワネットを救出し、国王が隠れている部屋に退避させました。

 「国王よ。パリへ!」と叫びながらドアを突破しようとする民衆。叫び声。物が壊れる音。今にも打ち破られそうになるドアを衛兵たちが必死で押さえています。険しい表情のルイ十六世。パレ・ロワイヤルから二度も逃げ出したルイ十四世のことが頭に浮かんだでしょう。

 この日パリに連行された国王一家がヴェルサイユ宮に戻ることは二度とありませんでした。また革命後の王と皇帝たち、ナポレオン一世、ルイ十八世、シャルル十世、ルイ=フィリップ、ナポレオン三世はいずれもテュイルリー宮に住みました。ヴェルサイユ宮は、この日、王宮としての役割を永遠に終えたのでした。


《本品について》

 本品は 本品はペンシルヴェニア州フィラデルフィアのゲビーー社(Gebbie & Co, Philadelphia)が制作したフォトグラヴュール(仏 photogravure)です。

 フランス語「フォトグラヴュール」、英語「フォトグラヴュア」は、わが国でいう「グラビア」(フォトグラビア)と同じ言葉です。しかしながら「グラビア」が実際には輪転機による産業的オフセット印刷であるのに対し、アンティーク・フォトグラヴュア(古典的フォトグラヴュール)は手作業で製版を行う平版であり、両者はまったく異なります。本品はフォトグラヴュールの長所を最大限に活かしつつ、この技法の弱点を版画家の手作業で補って、版画作品としての完成度を最高度に高めています。





 古典的フォトグラヴュールの第一の長所は、細密性です。上の写真は本品の一部を拡大して撮影したものです。これほどまでに拡大すると、現代に「グラビア」では網点が大きく写りますが、古典的フォトグラヴュールにはもともと網点が存在せず、画像のテクスチャは無段階の滑らかさで再現されます。本品に描かれた一人ひとりの顔には、生き生きとした表情が再現されています。

 古典的フォトグラヴュールの第二の長所は、明暗の再現性です。フォトグラヴュールは金属の平版を用いる版画技法で、写真の原理を応用したものですが、明度を無段階に表現する再現性は、写真よりもはるかに優れています。技術的に未発達であった十九世紀の写真は言うに及ばず、デジタルカメラによる現代の写真においても、極端に明るい部分や暗い部分は写真でうまく再現できません。明るい部分は真っ白に色が飛び、暗い部分は真っ黒に潰れてしまいます。これに対してフォトグラヴュールは明暗の階調を、肉眼で見えるとおりに、無段階的に正確に再現します。





 このように、フォトグラヴュールは極めて優れた版画技法であり、描写の細密さ、及び明暗の再現の正確において並ぶものがありません。唯一の弱点は、色相の区別です。フォトグラヴュールは単色の版画であるゆえに、色相の違いを表現できません。分かりやすい事例を引けば、隣り合う二色の明度が同じであれば、色相が全く異なっていても、色の境界を判別できないのです。

 それゆえフォトグラヴュールは、写真の原理による版画ではあっても、写真のように機械的に制作することはできず、エングレーヴィングエッチングメゾティント等の技法を部分的に混用し、手作業による大幅な修正を版に加えて、単色版画ゆえの弱点を補う必要があります。

 上の写真は本品の一部で、横四センチメートル、縦三センチメートルの範囲を拡大して撮影しています。絵の立体感が原画をいっそう忠実に再現するために、衣の暗部や襞の部分に彫刻刀が適用され、精密なエングレーヴィングの補助線が描かれています。影の輪郭をぼかしたい部分、たとえば少女の真下あたりに見えている国王の白い袖には、メゾティントのロッカーが弱い力で適用されて、面の明度をわずかに落としています。


《額装について》




 版画は未額装のシートとしてお買い上げいただくことも可能ですが、当店では無酸のマットと無酸の挿間紙を使用し、美術館水準の保存額装を提供しています。上の写真は額装例で、外寸 40 x 31センチメートルの木製額に、青色ヴェルヴェットを張った無酸マットを使用しています。この額装の価格は 24,800円です。

 額の色やデザインを変更したり、マットを替えたりすることも可能です。無酸マットに張るヴェルヴェットは赤や青、ベージュ等に変更できますし、ヴェルヴェットを張らずに白や各色の無酸カラー・マットを使うこともできます。


 版画を初めて購入される方のために、版画が有する価値を解説いたしました。このリンクをクリックしてお読みください。





フォトグラヴュールの本体価格 28,800円 (額装別)

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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